goo blog サービス終了のお知らせ 

詠里庵ぶろぐ

詠里庵

オケの音

2006-04-27 07:17:58 | コンサート・CD案内
というものはどのように作られるのでしょう? あまり多いとはいえない私のこれまでの経験の中で一番美しいと思ったのはサル・プレイエルでパリ管の出す音でした。ドイツ系の音楽のコンサートでしたが、それは絶妙な音と演奏でした。名手を集めて来ただけでオケの音が一朝一夕に磨かれるはずはありません。セクション毎のトレーニングや全奏の積み重ね、それに指揮者との相互作用で形成されるのでしょう。音が熟成され、個性が出てくるのにいったい何年、何十年かかるのやら。

 先日の日本フィルの演奏会、日本フィルの音の美しさに参りました。真ん中よりわずかに左寄りの前から5番目に座ったのですが、こんなにオケに近かったのに、「うるささ」が全くのゼロ。低音の圧迫感や高音の耳をつんざく感じがゼロ。要するに物理的音波が寄せて来る感覚がゼロで、概念としての音が直接形成される感じなのです。それでいて大迫力。不思議な体験です。一体何デシベルの音量で私に届いていたのか、是非とも騒音計で測ってみたかった。恐らく最強の場面ではデシベル値自体は相当大きかったと思います。それなのに聴く者の体をスーッと通り抜けるような、「本当にいま音が鳴ってるの?音楽はそこにあるけど」という感じでした。夢見心地という表現はこの音のためにあるのでしょう。
 アンサンブルというレベルでなく、概念としての音が一つでした。何十人の演奏家の集団というのではなく、統一感のある有機体としての巨大な一つの楽器だったのです。それはバイオリンもあればラッパもマリンバもありシンバルもあるという、異質な音の集合であるはずなのですが、あたかも細胞の集合が全く異なる機能の器官のつながりになって一つの人間の個体が形成されているように。これらのことは、科学がどんなに発達しても、明快に分析するのは至難でしょう。
 それほどコンサート経験豊富というわけではありませんが、私は何となく「アメリカもイギリスも日本もオケの演奏技術は最高だけれど、音の熟成感と音楽の薫り高さは大陸ヨーロッパに一歩譲るなあ」と思っていました。でも、この日の東京芸術劇場の日本フィルは、サル・プレイエルのパリ管に近いものがありました。

 さて指揮者の沼尻にあまり触れませんでしたが、すばらしい音楽を形作っていたことは確かです。最初から最後まで水が流れるような自然な音楽でした。協奏曲でのソリストとの息合わせも丁寧でかつ自然でした。
 一回のコンサートだけで、その演奏結果に指揮者がどのくらい関与しているかについてさらに詳細なことが書けるためには、私はもう少しコンサートに通わなければなりません。これは渡邉曉雄指揮日本フィルのCDを聴いての推測ですが、フィンランドの血の混じった渡邉曉雄がシベリウスの演奏に熱心だったことが、オケの音を長年かけてこのようなものにしたのではないか? ザラつきのない、一枚のビロードのような弦セクション。つややかな金管の迫力。一つのオルガンのような木管セクション。日本フィルを育てた立役者の一人は彼というイメージが私の中にあります。だから、23日の演奏のどの部分が日本フィルの特徴でどの部分が沼尻の貢献だとかいう聴き方は、一日だけでなくロングスパンで沼尻/日本フィルをナマで聴かないとできないわけです。(今は無理ですが、そのうち、ね)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今日、日本フィル

2006-04-23 19:03:27 | コンサート・CD案内
第159回サンデーコンサートに行きました。

<指揮>沼尻竜典[日本フィル正指揮者]
<ピアノ>金子一朗[第29回ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ、日本フィル賞]

曲目:
小山清茂:管弦楽のための《木挽歌》
ラヴェル:ピアノ協奏曲
ドヴォルジャーク:序曲《謝肉祭》
レスピーギ:交響詩《ローマの祭》

まず、管弦楽のための《木挽歌》。和製オーケストラ曲としては古典的スタンダードな曲で、弦楽によるノコギリの描写や日本民謡に基づく旋律やリズムに特徴があります。この曲、日本フィルが初演しただけあり、今日の演奏も迫力があって感動的でした。後日書きますが日本フィルの音はすばらしく美しい。この曲は土臭い民俗性が魅力ですが、それには音が美しすぎたかもしれません。でも、この曲の違った面をまた見いだしたような気もします。つまりフランス管弦楽のような洗練さも含んでいるんだと。

