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詠里庵

2017年の墓碑銘

2017-12-31 11:11:33 | 日々のこと(一般)
年の瀬にこのブログ恒例の「今年の墓碑銘」です。主に科学分野と芸術分野から10人、独断で書いていますが、科学と芸術以外の人もとりあげています。

[1] ジョルジュ・プレートル(1月4日。フランスの指揮者。享年92才)
有名指揮者なのでいろいろ大曲のレコードがありますが、最も印象に残っているのは、なんと「動物の謝肉祭」。ピアノ二人がチッコリーニとワイセンベルクでオケがパリ音楽院管弦楽団という豪華キャストということもありますが、何よりウィットに富んでいる珠玉の演奏。

[2] ハンス・デーメルト(3月7日。ドイツ生まれのアメリカの実験物理学者。享年94才)
イオントラップの一つであるペニングトラップを開発したことで1989年ノーベル物理学賞。ちなみに2012年にノーベル賞をとったワインランドもペニングトラップの愛用者です。

[3] ロナルド・ドリーヴァー(3月7日。スコットランド人の実験物理学者。享年85才)
今年のノーベル物理学賞は重力波検出を成し遂げたLIGOのキップ・ソーン、レイナー・ワイス、それにバリー・バリシュに与えられましたが、ドリーヴァーがあと7ヶ月生きていたら・・・私が量子非破壊測定の研究をしていた頃、ソーンとドリーヴァーの名はよく聞きました。最近はドレーバーと書かれるようですが。

[4] ルイ・フレモー(3月20日。フランスの指揮者。享年95才)
サンソン・フランソワ独奏のショパンの二つのコンチェルトでモンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団を指揮した演奏が印象に残っています。ショパンの協奏曲のオケパートは主役のピアノを引き立てるカラオケのように奏されることが多いのですが、1965年のこの演奏もその例に漏れません。特にフランソワの自由奔放さに寄り添うとしたらそれしかないでしょう。しかしフレモーほどそれをうまくやることはできないかもしれません。好きなようにテンポを揺らすフランソワに徹底的に合わせている一方で、顔色をうかがうぎこちなさはなく自然で伸び伸びと指揮しているのは驚き。

[5] 梯郁太郎(4月1日。技術者・実業家・ローランドの創業者。享年87才)
私が新社会人だったころ冨田勲を聴いてMoogシンセサイザーが欲しくなったのですが、ベラボーに高くて手が出なかった。でも梯社長のおかげで新入社員でも手が出る値段のシンセサイザーが世に出ました。そしてローランドシンセサイザーテープ音楽コンテスト(冨田勲が審査委員長)で1978年から80年にかけて三回も賞をもらいました。5年前お会いしたときはお元気そうだったので、まさかと思いました。

[6] ロバート・テイラー(4月13日。コンピューター科学者。享年86才)
俳優ではなく、インターネットの先駆者。インターネットは英訳するとThe Internetですが、競合するネットは地球上に出て来ないということでしょうか。ま、出て来ない方が面倒なくていいですが。

[7] ジェフリー・テイト(6月2日。指揮者。享年75才)
内田光子が弾くモーツァルトの協奏曲集でイギリス室内管弦楽団を指揮しています。絶品ですね。

[8] ピエール・アンリ(7月5日。フランスの作曲家。享年91才)
ピエール・シェフェールとともにミュージック・コンクレートの先駆者。これを聴いたのはシンセサイザーを始める前のこと(1970年代)でしたが、大きな衝撃を受けました。テープレコーダーが未知の音源を造る楽器になろうとは。現代音楽はセリーの方向ではなくこっちだなと思いました。

[9] ニコラ・ブレームバーゲン(9月5日。オランダ生まれのアメリカ人科学者。享年97才)
非線形光学とレーザー分光学への貢献で1981年ノーベル物理学賞。1つ超弩級の発見というのでなく長年の功績というノーベル賞が当時話題になりました。最近はブルームバーゲンと書くのを見かけますが、私が慣れているのはブレームバーゲン(培風館物理学辞典改訂版[92年])またはブレンベルゲン(岩波理化学辞典第5阪[98年])です。非線形光学は3回くらいブームがあって、その最初を盛り上げた人です。私も1回目から波長可変コヒーレント光発生手段として非線形光学のお世話になっていました(1978年頃)が、2回目ではエンタングルした単一光子対の発生が可能となり、3回目では発生だけでなく、外から入力した単一光子(量子状態は任意でかつ未知でよい)を波長変換して出力する(その量子状態には触らず)という制御まで自在になりました。彼がノーベル賞をもらってほどなく、彼の顔を知らずにパーティで意気投合したことがあります。後で知り合いに「あの人は誰?」と訊いたら知らずに話し込んでいたのかと驚きながら教えてくれたので、こっちが青くなりました。

[10]ズザナ・ルージチコヴァー(9月27日。チェコのチェンバロ奏者。享年91才)
ヴァルヒャと同じくバッハの鍵盤音楽を全曲録音しています。またヴァイオリニストのヨゼフ・スーク(ドヴォルザークの弟子であり娘婿であるヨゼフ・スークの同姓同名の孫)とヘンデルのヴァイオリンソナタを共演しています。シンセサイザーやミュージック・コンクレートとは打って変わって、18世紀ヨーロッパの別世界にワープしたかのような、心洗われるクラッシック。

番外編:
(a)スタニスワフ・スクロヴァチェフスキ(2月21日。ポーランド生まれの指揮者・作曲家。享年93才)長い名前ですね。非ユークリッド幾何学にロバチェフスキーという人がいますがそれより長い。
(b)渡瀬恒彦(3月14日。説明不要でしょう。享年72才)科学とも音楽とも関係ありませんが、印象に残っている俳優なので挙げます。兄の渡哲也と似てますよね。どちらも警察ドラマで見ますね。
(c)アレクセイ・アブリコソフ(3月29日。ロシアの物理学者。享年88才)有名な「統計物理学における場の量子論の方法」の著者。いま絶版で3万円近くするんですね。定価で買えるときに買っておいてよかった。
(D)竹内外史(5月10日。数学者。享年92才)量子力学と関係が深い数学についてよく書いています。線形代数オンリーではなく、変わったところでは著書の「付録」の形で「量子論理」を紹介しています。
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トラベラーズチェック

2017-12-02 00:14:42 | 日々のこと(一般)
って使っていますか? 自著サインがしてあり、使うときもう一つの空欄に再度自著サインするようになっているので、自分しか使えないという安全性があります。私は外国出張時にいざという時の予備としていつも持って行きます。しかしいざという時がなかったので、何十年も使わないでいるうちに銀行の名前も変わってしまいました。まさか失効してないだろうなと、ふと不安になりました。知人にこの話をしたら、トラベラーズチェックなんてもう流行らないし販売終了していますよ、と言われ、これは手持ちのドルのトラベラーズチェックが紙切れになってしまったかと本当に不安になりました。

さっそく発行元銀行(今は別の名前になっている)に行ったら、使える店は減っているかもしれないけれど、発行元の私どもはちゃんと円に換金しますよというので一安心。それなら換金せずに持ち続けようか、と迷いました。買った当時はプラザ合意直後だったから、大きな含み損を実損に確定してしまうことになるし。といっても今後ドルがプラザ合意前のように強くなる可能性もないだろうから、時間が経つにつれ価値が下がって行くばかりだなと考え、思い切って円に換金してしまいました。損したけど、ああスッキリ。

それにしても本人しか使えないということは、もし突然死でもしてしまったら家族でも換金できないのでしょうか? と、いらぬことを考えながら帰途につきました。
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