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映画「嵐を突っ切るジェット機」前編

2024-04-02 | 映画

相変わらず精力的に自衛隊イベントに参戦しておられるKさんが、
ある航空自衛隊基地訪問イベントの後、現地で見つけたという
空自を扱った映画のポスターの写真を送ってくださいました。

世の中には、自衛隊を素材にした映画が結構あったみたいですね。
名作がなかったせいか、他の理由か、全く世に知られてはおらず、
わたしもそのどれもに見覚えがなかったのですが、
そのうちの一つがアマプラで観られることがわかったので、
ここで紹介させていただくことにしました。

1961年日活作品、マイトガイ(て何?)小林旭が、
アウトローな空自パイロットを演じた「嵐を突っ切るジェット機」です。

あーもう、このタイトルだけで駄作の匂いがプンプンするぜ。
タイトルとしてまず語呂が悪く、収まりが悪い。
名は体を表すという言葉の通り、名作は名作らしいタイトルを持ちますが、
このタイトルからは何のオーラも感じません。

当作品は2024年現在、奇跡的にAmazonプライムで視聴可能なので、
わたしには珍しく、今回はオンラインデータを元にログ作成しました。

挿絵も巷に流布している元画像の粗いポスターを参考に描いたため、
もはや小林旭に見えない誰かになった訳だが、まあ許してくれ。


さて、1961年日活作品、それだけで色々とツッコミどころありすぎですが、
とりあえず鑑賞において押さえておくべき時代背景は次の三つ。

1. ブルー・インパルスが発足したばかりの時期

2.  
 沖縄は返還されていない

3. 解決の手段としての暴力が社会的に容認されていた


まず1について。
「源田サーカス」で名を馳せた海軍パイロット出身の
あの源田實が航空幕僚長に就任したのが昭和34(1959)年。

空自のアクロバット飛行は、当初、アメリカ帰りのパイロットが
浜松基地で訓練の合間にクラブ活動的にというかこっそり行っていました。

就任した源田航空幕僚長は、自分の経験を踏まえ、これが隊員の士気向上と、
一般人を惹きつける宣伝効果に大いに役立つことから、
アクロバット飛行チームを制式化するよう推し進めます。

このことは、危険な曲技飛行訓練中万が一事故が起こった場合、
非公認のままでは補償が行われないということも考慮された結果でした。

2については、本作の「悪人」(第三国人)が、
地外法権の沖縄経由で逃げようとするというのが話の要となっております。


そして、3。
「すぐ殴り合いが始まる」

こいつが主人公の榊1尉(小林旭)。
この時代に1尉ということは、戦後浜松にできた航空学校の
初期の航空学生であったという設定なのだと思うのですが、
とにかくこの男のキャラがいかにも昭和のヒーロー。

最初のシーンでは浜松の航空記念日に空自音楽隊をバックに

 赤い雲 光の渦よ 青い空 成層圏を吹き抜けりゃ 
フライトOK視界でも 嵐を突いて 歌い抜いて
ジェット〜ジェット〜ジェット〜空を切る♬

という恥ずかしい歌を得意げに披露。
(そういえばマイトガイは本業歌手)

この頃は「ジェット」という言葉が時代の最先端で、
(あの名曲『ジェットジェットジェットパイロット〜』もこの時代)
ブルーインパルス隊長を演じる芦田伸介も、

ジェッツの魅惑を君にも味合わせてやりたいよ」

という、共感性羞恥で身悶えしたくなるセリフを言わされております。



そしてこの主人公、自衛官のくせにろくに敬語を使わない。
誰に対しても偉そう。すぐ「ちぇっ」とかいう。
なぜかサックスをプロ並みにこなす(ただし指はぴくりとも動かない)。
そして、何かというと人を殴る。理由より先に手が出る。足がでる。

というわけで、この映画、筋書きが全く頭に入ってこないんです。
何かあると殴り合いが始まって、そのシーンが無駄に長いので、

何のために殴り合っていたのか終わる頃には忘れているという・・。

ちなみにこの時代には「ハラスメント」なんて言葉毛ほども存在してません。

夕焼けの河原で不良同士が殴り合って傷だらけで倒れるも、
顔を見合わせた次の瞬間熱い友情が生まれていた時代です。

軍隊の鉄拳制裁は、敗戦と民主化を経てもまだ根深く残っており、
学校で教師が体罰をしても誰もがそれを当然と思う、それが昭和でした。



本作の数少ない見どころは、空自全面協力による
初代アクロバットチーム、F-86セイバーの飛行シーンです。

おそらく、航空自衛隊としては、この映画によって、
アクロバットチームの魅力が世間に認知され、あわよくば
入隊志願者も増えることを期待して制作に協力したのだと思います。