ところで演奏が終わったあと指揮者が客席の作曲者を指し示し、拍手を向けました。これには驚きました。そうすること自体は普通なのですが、私は(大変失礼ながら)小山清茂がご存命だとは思っていなかったのです。昔買ったスコアには(1914年~ )と書いてありますが、今年92才。昨年91才で亡くなった伊福部昭と同世代です。とりまきに支えられていましたが手を振って元気そうでした。

次はラヴェルのピアノ協奏曲。金子一朗さんのピアノを聴くのが今日の主な目的だったのですが、始まる前、私の背後のおばさん達がプログラムを見ているのでしょう。「あら早稲田出の数学の先生ですって。プロじゃないのね。オーケストラはプロなのにいいのかしらねえ」とか言っています。振り向いて「その考えは間違っていますよ」とはやりませんでしたが、金子さん、彼女らの鼻をあかしてやりましょう。ソロリサイタルのときは静けさの中に情感と深淵さを浮き上がらせる演奏でしたが、それとはまた違って、オーケストラに対峙するコンチェルトの華やかさをよく表現した演奏でした。私が好きだった部分は2楽章冒頭の歌うソロ。音符は少ない部分ですが、ラベルが「2小節書き進めるのに僕がどのくらい苦労したか知ってますか」と言っただけある美しい旋律を見事に歌っていました。最後の長いトリルも均質で消え入りとてもいい感じ。そして魔の第3楽章。金子さんには魔ではないかもしれませんが、私も一応全楽章遊びで通したことがあるので、この楽章が鮮やかに弾かれると感心してしまいます。終わったら割れるような拍手の中で、お辞儀だけはベテランのプロに比べると堂に入っていないところがまたいい感じでした。例のおばさん達が背後でまた何か会話しています。耳をそばだてましたが、残念ながら拍手に埋もれて聞き取れませんでした。

ドボルザークの「序曲:謝肉祭」は作品番号91で、あと数年で作品95の「新世界」を生むというときの作曲です。冒頭からしてチェコの舞踊音楽の華々しさが炸裂します。ドボルザークの楽譜は次のレスピーギなど近代の管弦楽曲に比べると簡明だし、段数も少ないのに、音楽はぶ厚いサウンドで迫ります。よほどオーケストレーションが上手いのでしょう。特にシンバルと大太鼓が加わる序曲は大迫力の音楽。

最後は「ローマの祭」。昔はレスピーギを「中身のない職人芸」などという評があり、最近レスピーギ自身あまり流行らないようですが、どうしてどうして、私はイタリアのラベルとでも言いたい気がします。この曲、ご存じローマ三部作の最後の曲です。大好きなのですが、ナマで聴くのは2回目。1回目は学生時代、なんと大学オケで聴きました。この曲を大学オケでとりあげるとはすごい意欲ですが、そのとき初めてこの曲を聴いて、どんな音楽か隅々まできちんと理解できたので、相当上手な演奏だったと思います。今日の日本フィルはそれよりはるかに立派な(あたりまえ!)第一級の演奏でした。部分的に「もっとねばってよ」とか思うこともありましたが、あらためてこの曲はやはり傑作だと認識を強めました。音楽的にもオーケストレーション的にも爛熟した素晴らしい曲です。松もほとんど同じくらい大傑作だと思いますが、どちらか決めろと言われたら、私は祭に軍配を上げます。

ところで曲や演奏以外にも言いたいことがあります。それはまた後日にしましょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

たまにはCD評

2006-04-22 08:43:07 | コンサート・CD案内
を一つ。1月の青柳いづみこリサイタルのロビーで買ったものです。彼女のCDは少なからず持っているので、普段自分が買わなそうな「やさしい訴え ~ラモー作品集~」というCDを買ってみました。バッハと同世代のフランスの作曲家といえばラモー、クープラン、ダカンですが、バッハの陰にかくれて目立ちません。バッハの器楽曲は「トッカータとフーガニ短調」「無伴奏バイオリンソナタ」など標題を持たない絶対音楽ばかりですが、フランスの作曲家達は下の曲目を見てもわかるように標題音楽が多く、それもサティーばりの奇想天外な標題をつけています。私もいくつかの曲を知っていますが、どれがラモーでどれがクープランかなといった程度の浅い入れ込みでした。いくらドビュッシーの「ラモー讃」やラベルの「クープランの墓」があっても、やはり大バッハの存在が大きすぎますからね。

