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映画「Uボート基地爆破作戦」The Day Will Dawn 前半

2024-05-02 | 映画

今日は1942年イギリスで製作され、わずか五ヶ月後には
アメリカでも公開された、戦争「系」映画をご紹介します。

まず、この「Uボート基地爆撃作戦」という邦題ですが、
例によって、あまり映画の本質を突いていません。

主人公はイギリス人のジャーナリスト(と言っても競馬記者)。
彼がポーランド侵攻を境に会社からノルウェー特派員を命じられ、
偶然の重なりにより歴史の瞬間を目撃し、自らも命の危険に曝されていく、
という内容なので、まるで戦争もののようなこのタイトルは変ですね。

原題は「その日は夜明けになる」(直訳)。

映画の制作された1942年は、ポーランド侵攻後のヨーロッパ、
並びに世界がどうなっていくか、まだ誰にも何もわかっていません。

The Day Will dawn というタイトルからは、
その頃ヨーロッパに住むすべての人々が陥っていた混沌とした暗闇から、
いつ夜明けになるのかという、そこはかとない願望が読み取れます。

それに比べてよく分からんのが、アメリカで公開された時のタイトル、

「The Avengers」(アベンジャーズ)

アベンジャーズというと現代の我々にはマーベルしかないわけですが、
映画を観た今となっては、こちらの「復讐者」というタイトルも、
なんだかほんのりピントがはずれているような気がしないでもありません。

ただはっきりしたのは、アメリカ人ってこの言葉が相当好きってことかな。

ところで、ここで本題、なぜ映画の舞台がノルウェーだったかですが、
それは当時ノルウェーが中立国だったことが理由でしょう。

ただ、第一次世界大戦時から国際紛争では中立を維持していたノルウェーが、
歴史的にイギリスとは経済的・文化的にも協力関係だったことから、
中立といっても、限りなく連合国寄りだったことを踏まえる必要があります。

第二次世界大戦が開戦するとノルウェーは公的に中立を宣言しますが、
ドイツは、連合国が共闘に引き込む可能性を憂慮し、
盗られる前に盗れ!!とばかりにノルウェーを占領にかかりました。

【ゆっくり歴史解説】ノルウェーの戦い【知られざる激戦10】
海戦の解説が多めなのでぜひ。

連合軍がフランス侵攻後、そちらにかかりきりになったので、
ノルウェー政府と国王ホーコン7世はオスロを放棄して亡命、
海外からレジスタンスを指導しましたが、結局ノルウェーは
ドイツに占領されることになり、終戦まで統治下に置かれることになります。

本作は、ノルウェーの戦い前夜からが舞台として描かれます。


ノルウェー空軍省、戦争省、そして
ノルウェー王国政府に感謝する、とあるのですが、
ここでとんでもない間違い発見!

NORWEIGAN(×
NORWEGIAN(


字幕を書く職人がGとIの前後を間違えただけだけだろうとは思いますが、
よりによって謝意を示すための字幕でスペルミス、これはアウト。


気を取り直して。
1939年9月のことです。



ドイツはポーランドに侵攻しました。


開戦にここぞと浮かれ、いや活気づくイギリス某新聞社のお偉いさんたち。

しかし、新聞各社が腕利きの記者を特派員として各地に送っている中、
この新聞社では、派遣する記者の人数不足に困っていました。

この際、若くて元気で記事が書ければ何が専門でもいい、
と一人が言い出し、政治部の花形記者フランクは、

「心当たりがある」



フランクは、友人の競馬担当記者コリン・メトカーフが、
戦争で競馬が中止となったため、クビになったばかりなのを思い出しました。

「あんなやつ、馬の知識しかないし、そもそも下流(でた階級差別)出身だ」

と社の幹部たちは渋りますが、彼のコミュ力を買っていたフランクは、
反対を押し切り、ノルウェー特派員として彼を推薦したのです。


8ヶ月後、メトカーフはノルウェーにいました。

何やら綺麗なお姉さんとデートなどしています。
ちゃんと特派員の仕事はしているのか。



オスロの街を歩きながら、

「夜のろうそくは燃え尽き、
霧深い山の頂に陽気な日がつま先立ちしている」


などと、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の一説を口ずさみ、
ついつい溢れ出る教養をダダ漏れさせてしまうメトカーフ。