オープニング早々、セイバーのアクロバット飛行が始まります。
もうすでにこの頃チーム名称は「ブルーインパルス」となっていました。


ところがいきなり隊長機が墜落。
ちなみにこれ芦田伸介(当時53歳)演じる杉江二佐です。



アキラ、びっくり。
わたしもある意味びっくりですよ。
航空自衛隊の広報映画で初っ端にブルーインパルス墜落って。



そして、自衛隊上層部はこの事故を受けてアクロバットチームを解散。
「国民の税金を使うからには無茶できない」が理由です。


物分かりの悪い上層部へのやるせない怒り。
榊1尉は、セイバーのインテイクに向かって思わず咆哮するのでした。

「ばかやろ〜!(×4回)」

しかし、インテイクからは何の答えもありません。
あたりまえだ。

それどころか上に喰ってかかったことで金沢基地に転勤決定。
浜松→金沢は左遷ってことでOK?



ここでも「暴れん坊」榊1尉は無茶苦茶やりまくり。

無断でアクロバット飛行して罰金(って制度自衛隊にある?)、
しかも何度もやりすぎて罰金が払えなくなり、代わりに床掃除。

ヘラヘラした態度がなってないと水をかけてきた同僚(一緒に左遷された人)
と殴りあいをして、ついに基地司令の呼び出しを喰らいました。


司令は彼に10日間の飛行停止と「休暇」を命じました。

どうもこの二人の様子を見るに、これは「温情判決」らしい。
榊はほくそ笑み、司令は彼が出て行ってから部下と苦笑い。


榊は休暇中、彼の兄が経営するセスナを扱う飛行機会社で、
亡くなった杉江二佐の妹、マキの手伝いをすることにしました。

マキを演じているのは浅丘ルリ子?と思ったのですが、当時人気で、

5年間だけ活動し、結婚を機にあっさり芸能界から引退してしまった、
笹森礼子という女優さんです。


飛行場に着くと、榊はどういう経緯かここでパイロットをしている
元米軍の副操縦士、チコが目薬を差しているのを見て、
大丈夫か聞くのですが、その時無神経な榊が、よりによって彼を
「黒ちゃん」呼ばわりして怒らせ、殴り合いが始まります。

黒ちゃん・・アウトー。



しかしマジな話、こんな米軍の黒人パイロット上がりっていたのかな?

タスキーギ・エアメンも1948年には解散していたし、
海軍の黒人パイロットが最初に誕生したのは朝鮮戦争の時、
ジェシー・ブラウンという人だけだったというし・・・。

ジェシー・ブラウン/彼を主人公にした映画が現在制作中

副機長ってしかも士官だったってことでしょ?
だったらなぜ日本なんぞでこんな怪しげな仕事を?・・ないよなあ。

さて、チコは目の調子が悪いのではと疑う榊とマキを振り切って、
ビーチクラフトでビラまき(当時はそんな仕事があったんですよ)
に飛びますが、突如目が見えなくなり(おいおい)着陸に失敗。


さっそく運輸会社社長の榊の兄(戦時中は戦闘機乗り)が飛んできて、
チコの無事を確かめるより先に、馬鹿野郎と罵り、何発も殴打するのでした。

絵に描いたようなパワハラ。
さすがは元海軍戦闘機乗り。鉄拳制裁のDNA健在です。

兄の仲間というか手下として集まってきているのは、チコ以外にも
全てがいわゆる「パイロット崩れ」の半端者ばかりでした。


彼はこの半グレ集団を何とか食わせていくため、必死なのですが・・。



その兄、英雄(葉山良二)は、戦後闇屋上がりで財を成した三国人、
劉昌徳から、昔手伝わされたやばい仕事をネタに恐喝&買収されていました。

映画では「三国人」と何回も言っているのですが、この名前は中国系。
三国人の解釈は色々あるようですが、この映画では単純に
「非日本人」という意味で使われているようです。

劉は警察に睨まれている自分の代わりに、英雄に
何か(多分麻薬)を運ばせようとしているのでした。


そんな劉の動きは当局にもつかまれていました。
この刑事は、英雄と「同期」なんだそうです。

なんの同期だろ。海軍かな?

聞き込みに来た刑事に、榊拓次は太々しく、

「あんたデカさんだね?」

すると刑事も仲間を劉に二人やられていることを打ち明けついでに、

「君は自衛隊員だから(警察である俺とは)兄弟みたいな間柄さ」

それは・・・どうかな。

榊、この刑事の来訪と捜査の目的が気に入らんらしく、激昂して
刑事の胸元を小突き、あわや公務執行妨害になりかける始末。

このキレやすさ、戦後の食糧不足でビタミンが欠乏しているに違いない。

あらためて思う。
この映画の主人公が自衛官である必然性はどこに?

続く。