今回もたまには普段聴かない軽いものでも聴いてみようかというノリでカーステレオで聴いてみたのですが、これがけっこういけるのです。それも繰り返し聴いていると段々味が出て来ます。軽い音楽というわけではありませんね。集中して聴くとよく考えられた鋭い演奏でありながら、あっさりBGM的に聴いても引っかかりが何もない、自然な演奏です。クラブサンで聴くことも多い曲ですが、このCDでは1887年スタインウェイが使われています。古さは全く感じなく、美しい音です。思いがけなく愛聴盤になってしまいました。

作曲する立場から曲についても書きたいことがいろいろありますが、ここではひとことだけ。「異名同音」は非常に進歩的な、面白い曲です。

曲目:
「クラヴサン曲集」(1724)より 鳥のさえずり ロンドー形式のミュゼット タンブーラン 田舎風 やさしい訴え 喜び 気粉れ ミューズたちの対話 ひとつ目巨人たち

「新クラヴサン曲集」(ca1728)より ガヴォット ガヴォットのドゥーブル メヌエット めんどり 異名同音 エジプト女たち

「コンセールによるクラヴサン組曲」より5曲(1741) リヴリ 挑発的 内気 無遠慮

「王太子妃」(1747)

発売元:コジマ録音
レーベル:ALM RECORDS
価格:税込価格¥2,940
CD番号:ALCD-7098
録音:2005年6月7日~9日
使用楽器:1887年製スタンウェイ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オペラ観劇

2006-04-12 22:11:04 | コンサート・CD案内
の話を一つ。3月のヨーロッパ出張の折、スロヴァキアの首都ブラティスラヴァで夜時間のとれる日があったので、ホテルから歩いて3分の国立劇場でオペラを観ました。と言うと、それ本場なんですか?と思うかもしれませんが、うーん、かなりいいと思いました。他の国から何台もバスツァーが来ていたほどです。

演目はヴェルディの「仮面舞踏会」。登場人物の服装が現代的なのが印象的でした。ヴェルディの時代より明らかに現代的な服装なので、これはそういう演出なのだなとはわかりました。言葉がわからないので大体しか追えませんでしたが、歌・オケ・指揮・大道具小道具・衣裳は第一級に思えましたし、観衆もまたいでたちから振る舞いから決まっていました。見せ場やカーテンコールでの拍手も、観客に同化してできました。帰ってからインターネットで解説を探し、そこでやっと鑑賞が完結した気になりました。橋田さんの解説がわかりやすいですね。

仮面舞踏会にはストックホルム王室を舞台とするオリジナル版と、ボストンを舞台とする通常版があります。ストックホルム国王暗殺の史実に基づいたオリジナル版では、当時まだ生々しいと思われたらしく、検閲に引っかかってボストンが舞台ということになったそうです。今回の演出はオリジナルヴァージョンでした。

さて、私はまだとてもオペラ通とはいえませんが、これはかなりのものだったのではないかと思います。歌の迫力もすごいし、歌手達の力量に明らかな差がなかったのも安心して聴ける一因でした。何と言っても音楽だけ勉強した人たちでなく、表情や仕草もプロの役者という感じです。昔日本で観たオペラでは、日本人歌手と本場歌手が混在していて、歌の力量や役者としての自然さに差があるなあと思ったことがありました。本場歌手はいつ指揮者を見ているんだろうと思うくらい仕草が自然ですが、日本人歌手は要所要所でチラッと指揮者を見たりしていました。それも昔のことだから今は進歩しているかもしれませんが。

配役などは次の通りです。知らない人ばかりですが、オペラ通だと知っているのでしょうか?
Gustav III: M. Lehotsky
Renato : J. Durco
Amelia : L. Rybarska
Ulrica : D. Hamarova
Oscar : J. Bernathova
Cristiano : D. Capkovie
Horn : M. Malachovsky
Ribbing : J. Peter
Armfelt : I. Pasel
Sluha : J. Hora

Conductor : P. Selecky
Orchestra of the Slovak National Theater(SND) Opera
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

青柳いづみこ

2006-02-18 20:23:21 | コンサート・CD案内
のコンサート、ドビュッシーの前奏曲集第1巻と第2巻全24曲から想を得た伊佐利彦の型絵染め作品を展示しながら全曲を演奏するというもので、面白い試みでした。まず会場は旧明倫小学校を造りかえたという京都芸術センター。会場は舞台のない講堂だったようで、奏者の顔から上しか見えなかったのが、演奏分析癖の私としてはいまいちでしたが、それを補ってあまりある味があります。この手の明治大正昭和初期の頃の洋館というのは、何ともいえない郷愁をそそります。横浜のイギリス館もそうですが、廊下を歩くとカツカツ、ミシミシ音がする木造。また聴衆には着物姿の人が少なからず見あたりました。男も年配の人に着物姿がチラホラ。京都に来たなァという感じです。

