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陸上自衛隊中央音楽隊 ビッグバンドジャズコンサート @ さくらホール 後半

2020-02-21 | 音楽

冒頭写真は本日の紅一点、パーカッション奏者ですが、
彼女は一曲目が終わった時からマイクを持ちMCを務めました。

彼女の顔に見覚えがあると思ったら、昨年の音楽まつりで
合同演奏のとき
舞台中央でカホンを演奏していた打楽器奏者、
中間綾美2等陸曹でした。

 

そのときの演奏姿を見ていても彼女の明るい人柄は伝わってきましたが、
この日のコンサートがより一層明るく楽しいものになったのは、
そんな彼女のMCの力が大だったと言っても過言ではありません。

しかも、二曲目に移ろうとしたところ、ギターのアンプにトラブルが発生し、
演奏に入れなくなったのですが、中間二曹は動揺しながらも話でつなぎ、
その場を乗り切って、自衛隊の危機管理力の高さを見せてくれました(笑)

 

さて、前半が終了し、ここで20分の休憩となりました。

ところで、新型コロナウィルスの感染がじわじわと拡大する中、
たくさん人が集まるところには警戒して行かない、という人も
多いかと思ったら、この日のさくらホールはほぼ満席でした。

しかし、バンドマスターの遠藤敬二等陸尉(トロンボーン)によると、
中央音楽隊には本日の演奏会が行われるのかどうか、という
問い合わせが結構たくさんあったそうです。

そしてちょうどこの日、コンサートをご紹介してくださった方から、
東部方面音楽まつりが

「感染拡大防止のために不要不急な集まりをなるべく自粛する動き」

を受けて中止になったというお知らせをいただきました。
また同じ方によると、追浜の海洋研究開発機構(JAMSTEC)での
深海潜水艇公開イベントも中止になりましたし、また、
2月21日現在、翌週に予定されていた横須賀音楽隊の定期公演も、
担当者から中止する旨、直々に電話連絡を受けたばかりです。

目黒の幹部学校で行われる海軍大学セミナーも一般聴講は中止、
セミナーそのものも取りやめになる可能性あり、ということでした。

そういえばこの日コンサート前に、車を停めたセルリアンホテルで
食事をしたのですが、館内が前に来た時と比べ静かすぎて驚きました。

また、昨日は東京駅前を車で通り過ぎ、丸の内を歩きましたが、
なんと近辺にオフィスワーカーらしき人しかいないのです。
広場に原色のパーカーやダウンの集団がいません。
人口密度はまるでフィルムに残る100年前の東京駅みたい。

「うーん・・・・なんて清々しいんだ」

この期に及んでここだけの話、わたしは思わず呟いてしまいました。

そういえば京都も今ガラガラで、地元に住んでいる人はもちろんのこと、
ストーカーやお触りする外国人がいなくなって舞妓さんが喜んでいる、
という噂もありましたが、それどころか日本全体が萎縮していきそうです。
花見までこの状態(感染の拡大ではなく中国人の団体旅行禁止)
が続いてくれれば、ぜひ地元の観光業応援のためにもぜひ行きたい、
なんて思っていましたが、事態はもっと深刻なのかもしれません。

 

 

♫ In The Mood

さて、気を取り直して続きと参りましょう。

後半の始まりも、いわゆるビッグバンドの代名詞的な曲からです。
グレン・ミラーオーケストラの「インザムード」。

ところでみなさん、グレン・ミラー物語って観たことあります?
陸自音楽隊がグレン・ミラーを取り上げるのはある意味ぴったり。

Glen miller.jpg

グレン・ミラーは陸軍軍人として戦没しているのです。

第二次世界大戦の勃発にともない1942年に陸軍航空軍に入隊、
慰問楽団を率いて精力的に慰問演奏を続けていたのですが、
1944年12月、イギリスからフランスへ慰問演奏に飛び立った後、
乗っていた専用機(UC-64)がイギリス海峡上で消息を絶ち、
戦死と認定されたので、昇級して最終階級は少佐となりました。

「ドイツへの爆撃から帰還する途中のイギリス空軍の爆撃機が
上空で投棄した爆弾が乗機に当たり墜落した」

「イギリス軍機の誤射で撃墜された」

「無事にパリに着いてから翌日娼婦と事に及んでいる最中に
心臓発作で亡くなったのを隠蔽するために行方不明にした」

いろんな説がいまだに飛び交っているそうです。

2014年、『シカゴ・トリビューン』は、消息を絶った原因として、
上のどれでもない「乗機のUC-64に特有の故障」という説を挙げました。
それによると彼の搭乗したUC-64は、エンジンキャブレターに欠陥があり、
冬期に凍結し、それが原因で墜落する事例が他にも複数発生していたそうです。

 

♫ Old Devil Moon

あなたの瞳の中に「オールドデビルムーン」が見えて、
引き込まれそうになってしまうのアタシ・・・みたいな曲。

「オールド」は「古い」ではなく、「いつもの」「おなじみの」
という意味でしょうね。

「あなたが空から盗んだOld Devil Moon 」

とあるので、怪しいほど神秘的な光が瞳に輝いてるんでしょう。
目力があるというより、一昔前なら「目千両」な役者というか
杉良太郎とか(どういう人選だ)・・そんな感じ?

