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たかが買い物で元気になる

2011-08-20 | アメリカ

大災害が起こると、物質、わけても服飾品の価値というのは紙くず同然になってしまいます。
実際、我が家は避難のため一か月以上家を空けましたが、わたしは自宅の服やバッグ、
そして靴やアクセサリーがどうなっても惜しいと思うことは一瞬たりともありませんでした。
(さすがに家や車はどうなるかなあ、という心配くらいはしましたが)

ましてや物を買って楽しむ、などというマインドは一時すっかり失われてしまったのです。
世間では「経済を回すために、外食して買い物しよう」という意見も出て、少しずつ消費が伸びましたが、
今度は食物汚染で外食を避けるため皆が出かけることそのものを控えるようになってきました。
物質に対する欲望は社会不安によって簡単に消滅するということを、あらためて実感した次第です。

しかし、経済を回すためというお題目を抜きにしても、買い物をすることが自分の精神面を平常時に保つ
という効果には無視できないものがあります。
外に出て店に入り、店員と会話の一つもしながら品定めをし、買うかどうかを心にめぐらせ、
決定し、お金を払い、手に入れて持って帰る。
この一連の動作に身を投じることによってあえて日常に埋没し非常時を忘れるとでも言いましょうか。
(ですのでここでの買い物はネットでのそれを含みません)


アメリカに行くとき、わたしはあまり服を持って行きません。
現地でそのときの気分や空気になじむものを安く購入し、さらに次の一年間のワードローブを整える、
というのが習慣になっているためです。
そのための行き付けのブティックの一つ、サンフランシスコのトニーの店。

今回顔を出したらいきなり
「今年は来るのが遅いから、地震で何かあったんじゃないかと心配していたのよ」と言います。
「心配してくれたんだ・・・・嬉しい」
「もう、ニュースを知って真っ先に『あ、エリス(仮名)は無事だったかしら』って思った」
「(T_T)」

「実を言うと、あの後物質的欲望が低減してしまって(直訳)・・・・・」
「わかる。ここも地震があるし、いとこはハリケーンに遭ったわ。
ファッションなんてねえ。ライフ・イズ・ファースト、ファミリー・イズ・ファーストよね(言文一致)」
「でも、そろそろチアー・ミー・アップも必要だし、トニーの顔も見たいから来たの」
「どうぞどうぞ。今年は日本人に限り特別料金よ」

 
というわけで日本人被災お見舞い特別料金で購入した某ブランドのニット。
何とニーマンマーカスの新品タグ付き。
トニーはこれを正価の3分の1以下、この店の通常の値段の40パーセント引きで売ってくれましたが、
実を言うとこの買い物は彼女の店でなければしなかったでしょう。

自分を力づけるためというより、彼女の店で買い物してあげるのが目的の買い物だったからです。

とはいえ、淡いピンクの毛糸が編み込まれ、トッグル(留め具)にはよくよく見ると分かる程度に
マークがキラリと光るラインストーンで刻まれた凝った造り。
この冬、トニーの言葉とともに思い入れを持ってクローゼットから取りだされるでしょう。


ところで、今回のアメリカでの安物買いぶりを少々。
(しょうしょうで変換したら真っ先に少将が出てくるわたしのパソコン・・・)

暑いボストンで必要にかられて真っ先に買ったのが冒頭写真のサマードレス。
これは、ターゲットと言う大型スーパーで3000円で購入。
アメリカのドレスはことごとく胸が大きく空きすぎているのですが、郷に入れば郷にしたがえ、
日本では暑いのに肌を晒せなくてボレロとか着てしまうんですけど、ここでは平気。
(へいき、を変換すると真っ先に兵器という漢字が出るわたしのパソコンって)
決してその値段には見えない、というところが購入のポイント。
色が何と言ってもとてもきれい。このスーパーの専属ブランドのもので造りも悪くありません。

そして、アメリカに来たら、特にサンフランシスコに来て買い物をするならぜひ立ち寄って欲しい、
スリフト・ショップ。

スリフトショップには面白いので「宝探し」の感覚で立ち寄り、育ち盛りの息子の衣料や
この値段なら失敗しても痛くも痒くもない、といったものを買います。
今回「宝探し」で見つけた戦利品。
ベラ・ウォンのドレス、400円。
アン・テイラーのワンピース、500円。
アンテイラーは「プラダを着た悪魔」の原作で、ファッション誌の編集長に
「その靴、誰の(デザイン)?」と聞かれて「私のです」と答えてしまった主人公が、
「2000ドルの靴を履いている人に『これはアンテイラー・ロフトのです』なんて言えない」と思った、
と書かれていたくらい庶民的なブランドですが、いろんなブランドの服を着てきた経験から言っても、
アイテムによってははっきり言って見た目も着心地も、品質すら上級ブランドと大差無いことがあります。
(たいさを変換すると真っ先に大佐という字が以下略)
上のベラ・ウォンはこちらの有名デザイナーですが、スリフトショップに来てしまえば同じ価値。


スリフト・ショップとは日本で言うところのリサイクル・ブティックなのですが、特に最近、
このタイプの服屋さんがサンフランシスコには異常発生しています。
やはり経済の悪化の影響でしょうが、人が履いていた靴や多少汚れた服でも全くOK、
というドライな国民性が根底にあります。
もしかしたらニーマン・マーカスで買い物をする人種と、スリフトショップで買い物をする人種、
2種類しかいないのではないか?と思うくらいで、フィルモアストリートやミッション地区、
ヘイト・アシュベリー(ヒッピームーブメントの発祥地)などには角ごとに一軒はあります。

たくさんあるだけあってまさにピンキリ。
中にはホームレスがふらふらと入ってきて適当な服を着て、脱いだ(勿論汚れた)服を
試着室に置いていくような(もちろんこれは万引きってことなんですが)
つまりそう言う人が店内に入ってきても違和感がなく誰も気にとめない小汚い店もあれば、
エッジな若者をターゲットにしたお洒落な店もあります。

トニーの店はコンサインメント(委託)ショップといい、顧客から預かった「ステータス・ブランド」を
それなりの値段で売るものですが、スリフトの方は「ドネート」つまり、廃品処理のつもりで
ただで持ち込まれたものをそれなりの値段で売るのです。
「スリフトショップのつもりで来て『高い、高い』とウェブのショップ評価に星一つつける人、
うざいわー!ウチはいいものを売っているの!だから高価いのよ!」
と、トニーはその他諸々のスリフト・ショップと一緒くたにされることに甚くお怒りでした。

その中間で、ブランドものはあまりないがそこそこのものをそこそこの値段で売る、
日本のリサイクルショップに近い委託式の店も勿論たくさんあります。
まさにアメリカ人のSomeone's junk,someone's treajure(捨てる神あれば拾う神あり)
という合理性に支えられている業界と言っていいでしょう。


「たかが買い物」ですが、こちらでのモノや人との出会いによって、
わたしもまた日本に戻っていつもの生活をする心の準備ができたような気がします。