前半は第1巻。古めかしいピアノの向こうに12枚の作品が、左から第1曲~12曲分並んでいます。1曲ずつ演奏のたびにフェードアウト・インしながらスポットライトが移動します。一緒に行った同僚が「絵との対応感じるか?」と訊くので、「多少は。でもあまり関連ないかも」と答えました。しかし実は次に書くように、無意識のうちにトータルに関連を感じていたようです。

休憩から席に戻ると、当然のことですが12枚の絵が替わっていました。このとき何とも言えない違和感を感じたのです。「あれ?さっきはしっくり来たのに、今度はちぐはぐだな」と。すると登場した青柳さん、絵を見回して「順番が合ってない」と言います。やっぱり?そうしたら聴衆の伊佐利彦が「後半はバラバラに配置して曲ごとにスポットライトで示します」とのこと。なるほど、これも打合せ済みの演出かもしれませんが、粋ですね。でも打合せというより、青柳さんの反応は事前に知らされていなかったようにも見えました。

しかしこれはよく考えると、次のようなことになります。前半の開始前、左から順に作品が並んでいると思いこんだ私は、無意識のうちに曲との対応づけをして、納得したのだと思います。そして後半開始前も同じことを無意識のうちにして、染め物作品と曲とが対応しないことを感じ、それが何ともいえない違和感になっていたのだと思います。そこに伊佐氏の解説があり、それで納得。つまり、個々の作品と曲とが目に見える関連がないように見えても、全体としては意識下で関連があることになります。私が感じた違和感まで計算した演出だとすると、すごいものです。しかし伊佐というおじいちゃんは茶目っ気でやったように見えましたが。

演奏は、好みの問題があると思いますが、全体として私には速度が速く感じられました。ただカプリツィオ的な感じは良く出ていました。これも好みですが、もう少しカプリツィオさが抑えてある方が好みでした。また、ピアノの音が、フォルテピアノとまでは行かないのですが、何となく古めかしく感じられました。それもそのはず、コンサートの最後に1927年製のエラールという解説が青柳さんからありました。それはそれで味があります。でも始める前に知りたかった(パンフを読めば書いてありましたが)。現代ピアノに慣れた耳には、これは歴史的ピアノなんですと知っておく必要を感じました。

とにかく面白いコンサートでした。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

さて、嵐のような

2006-02-16 23:32:02 | コンサート・CD案内
一月二月にあって、今週末は久しぶりに余裕です。まだ明日金曜もいろんな締切があって、また来週が火の車なのですが。明後日の土曜、コンサートに行きます。大体が事後に感想を書いたり書かなかったりですが、今回は行くと宣言してしまいます。京都で青柳いづみこの弾くドビュッシー前奏曲集第1巻と第2巻の全24曲。伝統的な型絵染の手法でドビュッシーの前奏曲をモティーフに制作する作家・伊砂利彦の24枚の作品を展示して弾くそうです。詳しくは青柳いづみこオフィシャルページで。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

金子一朗さん

2006-01-08 14:19:28 | コンサート・CD案内
のピアノ演奏を聴きました。今日二回目のブログになりますが書きます。数学の先生を本職とする氏のリサイタル、一度聴かずばと思っていました。今回の曲目はドビュッシー前奏曲集第一巻全曲とハンマークラヴィーア。どちらも至高の音楽ですね。200席以上はあろうかと思う角筈(つのはず)区民センターはほぼ満席でした。何かテレビ局の取材のようなのも来ていました。

で演奏は・・・音楽にふさわしい演奏でした。椅子に座ったとき、え?それではピアノに近すぎるでしょう、と思いました。案の定位置を直しましたが、それでもほんのこころもち下げただけでした。慎重にすわる位置を決定したあと書道家のように背筋をピンとした姿勢でしばし精神統一。そして出て来た音の深々としていること。この曲としては思ったより大きめの音でスタートしました。でもこの姿勢ではこの先硬いドビュッシーにならないかな?