Frank Sinatra - Old Devil Moon (High Quality - Remastered) GMB

 

♫  I Love Being Here with you

ペギー・リーというと「センチメンタル・ジャーニー」とセットで
名前を記憶している方もおられるかもしれません。

peggy lee/i love being here with you

「ニューヨークのため息」

とあだ名されたのはヘレン・メリルでしたが、この古き良きスタンダードを
生まれも育ちもニューヨークという歌手のアリシア・キャンセル上級空兵が歌いました。

 

♫ It's Only A Paper Moon

「紙に描かれたお月様も、モスリン布の海も、キャンバスに描かれた空も、
あなたがわたしを信じてくれればみんな本物になる」

という歌詞ですが、長年この曲を熟知していると思ったわたしが
知らなかった蘊蓄をこの日のMCで教えていただきました。

1900年代初頭、写真スタジオには紙の大きな三日月があって、
そこに座って写真を撮るのが庶民の間の流行りだった、というのです。

そしてこんなのを見つけました。

It's Only A Paper Moon - Abbie Gardner

当時の流行に乗っかってお月様と写真を撮った庶民のみなさんです。

 

♫ New York, New York(ニューヨーク、ニューヨーク)

同名の映画はこれを歌ったライザ・ミネリとロバート・デニーロの共演です。
これを、陸自のシナトラとアリシア上級空兵がデュエットしたのですが、
二人ともオリジナルキイで完璧に歌い上げて、思わず鳥肌が立ちました。

New York, New York Official Trailer #1 - Robert De Niro Movie (1977) HD

なんなら映画の予告編をぜひご覧ください。
ミネリの絶唱は何度聞いても文字通りの鳥肌ものです。
デニーロも若くてスマートでイケメンですよね。

 

♫ Samba  Del Gringo

手塚治虫の未完作に「グリンゴ」というのがあったのご存知ですか?
グリンゴというのは南米のスペイン語圏で「よそ者」、つまり
彼らに撮っては白人を差す蔑称だったりするのですが、手塚作品では
異邦で戦う日本人を描こうとしていたようで、この場合は単に
ヒスパニックにとっての「よそ者」という意味だったのでしょう。

で、この曲ですが、そんな暗さは微塵も感じさせないキャッチーなサンバです。

Gordon Goodwin "Samba Del Gringo" - JGSDF Central Band

ご本人たち、サージャントエースの演奏が見つかりました。
10年前の演奏なので、ずいぶんメンバーも変わっているのかもしれませんが。

どうも昔から当バンドのキメ曲となっているようですね。
とにかくサビのメロディがかっこよくて、ソロを取る人は
きっと気持ちも張り切ってしまうことでしょう。

この曲でもジェイコブ・ライト上級空兵は確かフルートに持ち替えて
バリッとしたリフを聴かせてくれました。
MCによると、去年のコンサートではライト上級空兵、
「モーニン」で漢(おとこ)っぷりを見せたということです。

自衛隊音楽隊のジャズでは、時々プレイヤーがアドリブではなく
書いた譜面をそのまま演奏していることがあるのですが、
米軍楽隊の奏者は
まず間違いなく、インプロビゼーションが
最初から人並み以上にできる人しかこういうのには出てきません。

それは、アメリカという国がジャズ発祥の地であり、
ジャズという演奏形態における裾野が広いということでもあるでしょう。

 

ところで腕の見せ所といえば、この曲の功労者はなんといっても
パーカッションの
中間二曹だったとわたしは思います。
パーカッションソロそのものもさることながら、観客を巻き込んでの
楽しい演奏、可愛らしい最後の「いえー」という掛け声、
すっかり彼女のファンになってしまった人も多かったのではないでしょうか。

 

♫ Ya Gotta Try Harder

面白いビデオを見つけました。
コンサートの最後に、メンバー紹介を兼ねて演奏されることもある曲で、
これをなんと陸海空合同バンド、

「自衛隊GMOジャズオーケストラ」

がやっています。

これが大盛り上がりのうちに終わり、アンコールを一曲、
(あ、なんだったか忘れてしまった・・・)
終わった頃にはすっかり会場内の空気が上昇したかのように思われました。

会場にはマスク着用の人も多かったのですが、楽しいコンサートを聴いて
心から楽しむことによって、おそらく免疫力もアップしたことでしょう(笑)

個人的には、わたし自身も喪失の傷みからほぼ立ち直れた気がします。

 

「ああでもねえこうでもねえ」と意見を交わしながら、(MC談)
この日のコンサートを
作り上げたというジャズオーケストラの皆さんには、
心からその労に
ありがとうございましたとお礼を申し上げます。

 

なお、次回のジャズバンドフェスティバルは、6月6日、
すみだトリフォニーホールで予定されているそうなので、
興味をお持ちになった方はぜひ申込なさってはどうでしょうか。

その頃には事態が収束していることを祈るばかりです。