二次会?で入ったバーで、メトカーフはノルウェー海軍の水兵たちと
ノリで「ルール・ブリタニア」を合唱してすっかり大盛り上がり。


このシーンのセーラー服、フランス軍と間違えてない?と思いましたが、
ノルウェー海軍の制服って、フランスと似ていたんですね。
白黒なのでわかりにくいですが、セーラーの襟の色が間違っています。

当時は白黒写真しか資料がなかったせいかな?



その時、同じバーの一角に、ドイツ海軍御一行様がいて、
「英国は決して奴隷にはならず」という「ルール・ブリタニア」に対抗して、
ナチスの党歌「ホルスト・ヴェッセルの歌」をがなり始めました。

しかしながら、わたしに言わせれば、この選曲が良くない。
僭越ながら海軍軍人というものを微塵もわかっておらん。

仮にも海軍たるもの、ここでナチスの歌なんか歌いますかね。
同じ映画の中で、「海軍軍人はヒトラー式敬礼はしない」と言って
微妙な海軍とナチスとの乖離を語っているのに、詰めが甘いというか。

こんな時には、やっぱりこれでしょう。

「我らは今日乗船する」 日本語歌詞付き [ドイツ海軍歌]
Heut geht es an Bord
必見:Uボートの実戦映像集 後半にはデーニッツ閣下も登場

ちなみに「眼下の敵」でUボートのクルト・ユルゲンス艦長のもと、
総員で歌っていた「デッサウアー」も、実は歩兵の歌ですので念のため。

(ところで今、ふと某国の公共放送局制作スタッフの無知のせいで、
陸海軍ごちゃ混ぜにハワイに収監されていた日本軍捕虜が、
全員で仲良く『艦隊勤務』を歌っていた戦争ドラマを思い出してしまった)

今回この映画がこの時わざわざ「ホルスト・ヴェッセル」を歌わせたのは、
単に「ナチス」を強調するための意図からきているのかもしれませんが。


さて、そのうち一人のドイツ水兵が荒ぶってものを投げ、鏡が割れるのを見て
白髪の老いた船長が立ち上がり、いきなりドイツ水兵を殴りつけると、
それがきっかけで場内全員による大乱闘になってしまいます。

メトカーフは迷うことなく乱闘に加わり、件の船長アルスタッドと意気投合。
ドイツ水兵を店から追い出した後、船長は彼を自分の船に招待しました。



メトカーフは乗り込んだ船で船長の娘、カーリと衝撃の出会いをしました。

カーリ・アルスタッドを演じるのは、ご存知デボラ・カー(Kerr)
「王様と私」「地上より永遠に」「旅路」などに出演し、
「イギリスの薔薇」とも称えられた美人女優です。

船の上で無様に転んだコリンを大笑いする彼女。
しかし顔を煤で汚していてもその美貌は隠せず。

(但しその笑い声は妙に甲高くて耳障りで、個人的にはイメージ台無しです)



ところで、さっきまでメトカーフとデートしていた女性は、喧嘩の際、
彼によって店から避難させられた後、最初の店に戻って、
やはり最初からそこにいた二人の男性と何やら密談をしていました。

彼女、どうやらドイツ側のスパイだったようです。
特派員である彼に近づいたのは、情報を得るためだったんですね。

ここで老婆心ながら一言。

政府要員、軍人、報道公務員その他国家機密に関わる、特に男性諸氏は、
(もちろん自衛官を含みます)やたら高めの女(又は男)が近づいてきた時、
冷静に自分について客観的に見直してみることも大事かもしれません。

こんな相手にグイグイ来られるほど、俺って今までモテてたっけ?と。
自分が案外モテると思いたい、その気持ちはわからなくもないですが。

個人的見解ですが、自他ともにモテを認める、実質MMな人材には、
そういう輩は決して近寄ってこないような気がします。


さて、航海二日目、アルステッドの船は、ドイツ海軍のタンカー、
「アルトマルク」Altmarkとすれ違いました。

アルトマルク号事件

「アルトマルク」は、ドイッチュラント級装甲艦
「アドミラル・グラーフ・シュペー」
(DKM Admiral Graf Spee)

