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「シタデル・イン」〜ドック型強襲揚陸艦「アルビオン」

2018-08-15 | 軍艦

英国からやってきた強襲揚陸艦「アルビオン」見学記、最終回です。

舷側を左回りに歩いていくと、左舷に銃が装備されていました。
強襲揚陸艦ですから、機銃があるのは当然ですが、これも見学者は触り放題。
驚くことに、周りには海兵隊どころか乗員は誰もいません。

海兵隊のHPによると、この銃はMk44ミニガンということでした。

一般的に艦上に搭載される電動式の6砲身の武器で、
最高6000/rpmの高速度で7.62mm x 51mmの砲弾が発射されます。

写真を撮っていると、あっという間に男性の手が伸びてきました(笑)
こんなところに置いてあって触り放題、誰でもちょっとのぞいてみたくなります。

wikiによると「アルビオン」は12.7mm機銃を4基備えているということです。
12.7mmということは、ブローニングM2重機関銃だと思いますが、
これはブローニングM2の典型的なタイプだと思います。

右下の袋で薬莢を受けるんですね。

救命艇は「サバイバルスーツ」と称するようです。
非常用なので一回ごとの使い捨て。

というか、これを使う場面になったらもう終わりです。

左舷側のドア、ここに書いてある

CITADEL IN

という言葉に注目してみましょう。
「シタデル」というのは普通は「城塞」などを意味する言葉です。

企業名にもよく使われるようですが、海事用語で「シタデル」というと、
軍艦など、特に戦艦の司令塔や、砲塔、機関部などのような重要な部分だけに
集中的に装甲を施す防禦形式のことを指していいます。

強固に内部を守る城塞になぞらえているんですね。
つまり、このドアの部分は特に装甲を厚くしてあるはずです。

装甲を分厚くすることは、艦の生存性をあげることにつながりますが、
部分的に重要な部分だけに装甲を施すことで、排水量を抑えることができます。

このアイデアは、主に排水量が大きくなかった前弩級戦艦に用いられました。

旧海軍ではこれを弩級戦艦や超弩級戦艦に用いた場合

「集中防御方式」

と称していましたが、海外ではこの区別はなく、一律「シタデル」とします。

「シタデル」は軍艦だけに存在するわけではありません。
例えば民間の船舶でも海賊などの襲撃を受けた場合に備えて
避難・籠城を目的とした強固な防壁を施した部屋を持っていることがあり、
この部屋や区画を「シタデル」と呼部こともあるということです。

日本の護衛艦とか、例えば今日横に泊まっている「うらが」もそうですが、
上部構造物の舷側はここまで広くありません。

「アルビオン」の舷側甲板がここまで広いのは、集団が舟艇に
ここから一気に乗り込んでいく
場合に備えているからだと思われます。

その広い通路に、地面に何やら置いて展示しているコーナーあり。
海兵隊員ではなくネイビーが見張りに説明のため立っています。

舟艇に乗り込む場合に装着する救命ベストとヘルメットですね。
ヘルメットは軽量に見えます。

RIB (Rigid-hulled Inflatable Boat)

は複合艇のことで、海上保安庁でもこのように称しています。

先日、海保の観閲式で海賊退治?の模擬展示をご紹介しましたが、
あれで海の上をボンボン跳ねながら海賊船を追いかけ、周りを回って
追い詰めていた「トッケイ」の硬化ゴムボート、あれが「RIB」です。

救命ベストに書かれた

Rib's only Manual

という意味がいまいちわからないのですが、
複合艇でのみ使用される、ということかしら。

 

大変写真が撮りにくかったのですが、これが複合艇のようです。
今調べたら、イギリス海兵隊のRIBを製造しているのは

BAE Systems Halmatic

という会社であることがわかりました。
実は昨日までわたくし、ワシントンDCにいたのですが(理由はわかるね?)
ファランクスを作っているレイセオンの近くに、この
「BAE」の巨大なビルを見つけ、

「あれ、これなんだっけ、最近ブログで扱ったな」

と考えたところでした。
「BAE systems」はイギリスの国防・情報セキュリティ・航空宇宙関連企業、
「Halmatic」は同社のボートを作っている部門なのです。

RIBに乗り込むチキはこのようなオレンジのスーツに先ほどのジャケット、
ヘルメットを身につけます。
ボートの操縦をする席は馬にまたがるようになっていますね。

揚陸を支援するための銃が装備されたこちらのボートは?

こんな大型の舟艇が吊ってありました。

これは

LCVP(Landing Craft, Vehicle, Personnel)

