のコンサートに行きました。田中さんのお薦めで興味を持ったのです。もうしばらく前に行ったのですが、このところ半徹夜続きで全く書けませんでした。豪壮雄大なロストロポーヴィチ、狂おしい情熱ほとばしるデュ・プレ、万能豊饒ヨーヨー・マ、奇才シュタルケル、ねっとりねばっこいマイスキー、癒しのフルニエ、古楽器的魅力のビルスマ。これらの中にあってイッサーリスはどの座標に位置するのか?
本当は協奏曲のコンサートに行きたかったのですが、都合がつかず、二番目に聴きたかった室内楽を聴きました。これで彼の全貌がわかるとはもちろん思いませんが。曲目はクララ・シューマンのピアノ三重奏曲ト短調、ブラームスのピアノ四重奏曲ハ短調、それにロベルト・シューマンのピアノ四重奏曲変ホ長調。詳しくは
ここにしばらく出ているでしょう。このプログラム、ストーリー性が感じられますね。解説にもありましたがイッサーリスはプログラムに思慮深いところがあるようです。
クララ・シューマンのピアノ三重奏曲ト短調は初めて聴きました。シューマンの若い頃の作風に影響を受けているようですが、ショパン若書きのピアノ三重奏曲ト短調にも似ています。楽章の対比がもう少しあってもいいかなとも思います(たとえば第2楽章のスケルツォは若干メヌエット風、第3楽章の緩叙楽章は遅くない無言歌風、フィナーレも速くないアレグレットです)が、しっとりと楽しめる佳曲でした。フィナーレの最後は迫力あり、盛り上がりました。
ブラームスの室内楽は・・・素晴らしいことはいうまでもないですよね。どれも深い音楽である点はピアノ曲より徹底しているのではないでしょうか。フィンランディアみたいに始まるこのハ短調の四重奏曲ももう最高。演奏も言うことなし。
最後はシューマンのピアノ四重奏曲変ホ長調。春やラインのように明るく、救われる思いがします。私は張りつめた深刻な短調系にシューマンの神髄を見いだしますが、それはシューマンの苦悩と重なって痛々しい感じもします。その中にあって、彼の長調系の曲群は明るさが引き立ってホッとします。
演奏は、面白かった、と言ったら不謹慎でしょうか。まずシリアス・クラシックにマッチした素晴らしい演奏だったことを言っておきます。で、何年も前パスカル・ロジェを中心とする似たコンサートがありましたが、それと比較してしまうのを免れず、興味深く聴きました。パスカル・ロジェの紀尾井ホールでの演奏会はやはりシューマンとブラームスのピアノ四重奏曲を中心としたもので、感動的な演奏会でした。それと同じくらい今回も感動しましたが、前者がピアニストを中心、後者がチェリストを中心としているのが演奏に現れていたのが面白く思われました。そんなに極端ではありませんが。でも、String Quartetのように「演奏者は誰?」というより「どのQuartet?」の方が重要なのが室内楽ですが、今回のように「誰の企画?」というのが音楽に色づけられるのもまた面白いものだなぁと思った次第です。今度はバシュメット企画の同じ曲目を聴いてみたいなどと考えたりしました。
ところでイッサーリスの演奏ですが、柔和なところはとことん柔和ですし激しいところは一層激しいですね。どの座標に位置するか? この室内楽だけでは何ともいえませんが、上記のチェリスト達のいい点を兼ね備えているようです。強いていえばシュタルケル的かという感じもしましたが、今後いろいろ聴くと印象は変わるでしょう。ひとつ、ピチカートとボウイングの自然さと奔放さは印象的でした。うっとりと目をつむって聴いているとき深みのあるピチカートの音にハッとして目を開けると、ライトにてらされた右手がまるで鬼火のようにしなやかにダンスしていました。ヴァイオリンとヴィオラの日本人も何の不足もない相当の名手と思いましたが、ピチカートとボウイングは明らかにイッサーリスの方が猫のようなしなやかさと諧謔性を帯びていました。
アンコールはシューマンの第3楽章をもう一回。これはパスカル・ロジェと同じでした。室内楽はアンコール向きの曲が少ないので、この四重奏曲をやったならこの楽章をアンコールにするのが最適解でしょう。作曲的にはワンパターンの繰り返しを4回目のギリギリのところで崩してくれてはいるものの、崩さなかったら駄作に分類しなければならないのでヒヤヒヤものという感じもあります。それにしても美しい曲ですね。終わると会場からため息が聞こえました。