しかしそれは杞憂でした。鍵盤と手がしっかり見える席で聴きましたが、タッチの種類の多いことがわかります。有名なプロでもタッチは一種類だけだなと思う人がいるのですが。金子さんのフォルテは朗々としたフォルテから咆哮するフォルテまでいろいろあります。しかし手を見ていると派手には動いていません。もちろんバンバン叩くような弾き方は皆無。鍵盤に置いた手が蛙のように跳躍するような弾き方が理想なのですが、だいたいのフォルテはそういう弾き方。弱めのフォルテのとき数cm上の空中からストンと落とす弾き方を交えているのが面白く思いました。弱音はまっすぐ通って来る艶のある弱音から空間を包み込むようなフワッとした弱音までありました。特に後者の柔和な弱音を弾くとき、肩から指先まで-特に肘-が、インドの女性舞踊家のようにしなしなとするのが特徴的です。この辺、私が昔師事したことのある青柳いづみこさんに似ています。青柳さんも音の種類をいろいろ持っているのです。

弱音ペダルの使い方がうまいように聞こえました。ようにというのは、足の動きが見えなかったのです。右足のサステインペダルはもちろん見えましたが、ペダルを踏むとき結構足を動かさない人です。その陰にかくれて左足の弱音ペダルはいつ踏んでいるのか見えなかったのが残念です。ソステヌートペダルも見えませんでしたが、これはあまり使っていなかったようです。「沈める寺」のあの部分でも使っていませんでした。この部分は体の安定のためか、左足をペダルから完全に外していました。

部分的にもっと気分屋でカプリツィオ的に!と思うこともありましたが、私も思い入れ深いこの曲集は、総じて納得の行く名演でした。

ハンマークラヴィーアも良かった。第一楽章の主題提示部、リピートしてくれよと思っていると、期待通り繰り返してくれました。主題提示部はカッチリした上で美しい演奏だったのですが、まあ他でも聴けそうな感じの演奏だったので、こりゃあドビュッシーの方が良かったかなと思ったのですが、展開部から迫力が増して行き、再現部の直前など鬼気迫る感じになったので、身を乗り出しました。金子さんは主題提示部より展開部が得意なのか? 第二楽章はスケルツォ。これは曲全体が展開部みたいなもの。まさにスケルツォの演奏でした。後期のベートーベンは精神において古典音楽じゃなく現代音楽ですね。第三楽章は美しいロマン暖徐楽章ですが、飽きさせない演奏をするのは難しいと思います。で、飽きませんでしたが、この曲では形を変えては現れる主題提示部がすばらしい演奏でした。フーガの前のプレリュード的導入、これもトッカータ風で良かった。そしてフーガ。フーガも全体が展開部みたいな曲ですね。堂々とした、立派なフーガでした。

アンコールはショパンノクターン第16番変ホ長調。これはのびやかかつしみじみとした演奏。旋律も内声部も声楽のように歌っていました。リサイタル本体の演奏の質の高さから、あと1~2曲聴きたかった気もしました。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Korevaar

2005-10-13 01:46:47 | コンサート・CD案内
というピアニスト、元ページの風雅異端帳にも2回紹介しましたが、実力派です。オーソドックスなものからいろんなジャンルを演奏しますが、その中でDohnanyiを得意としているのが一つの特徴。ハンガリーのドホナーニ(1877-1960)は20世紀になっても後期ロマン派を引きずった技巧派ピアニスト作曲家です。そういうといまいち私の趣味には合わない人種のようですが、そうでもなく、ラフマニノフとともに例外です。今日紹介するCDはIVORY CLASSICS 71008という一枚。中身は全部ドホナーニのピアノ独奏曲で

(1)Variations on a Hungarian Folk Song, Op.29(1916)
(2)Six Concert Etudes, Op.28(1916)
(3)Pastorale(Hungarian Christmass Song)(1920)
(4)Ruralia Hungarica, Op.32a(1924)

です。(1)は東欧的悲しげなテーマに続く10の特徴的ヴァリエーションで、古今のピアノ変奏曲の中でも傑作に加えていいのではないでしょうか。

(2)はいかにも技巧的な、しかし中身も伴った練習曲集。第一曲はショパンのバラード2番の最後を思わせる音型。イ短調が全面に出ていますが第六音のファとファのシャープをぶつけるところが面白いです。第二曲は急速なスケルツォ風で和音の移り変わりが速すぎて無調気味に聞こえ、とても面白い曲です。第三曲は単音階を両手で交互に演奏するもので、これも不思議な浮遊感があって面白い。いや、ドホナーニのエチュードは面白いですよ。と言った途端ですが第四曲はあまり趣味じゃない音楽です。葬送行進曲を仰々しくしたみたいで。第五曲は非常に広い音域にわたる美しいアルペジオから浮き出るきれいな旋律。20世紀音楽とは思えないロマン派音楽ですが、その美しさには単純に惹かれます。最後の第六曲がまた面白い。終始くちゃくちゃした音楽で、初めからスピード感があるのにどんどん加速して、最後はもう無茶苦茶になって終わります。その無茶苦茶を正確無比に演奏するコレヴァールさんはリサイタルのアンコールでも演奏しました。