という上陸用舟艇です。
最初にこのタイプをRMが採用したのは1962年で、
「アルビオン」搭載はそのMk5、第五世代となります。

1隻あたりの収容人員は海兵隊35人、操作する海軍が3人。
1隻38名、4隻で一個中隊140名を揚陸させることができます。

無理やり中を覗き込んでみる。
搬送される海兵隊員はここにぎっちりと座るわけです。
複合艇のように海上を高速航走するわけではないのでベルトはありません。

ボートには可動式の屋根があり、天候に対応化。
船の周囲には物を入れる棚付です。
中で糧食を取ったり仮眠をするというような場面もあるのかもしれません。

ここがLCVPの操舵室。
ここは全部が「シタデル」状、装甲はかなり強固に施されているはずです。

本日の展示には珍しく、装備のスペックを紙で貼り出してくれていました。

舷側から撮ったLCVPの上部。
一体何がどうなっているのかわけがわかりません。

ちなみにこれがwikiのLCVP全体像。
甲板にカプセルを積んでいるように見えますね。

というわけで前甲板を回って元のところに戻ってきました。
同じ海兵隊員が見学者の写真サービスに勤しんでいます。

いやー、しかしいい笑顔だ。

見学を終わり、先ほど上ってきた傾斜を下って行きます。

この見学では一切階段を上り下りすることがありませんでした。

だからなのか、見学者の列の中には車椅子の方もいましたが、
流石にこの坂を車椅子では無理なので、屈強の隊員が椅子を抱え、
軽々と持ち上げて甲板に連れていってくれたのではないでしょうか。

それにしてこのキャタピラ付きの巨大な車、用途はなんでしょうか。

海兵隊員のバックパックが手すりに鈴なりに吊ってある眺めは圧巻です。
もちろん日常の荷物ではなく、戦地に展開する際に必要な物が入っているのでしょう。

甲板のどこかにこの背嚢が置いてあったので、ふと手をかけてみましたが、
片手ではぴくりとも動かなかったので多分10キロ以上はあると思います。
きっと鍋釜一式とかも入っているんじゃないかしら。

筒のように見えるのは簡易寝具だと思います。

しかし、この収納場所、確かに場所を取らずにいいかもしれないけど、
ここに吊ったり外したりなんて、人の力でできるんでしょうか。

まあでも。
こういう人を見るとできるかもしれないという気もしますね。

今回初めてロイヤルマリーン、ロイヤルネイビーの兵士たちを間近見ましたが、
人種が様々なアメリカ人より平均して背が高いように思います。

それと、制服の階級章がなぜか体の真ん中にあることも大きな違いです。

 

一体このヴァイキング、何台搭載できるのでしょうか。

ちなみに搭載できる海兵隊員は最大で710名です。
今回は非常時ではないのでその半分くらいかもしれませんが、
300人以上も海兵隊員がいるってことなんですね。

これだけいれば何人かは酒癖悪い人もいるはずなので、
前回ご紹介した佐世保の事件みたいなのが起きてしまうわけです。

「そういうことするのは絶対海兵隊」というコメントがありましたが、
わたしも海兵隊には悪いけどすごく納得してしまいました。

今まで見聞きしたニュースでも、台風の日とか、増水している川で泳いで
行方不明になるのは必ず海兵隊員だったという記憶です。

なんて言うんでしょうか、ネイビーより「脳筋」の多そうな感じ?

この部分に、もう一つウォータークーラーがあり、しかもそれは
信じられないくらい冷たくて、汗を大量にかいた身体に染み渡るほど美味しく、
わたしはつい夢中で2杯立て続けに飲み干し、暫し息をつきました。

現場に待機している「アルビオン」の乗員は皆が水筒を持参していましたが、
そういえば先日の阪神基地隊での「サマーフェスタ」で、あの猛暑の中
自衛官の皆さんはウォーターボトルなんて持ってなかったよなあ、と思い出し、
改めて色んな意味で彼らの立ち居振る舞いに頭が下がる思いがしました。

この日はテントでカバンと金属チェックをしていましたが、いつもは
舷門でこのようなプレートを掲げてチェックを行うようです。

わたしたちが出口になっている舷門から降りる時の光景。
まだまだ列は解消しそうにありません。

舷梯の下にはいつも自衛隊の艦艇公開でおなじみのネットがありますが、
このネット、実は一般公開と関係なく、主に
酔っ払って帰ってきて脚を踏み外す乗員のために張ってるんですって。

わたしがこのことを聞いたのは元自衛官ですが、この方の場合、
現役時代に最低数回は海に落ちた乗員を拾ったことがあるそうです。

自衛隊は規律がしっかりしてるからそんなことは絶対に起こらない!

と思っていた、そんな時代がわたしにもありましたが・・・。

まあとにかく自衛隊でもあるんだから、アメリカやイギリスの海兵隊なら、
一晩に一人ペースで海に落っこちてそうです。

この二人は舫を杭に巻きつけて浮き台を岸壁に近づけていました。
なぜこんな時間にこの作業をしていたのかはわかりません。

朝ここを通りかかった時にはその珍しさに目を輝かせて写真を撮りまくった
水陸両用車「ヴァイキング」ですが、一通り見終わって出てきてみれば、
「アルビオン」の中ではそれこそスズメ並みに珍しくありませんでした。

「うらが」の見学する人はいないわけではありませんが、
1時過ぎで数えるくらいしか甲板に人影がありません。

乗員にとっては稀に見る楽ちんな一般公開だったんじゃないでしょうか。

というわけで女王陛下の海軍艦「アルビオン」見学を終わりました。

われわれが日頃目にする機会のないアメリカ以外の艦というだけでも
暑さの中出かける価値は大いにありましたし、何と言っても、
ロイヤルネイビー&ロイヤルマリーンの佇まいとか立ち居振る舞いは、
「装備より人」に興味のあるわたしにとっては眼福というべきもので、
この日、心から満足し、一種の達成感すら感じながら帰途についたのでした。

 

終わり。