の通商破壊活動によって沈められた商船から収容された
イギリスの船員を捕虜として載せていました。

「シュペー」がラプラタ沖海戦で自沈したため、
補給すべき相手を失ってノルウェー領海にいた「アルトマルク」は
ノルウェー官憲による立ち入り調査を受けることになります。

しかし「アルトマルク」は、その際捕虜の存在を隠してやり過ごし、
何も問題とならずに、そのまま通航を許されました。

同じ日、イギリス空軍機が「アルトマルク」を発見し、
イギリス海軍は、駆逐艦「イントレピッド」 (HMS Intrepid, D10) と
「アイヴァンホー 」(HMS Ivanhoe, D16) を派遣して
「アルトマルク」をフィヨルドに追い込んでから、
 駆逐艦「コサック」による強制接舷のち「アルトマルク」に乗り込み、
乗組員7名を殺害の末、捕虜を解放しています。

これが「アルトマルク号事件」です。

このことは国際的にも大問題となりました。



その後、アルステッドの船はUボートに発見されました。
(映像は実写)


その時、カーリとメトカーフは、デッキでジャガイモの皮を剥きながら、

「ジョージ・ベネットって知ってる?」

「読んだことあるわ。ノルウェーのイプセンの作品は?」

「読むよ」

「シェイクスピアやディケンズも読むわ」

とマウントの取り合いをしていたのですが、


そこにUボートが浮上してきました。



一連の映像は本物のUボートの戦闘シーンから流用されています。



Uボートは船に艦砲を撃ち込み、船は全壊し沈没しました。
しかし制作予算の関係で肝心の沈没救出シーン等はいっさい無しです。


沈没から逃れた小舟がアルスタッドの村に帰着すると、ちょうど
カーリの女友達ゲルダの結婚式が行われていました。

船を沈没されたのに、ウキウキと結婚式に駆けつけるカーリ、
そんな彼女を「踊りが好きなんだ」と目を細めて見送る船長。

沈没の後誰一人傷一つ追わず、衣服も濡れずに帰還できたどころか
全員が事故について忘れてしまっているかのように陽気です。


しかし、アルステッド船長はちゃんとするべきことを知っていました。

彼はUボートに攻撃されたことを、パーティの席で
地元の警察署長、オットマン・グンターに報告しますが、この警察署長、
ドイツ寄りの立場であるせいか、船長の報告を軽く受け流します。

しかも貴社のメトカーフにに向かって、あくまでお客として滞在しろ、
ここで余計なことをするな!と釘まで刺してくるのでした。



おまけにこの男、カーリに結婚を申し込んでいることもわかりました。
彼女に好意を持っているメトカーフには何かと面白くない人間です。



さて、ここはドイツ軍が駐留している某所。

司令部にやってきたグンター警部は、この体重0.1トンの司令官、
ウルリッヒ・ヴェッタウにメトカーフとUボートの件を報告しました。

ちなみにこの人、全くと言っていいほどドイツ人に見えません。
演じているのはフランシス・L・サリバンというイギリス人俳優です。

ちなみにこの人の痩せてた頃



グンターはヴェッタウ司令からドイツ軍の侵攻が近いことを知らされると
自分の地位と人気を利用して村人を「説得する」と力一杯約束しました。


その頃メトカーフはUボートの件を報告するためにオスロに向かっていました。


オスロのホテルに到着したメトカーフはそこでフランクに会いますが、
なんと自分がいつのまにかクビになっていたことを知らされます。

理由は、世界が注目する「アルトマルク号事件」が起こっている間、
アルステッドの船に乗っていて連絡が取れなくなっていたからです。

せっかくノルウェーに派遣した記者が、仕事せず行方不明なのですから
上層部の怒りもクビも、ごもっともといったところです。


メトカーフは漁船沈没の件をオスロの英国大使館に報告に行きますが、
大使館の駐在武官も何やら半笑いで微妙に真剣味がありません。
それでも何とか海軍に連絡をとってくれました。

