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「フレンド・オア・フォー?」〜国立アメリカ空軍博物館

2024-05-11 | 航空機

国立アメリカ空軍博物館の展示より、
第二次世界大戦時の爆撃機を中心にお話ししてきました。



前回はその戦いに命を捧げた人々と任務を取り上げましたが、
そこに名誉メダル受賞者を受けた下の二人のコーナーがありました。



スタッフサージャント、メイナード『スナッフィー』スミス(左)と
同じくアーチボルド・マティエスの二人です。

■一人で乗員全員を救出
メイナード・ハリソン『スナッフィー』スミス軍曹
SSgt Maynard Harrison ”Snuffy" Smith

アメリカにもその時代の流行りの名前があります。

最近は、男の子ならリアム、ノア、オリバー、ジェームズ、エリジャ、
女の子ならオリヴィア、エマ、シャーロット、アメリア、ソフィア、
こんな感じがトップ5ですが、逆にどうも古臭い、と感じる名前もあります。

思い出したので余談なんですが、この人の「メイナード」という名前は
現代には完全にアウトオブデートでイケテナイみたいです。

あるドラマで、主人公の夫が、生まれてくる子供に
どうしても祖父の名前であるメイナードをつけたいというのですが、
妻はこの名前が古臭くて大嫌い。
結局妥協して通名はイニシャル「MJ」になったという話がありました。

流行りの名前は当時のポップカルチャーやイベントの影響を受けるので
「メイナード」は南北戦争時の銃のせいで流行った頃があったのでしょう。

さて、そのメイナード・スミスがなぜ勲章を受けたかといいますと。


1943年5月、彼がボール砲塔砲手として乗り組んだ爆撃任務で
ブレスト上空を飛んでいた爆撃機が対空砲火を受け、火災が発生しました。

スミス二等軍曹は、電源を喪失したボール砲塔からすぐさま飛び出し、
重傷を負った乗員2名を手当てしながら機関銃を撃ち、加えて、
消火のために燃えている破片と弾薬を外に放り出しながら消火器を使い、
消火器が無くなると最後には放尿によって火を消そうと試みました。

飛行機はイングランドにたどりつき、着陸した途端真っ二つに裂けました。
後で調べたら機体に3,500以上の弾丸と対空砲の破片が命中していました。


火災に関しては、ほとんど彼一人の働きで、乗員全員が助かったのです。

この大活躍で、スティムソンから直々に勲章をもらったわけですが、
同じ週、彼は説明会に遅刻したため、罰として
KPポリス(厨房の雑用、芋むきとか)をさせられている真っ最中でした。

しかもその後、彼はPTSDのせいで職務成績不振となり、何をやらかしたか、
兵曹から二等兵に降格、さらに永久追放(不名誉除隊)になりました。

ただ幸いにも、故郷では英雄としてパレードで歓迎され、
軍の悪口をいいながらフロリダで静かに晩年を過ごし、
最終的にはアーリントン国立墓地で永遠の眠りについています。



■ 我が身の危険を顧みず・・・

アーチーボルド・マティーズ兵曹(上段左端)
SSgt Archibald Mathies
ナビゲーター:ウォルター・トゥルンパー少尉(下段右から二人目)
2/ LT Walter Edward Truemper
機長:クラレンス・ネルソン中尉(下段左端)

1/LT Clarence R. Nelson

名前について書いたので流れでいうと、この「アーチーボルド」。
メイナードもたいがい?ですが、こちらもなかなかな気がします。
事実、この名前がアメリカで人気があったのは19世紀後半で、
名前ランキングのある情報によると、


「20世紀初頭には急速に廃れ、1920年にはランク1,000以下だった」

彼が生まれたのは1918年ということですが、スコットランド移民だった
彼の両親は、アメリカの流行がわかっていなかったのかもしれません。


アーチーボルド・マティーズ二等軍曹

は、戦死後その勇敢な行動に対し名誉勲章を授けられました。

1944年2月20日、ライプチヒ攻撃のため搭乗したB-17、
愛称「テン・ホースパワー」の操縦席が対空砲と戦闘機の攻撃を受け、

その結果副操縦士が死亡、機長は重傷を負います。

そこでマティーズはナビゲーター、トゥルンパー少尉と二人で

故障した機を帰投させ、基地管制塔と連絡を取るところまでこぎつけました。


ウォルター・トゥルンパー少尉

ただちに基地司令からの命令で、全員がベイルアウトを命じられました。
しかしマティーズとトゥルンパー少尉は、

「重傷の機長がまだ残っていて、見捨ててはいけないから、
基地に機体の着陸を試みさせてほしい」

と懇願します。

司令は経験の浅い二人では損傷した機を着陸させることはできないと判断し、
飛行機(と瀕死の機長の命)を諦めて脱出することを命令しました。


トロッコ問題ではありませんが、司令はこのとき、
瀕死の一人と二人の命を明らかに天秤にかけ、後者を選んだのです。

いや、確率で言うなら、一人諦めるか三人とも死ぬかの状況において、
限りなく後者の方が可能性が高いと判断したのでしょう。

しかし、マティーズと少尉は着陸を強硬に主張しました。

苦渋の決断で司令は着陸許可を出し、飛行機は3度着陸を試みますが、
最終的に(滑走路にではなく)空き地に墜落し、
マティーズ軍曹とトゥルンパー少尉は二人とも死亡
しました。