(3)は名の通り田園曲ですね。ベートーベンの田園交響曲や田園ソナタと同じくドとソの低音に乗る素朴な田舎を思わせる旋律です。ドホナーニで聴いた中では(もちろん全部なんか聴いていませんが)最も演奏技巧を要しない曲に聞こえます。易しくもなさそうですが。

(4)は充実感のある組曲。第一曲は(3)の田園曲のような素朴な感じ。第二曲は民族舞踏のような元気な曲。ブラームスのハンガリー舞曲と言われても違和感ないような曲です。ドホナーニはピアノ協奏曲もブラームスみたいだからなあ。第三曲は(1)のようなメランコリックな旋律とその発展形からなるドラマチックな音楽。第四曲は急速な五拍子のエチュード。迫力ある演奏だと思います。演奏会でナマも聴きました。第五曲は短くもかわいらしい舞曲。第六曲は何やら暗~い音楽。あまり和声推移がないのでロマン派的メランコリーはありません。こういう感じバルトークの初期にも見られますが、ハンガリー的な一面です。第七曲は単純元気音楽ですがさすが終曲という感じ。出だしはケスラーの練習曲の第一曲みたいに始まりますが複雑化して行き、後半、単純旋律にまとわりつく和音がいろいろ変わって面白いです。ドホナーニ得意の加速無茶苦茶終止でこの曲集を締めくくります。

デイヴィッド・コレヴァールというピアニスト、メジャーな曲目でも素晴らしい演奏をします。自分のサイトを持っていますが、そこに紹介されているCDはマイナーな曲目が多く、ちょっと食指を動かされます。聴く時間がとれるごとにこれから少しずつ買って行こうと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

久しぶり

2005-09-24 08:51:30 | コンサート・CD案内
のCD紹介です。まずは当然ピアノ音楽が好きなのですが、古今のピアニストにかけてはもうこの人にお任せというスペシャリストを何人も知っています。たとえばPianophiliaブログ。この方には入手困難な貴重音源を聴かせてもらったりしてお世話になっています。

そこでここではピアニストの紹介というより曲あるいは作曲家に焦点を当て、ピアノ曲に限らず紹介して行こうと思います。書いてる時点で購入可能なものに限りたいと思います。今日紹介するのはNHK-CD(KICC3024)「尾高賞受賞作品2」の一枚。中身は

(1)矢代秋雄「ピアノ協奏曲」(1967)
(2)湯浅譲二「クロノプラスティック」(1972)
(3)松村禎三「管弦楽のための前奏曲」(1968)
(4)柴田南雄「コンソート・オブ・オーケストラ」(1973)
Pf:中村紘子(1)、指揮:岩城宏之(1)(2)(4)森正(3)、NHK交響楽団

お奨めは(1)と(2)。特に(1)は大変美しく躍動感もある曲。世界的には有名曲ではありませんが、現代ピアノ協奏曲の代表的古典(変な言い方?)に位置づけてもおかしくない曲ではないでしょうか。最初から最後まで心が寸分も離れることなく、ハマってしまいます。完成させるの時間かかったろうなと思わずにはいられない、無調気味の不思議な和音の連続と緻密な構成。1976年に46才で亡くなった矢代は大曲は片手で数えるほどしか残していない寡作な作曲家ですが、どれも本当に緻密。

(2)は「オーケストラのための可塑的時間」の和名を持ち、初演の放送にかじりついて聴いた懐かしい曲。これは上記4曲の中では最も前衛音楽的で、メロディー・コード・リズムを三要素とするミュージックとは対極にある、音の彫刻作品です。空間それぞれの地点に固定された彫刻のような出だしと空間がねじれて行くような後半の対比が面白いですね。

(3)は松村禎三の作品としては私の好きな方。バッハのフーガのように単旋律から何重にも重なる声部に進む音楽は、無調にしても味わいがあります。

(4)もいい曲で好きですが、前年の(2)があるので、影響受けたんじゃないかと思ってしまうのを禁じ得ません。

どれも ー 少なくとも(1)(2)は ー 歴史に残ってもらいたいもんです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

