◎阿ホウ居士の娘
(2016-12-25)
南宋の画人牧渓の描いた霊照女の画像を大切に持っている人がいて、一休に賛を入れてもらおうと持ってきた。
霊照は、ホウ居士の娘であって、ホウ居士が坐脱しようと時をうかがっていたら、先に坐脱したという並々ならぬ冥想修行者。ホウ居士は富裕層だったが、家財珍宝すべてを舟に積み洞庭湖に沈めてから、竹細工を売りながら清貧な生活を送り修行に打ち込んだという。ホウ居士は馬祖の弟子。
さて一休はすらすらと賛を入れた。
汝の親の笊(いかき)作り 馬祖にだまされて
宝を海に捨つる 阿ホウ居士の娘
これを見た周りの一同あっけにとられた。
釈迦といふ いたづらものが世にいでて おほくの人をまよはするかなという
という一休の歌があるが、馬祖といういたづらものに騙されて、あたらホウ居士も財産を失った。私財を持つ持たないは悟りとは別であって白でも黒でもない。
狂雲集にも一休が股に錐を刺して眠気を覚ましながら修行した慈明禅師を嗤う漢詩がある。篤く三宝を敬う生真面目な人から見たらとんでもないが、「何も問題がない」という立場からこういうのを語る分には咎めはなく、こういうのを風狂と呼ぶ。
だが悟っていない人間が同じことを語っても、単に意地を張っているだけのことになる。