負傷した機長は墜落の時にはまだ生存していましたが、
その後病院で死亡したので3名全員が亡くなったことになります。


左上から、ネルソン中尉、トゥルンパー少尉、
マティアス軍曹(バックは墜落した機体)

「時間がなくなり、日の光が薄れ、
アーチー・マシーズの持久力はすでに妥当なレベルを遥かに超えていた。」

「大佐の目にも生還の希望が薄れつつあることがますます明らかになった。
大佐は管制塔を通してウォルター・トゥルンパーに爆撃機を海に向けさせ、
自動操縦に切り替え、2人にパラシュートで降下するように指示した。」

「マシーズもトゥルンパーも、その命令の意味を十分に理解していた。
しかし自らの極限状況にも関わらず、二人とも自分たちが助かるために
ネルソン中尉の生存の可能性を放棄する気はなかった。」

「遂に司令はテン・ホースパワーに再び着陸を試みる許可を無線で送る。」

「機体は突然左に方向転換し、大きく急降下して管制塔を通り過ぎた。
着陸しようとして、赤いフレアを発射した。
そして1マイルほど離れた野原に向った。

航空機は17時00分にわずかに機首を下げた姿勢で
時速200マイルの速度で衝突し、地面に沿って50ヤード以上滑った後、
土の山に衝突し、クラッシュした。

「この時のテン・ホースパワーの墜落で生き残ったのは 1 人だけだった。
救助隊が到着したとき、クラレンス ネルソン中尉はまだ息をしていた。

彼はその夜遅くに病院で亡くなったのだが、
アーチー・マシーズとウォルター・トゥルンパーは、
最愛の指揮官を、ともかくも生きて帰国させることには成功したのだ」

このコーナーではマティーズ軍曹だけが強調されていますが、もちろん、
25歳で亡くなったトゥルンパー少尉もパープルハートを授与されています。


appleTV制作の「マスター・オブ・ザ・エアー」第3話には、
この件を彷彿とさせるエピソードがあります。

レーベンスブルグ攻撃に出た機が撃破され墜落していく中、副操縦士が被弾。

死んだものと思って全員ベイルアウトをしようとしたとき、
副機長は生きていて虫の息をしていることがわかり、機長は脱出を拒み、
全員を脱出させ、一人操縦席に残って空き地に不時着を試みます。

しかし、無事に草地に着陸したと思われた機体は大きくバウンドし、
その先の低地に機首から突っ込んで大破炎上するのです。

機長の最後の言葉は、

「Oh, God.」(『まずい』と翻訳されていた)

でした。



■ 「フレンド・オア・フォー?」


砲手は一瞬の判断で発砲するかどうかを決定しなければなりません。

しかし距離が長かったり、角度によっては、
戦闘機が敵か味方かを確かめるのが非常に難しくなります。

そこで航空機を認識する訓練が行われました。
これは生死にかかわる状況下で砲手が正しい選択をするため必須でした。



英国空軍の教官から認識訓練を受ける第8空軍の下士官搭乗員たち。 
触覚で航空機を識別する訓練です。

触覚で識別できたとして、本番にどう役立つんだろう・・。


航空機認識模型

1/72スケールのプラスチック製航空機認識模型が大規模に製造され、
民間ボランティアによって作られた数十万個の木製模型が配布されました。

左上から:P-38ライトニング、Bf110
左下から:Pー51マスタング、スピットファイア、Bf109、Fw190



「スポッターカード」

トランプをしている間も楽しみながら識別訓練ができる優れもの。

というわけで、当時航空兵の間には写真の左側にある
「スポッターカード」なるものが出回りました。




いまでは激レア品として取引されています。
艦艇の形を取り入れた海軍版もありました。

「ビューマスター認識キット」

と言うのがそれです。
上の写真右下に見えるのはビューマスターです。


戦争が始まる直前に設立されたView-Master社は、
戦時中、航空搭乗員の機種認識と距離推定訓練用に、
約10万台のステレオビュアと数百万枚のディスクを製造しました。

戦争が終わると、ビューマスターは様々なイメージのビューワーを作り、
おもちゃとして1960年代、子供たちに大人気となりました。

ビューマスタージャンルの色々

なんか現在はプレミアがついてお値段がすごいことになっています。
こういうのも軍事技術の戦後平和利用っていうのかしら。


続く。