そのファジル・サイ

2005-07-20 03:46:44 | コンサート・CD案内
の弾くモーツァルト、最初は私はちょっとどうかなと思いました。それというのも、数年前、彼が何者であるか知る前に聴いてしまったので、無名の人がこういう演奏をするのは奇をてらっていると感じなくもなかったのです。(無名かどうかは単にこっちの知識の問題でもあるのですが) モーツァルトはとりあえず玉を転がすような伝統的なスタイルが好きなので、あの偉大なチック・コリアもキース・ジャレットもグレン・グールドも、元気が良すぎて私にはいまいちです。ファジル・サイのモーツァルトも大ざっぱに言えばその系統に聞こえました。

しかしあらためて聴き返すと、ちょっとハマります。彼に入れ込んでしまったあとは、彼ならモーツァルトはこうだろうなと自然に思えます。タッチの粒が完璧に揃っていることやピアニシモの美しさがクラシック演奏家としても本格派であることを物語っています。装飾音の入れ方も面白いし。

でもモーツァルトを初めて聴くとしたらやはりクリフォード・カーゾン、内田光子、マレイ・ペライア、アシュケナージあたりの至高の演奏から聴いて欲しい、と言ったら、余計なことかな。(それにここを見に来る人でモーツァルト初めて聴く人はいないか)

最近聴いたファジル・サイはバッハ(写真のジャケット)。こちらはドンピシャリ。現代ピアノで弾くバッハの一つのあり方ですね。グレン・グールドと対をなす、と言ってしまっていいのではないでしょうか。グールドと同じように強弱・緩急自在の本能的演奏ですが、音は知性派ポーカーフェースのグールドに対し眉を上下し口の形も変えるような表情七変化的感じがあります。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

青柳いづみこの

2005-07-16 22:52:33 | コンサート・CD案内
トーク&フィルム門天ライブ2に行ってきました。14時からのマチネと18時からのソワレがありましたがマチネの方です。天才ピアニスト達のDVDと貴重フィルムを中心にときどき演奏を交えてのトークショーでした。会場の門仲天井ホールは客席60ほどのミニホール。スクリーンとSteinwayを備え、フィルム上映+ピアノ演奏というこの催しにはうってつけの会場でした。内容は青柳いづみこの新刊「ピアニストが見たピアニストー名演奏家の秘密とはー」との関連イベントです。紹介されたDVD/フィルム/CDは次の通りです。[ ]内は青柳いづみこの解説と私の感想のごたまぜ。