つまり、誰もがこのとき次のドイツの目標が、
中立を標榜するノルウェーだとは思っていなかったってことなんですね。


しかし、メトカーフが、昨夜、在ノルウェードイツ大使館で行われた
ノルウェー政府の関係者を招待したパーティで、「火の洗礼」
(バプティズム・オブ・ファイア)という映画が上映され、
その内容がポーランドでの軍事作戦の記録だった、と報告すると、
新聞社は即座に彼のクビを撤回し、大ニュースだと盛り上がりました。

なんでそうなる。
っていうか簡単にクビにしたり取り消したりするな。


そのときホテルのロビーでは、メトカーフを訪ねてきたカーリに、
よりによってメトカーフの同僚の記者がウザ絡みしていました。

気の強いカーリはセクハラ記者を勢いよく平手打ちします。



彼女はメトカーフに、昨日村の近くの港にドイツ商船が来たこと、
軍艦ではないが巨大な船が3隻であったことを伝えに来たのでした。

「喫水線が深いのに、全く荷卸しをしていないの。
その『貨物』とは人間、つまり兵隊ではないかしら」

さすがは船長の娘で自身も船乗りです。
そして彼のために編んだ変な帽子を渡し、頬にキスして去って行きました。


ところが。

彼女と別れて乗り込んだタクシーは、そのまま彼を拉致し、
意識が戻ったとき、彼は船室に寝かされていたのです。

何のために?誰が彼を?


そしてついにヒトラーは軍をノルウェーに侵攻させました。
デンマークを一日で陥落させ、易々と上陸してきたという形です。

チャーチルは元からノルウェーの占領を目論んでおり、
ドイツのに対抗して英仏軍を上陸させましたが、
ヒトラーに察知されて先を越されていたため、
精強なドイツ軍にフルボッコにされてしまいました。

この時のことを、チャーチルはのちに自伝で、

「我々の最も優れた部隊でさえ、活力と冒険心に溢れ、
優秀な訓練を受けたヒトラーの若い兵士たちにとっては物の数ではなかった」


と回顧しています。



メトカーフが連れ込まれたのは、ドイツの民間船でした。
映画ではいっさい説明されませんが、彼は
ブレーメン港に向かう船に載せられたようです。

別に縛られるわけでも虐待されるわけでもなく、本人も怖がる様子もなく、
ドイツ人船長とチクチク嫌味を言い合う様子は、色々と謎です。

大体、拉致までして一介のイギリス人記者を船に乗せる理由って?


そしていきなり場面は6週間後、どこかのイギリスの海峡に変わりました。
このとき、とんでもない部分がカットされていたことがわかりました。



6週間前、ドイツの船に乗っていたはずのメトカーフが、
このシーンではなんの説明もなくイギリス軍艦に乗っているのです。

そこで改めて映画のストーリーを検索したところ、実はこの6週間の間に、

「英国の軍艦がメトカーフを乗せた船を妨害し、彼を解放するが、
英国に連れ帰る前に、フランス北西部からの英国の撤退作戦、
エアリアル作戦を支援するため、彼を降さずにシェルブールに行く」

という出来事があった(けどカットされている)ことを知りました。
こんな大事な部分のフィルムをカットしてんじゃねー(怒)


まあそれはよろしい。よろしくないけど。
シェルブールではドイツ軍の総攻撃が始まっていました。


そこでメトカーフは、空襲で負傷し、瀕死で路上に寝かされている
新聞社の同僚、フランクを発見します。

「とくダネだ。フランス軍に奇妙な命令が出ていて、橋を爆破しなかった」

と妙なことを言って彼はそのまま息絶えました。
ちなみに、この「伏線」は映画の中では永遠に回収されません。

そこで一生懸命考えたところ、おそらくノルウェーの戦いで、
ドイツ軍がフランス侵攻した際、

「フランス軍に奇妙な命令が出ていて、
なぜか橋を二つも爆破せず残していた」


という意味かと思われます。

・・思われますが、それが本当だったのか、そんなことがあったのか、
そこから先は調査が追いつきませんでした。<(_ _)>


続く。