アルゲリッチ  『水の戯れ』 1976カナダ  DEBC-14817
         [30台の終わり頃。例によって脱力の行き届いた超人的演奏]
リヒテル    『水の戯れ』「鍵盤の巨人達」DEBC-14819 1964年9月26日カナダ
         [上体に力が入り大きく動く演奏。まるでラフマニノフの大曲
          を弾いている風情・にもかかわらず繊細優美な『水の戯れ』]
アルゲリッチ  フィルム「真夜中の対話」(ジョルジュ・ガショ監督)2002年
         [恐らく青柳いづみこの個人的つてによる貴重フィルム。インタ
          ビュー嫌いのアルゲリッチの個人的心理が赤裸々に語られた珍
          しい映像]
        ベートーベン『P協1』 IRCO285
        (1949年ブエノスアイレス・コロン劇場ライブ)
         [7才のときのライブだそうで・・・そんなことがあり得るん
          ですね]
ミケランジェリ スカルラッティ『ソナタロ短調』1949年イタリア
        「アート・オブ・ピアノ」PBS-90031
         [きてる演奏です。凄い]
        リスト『P協1』第1楽章より AUR183-2
         1939年7月8日ジュネーヴ国際コンクールでのライブ
        『水の反映』1962年スタジオ録画
         [けっこう一音一音明瞭に弾いてます]
        『亜麻色の髪の乙女』CXCO1119-20
         1993年5月7日ハンブルクでの最後のリサイタル・ライブ
         [歌っています。グレン・グールドみたいに]
フランソワ   『スカルボ』CAS7 62951 2B
         1947年9月24日サル・アルベールでの録音
         [凄い名演。ラベルは演奏家の個性が出にくい音楽ですが、フラ
          ンソワにかかると何でも自分の音楽にしてしまいます。それに
          しても最初の6小節が抜けています!]
        フランソワ『黒魔術第2番』SPCD1861
         1955年8月7日ヴィシー音楽祭でのライブ
         [これは面白い曲。技巧的には相当難しそう]
        フィルム「魅惑のピアノ」(マクシミリアン・フランソワ監督)
         庭に置いたピアノで『ミンストレル』
         [フランソワ節ですね]
         ジャズバーで『パスピエ』
         [目前でみるフランソワの演奏をみつめる黒人ジャズピアニスト
          の真剣なまなざしがいいですね]
バルビゼ    フェラスとのフランク『ソナタ』第2楽章DVB4904449
         1963年1月29日のテレビ映像
         [カラヤンに抜擢されたフェラスはいまいちだと思っていました
          が、バルビゼとこんなに息の合うすばらしいコンビを組んでい
          たとは知りませんでした。二人とも暗譜で演奏しています。本
          当にピッタリのアンサンブル。フェラスがカラヤンに抜擢され
          てからはこのコンビを組む機会も減ったそうで残念です。この
          頃のバルビゼは生真面目な風貌で、ガハハおじさんになる前の
          ことなんですね。]
        フィルム「マルセイユの音楽家」からジャズ・セッション風景
         1979年7月6~10日マルセイユ音楽院ホールでの録音
         [バルビゼとその同僚がこんなに本格的ジャズメンとは知りませ
          んでした。青柳さんによればバルビゼの若い頃クラシックでは
          食べていけなくてジャズクラブで稼いだそうですが、そこで鍛
          えたんですね。それにしてもこのフィルムは音楽院長バルビゼ
          と仲間の教授達という、およそジャズメンらしからぬ風情なの
          が面白いです。熟年バルビゼのガハハおじさんぶりも健在]
ハイドシェック 「アート・オブ・ピアノ」コルトーのレッスン風景1953年
        『グラナダの夕』DD 969 195
         [コルトー直弟子だからドビュッシーの孫弟子のようなもので、
          青柳さんによれば次のドビュッシー自身の演奏に近いというこ
          とです。]
        ドビュッシー自身が弾く『グラナダの夕』DSPRCD 001
         [時間がなかったのか青柳さんは言ってませんでしたが、これは
          ロール式自動演奏ピアノによる再生音を録音したものですね。
          同じシリーズでよれよれした『雪は踊っている』を聞いたこと
          がありますが、この『グラナダの夕』は玄人ピアニスト的演奏
          です]
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ファジル・サイ

2005-07-13 01:21:25 | コンサート・CD案内
はいいと思いませんか? 1970年生まれの35才。個性的なピアニスト・作曲家です。なんか、もう少し有名でもいい人のように思います。

最初にこの人を知ったのは何年か前、同じトルコから私の研究室に来たポスドクの人からCDを借りたのがきっかけです。その人はトルコのアーティストに詳しく、トルコでしか売っていないCDを含め、いろいろ教えてくれます。初めて彼のピアノのCDを聴いて、大変個性的でおもしろい演奏に惹かれました。音楽が生きているみたいでした。

作曲家としての彼は、かのブラック・アース。これはいいです。いずれ本ページで民族音楽にも言及しようと思いますが、トルコの民族音楽をとりいれた現代ピアノ曲として成功していますね。ピアノの内部奏法としても非常に効果的使い方です。日本に来たときも良く演奏したようですが。他の人がカバーするような本格的作曲家になって欲しいと思います。

日本でやったといえば、水戸かどこかで自動演奏ピアノのロールに入れた自分の演奏に合わせてもう一台のピアノで春の祭典を弾いたようですが、これ聴きたかったなあ。そもそもまだ生で彼を聴いていません。誰か聴いた人いたらぜひコメント欲しいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トーク&フィルム

2005-06-29 21:17:34 | コンサート・CD案内
門天ライブ2なるものを青柳いづみこが7月16日(土)門仲天井ホールで開きます。時間はマチネが14時から、ソワレが18時から。

[映像と録音]
M. アルゲリチ→2002年製作のフィルム「真夜中の対話」
B=ミケランジェリ→19才のときに弾いたリストP協1ほか
S. フランソワ→自作自演
P. バルビゼ→「春」「ジャズセッション」
など

入場料3500円(ホール会員と学生は3000円)
申込み:門仲天井ホール(03-3641-8275, Fax:03-3820-8646)
    acn94264@par.odn.ne.jp
    または企画制作協力の池田さん(Fax:03-3926-8568)まで
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする