
■ 戦争は今や民営化の時代 ■
イラク戦争からニュースにも取り上げられる民間軍事会社。
英語ではPMC((Private Military Company もしくはPrivate Military Contractor)。
私はカンパニーよりも請負業としてのコントラクターの方が彼らに実態を反映していると思えます。
「民間」と付くと、なんだか血生臭さが薄まりますが、
主な仕事は、戦争の後方支援。
兵站の車列の警備や、要人警護、市内のパトロールなどなど。
さらには、正規軍の教育を請け負ったり、
場合によっては直接戦闘に関わったりもします。
■ 軍事費削減が生み出した戦争ビジネス ■
傭兵とPMCはどう違うの?と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
傭兵はお金で雇われますが、正規軍の組織の中で運用されます。
戦争はお金が掛かりますが、その最大のものが人件費。
特に、鍛錬された兵士やパイロットの育成にはコストが掛かります。
そこで、既に実績を積んだ兵士をお金で雇い入れるのが傭兵。
一方、民間軍事会社PMCは、あくまでも軍とは一線を画しています。
彼らは軍隊としての軍服の着用は許されておらず、
一般的には軍同士の戦闘にも直接は関わりません。
厳密に軍隊とは線引きがされているのです。
軍隊のコストの多くは、人件費と兵站(兵器や物資、食料の輸送)です。
いかに近代兵器と精強な兵士を揃えていても、兵站が途絶えれば戦争の継続は不可能です。
そこで、軍は兵站を確保する後方要員を大量に抱える事になり、
ここに多くの人件費が発生します。
兵站や後方支援要員を常に軍の中に抱えている事は、平時には無駄にもなります。
そこで、これらの軍の雑務を、外注してコストカットするのがPMCなのです。
各国の軍事費削減の動きが、PMCの台頭を後押ししました。
■ PMCの社員の多くは現地採用 ■
イラク戦争では、PMCの社員の多くは現地採用です。
PMCの幹部社員は優秀な元軍人です。
PMCは軍の優秀な軍人をヘッドハントしています。
それらの優秀な元軍人が、現地採用の社員を訓練しています。
PMCは優秀な軍人の集まりなので、正規軍の訓練を請け負ったりもします。
元特殊部隊出身の様な優秀な社員は1日1000ドル程度の収入があります。
一方、現地採用やPMCを渡り歩くような途上国の社員は一ヶ月1000ドル程度の報酬です。
これでも途上国の年収に匹敵しますから、PMC社員への志願者は後を絶ちません。
PMCの社員は、死亡時や負傷時の保障もしっかりしていません。
国が戦死者や負傷者の生活を一生見なければならない正規軍の兵士よりもお得です。
こういった経済原理によって、イラク戦争では正規軍とPMCの比率は10:1程度になるといわれます。
■ 先進国で戦争遂行を妨げるのは、自国の戦死者 ■
戦争は始める時は勢いがありますが、
戦争が長期化すると国民は戦争終結を望む様になります。
ことに自国の戦死者が増加する事が、厭戦気分の高まりに繋がります。
ところがPMCの社員の死亡は、戦士者数に数えられません。
もとより現地採用の社員の死に、心を痛める国民は居ません。
後方支援は安全の様に思われますが、
敵の兵站路を断つことは、戦争の基本中の基本です。
アフガニスタンでも、イラクでも、兵站の車列は常にゲリラに狙われます。
戦闘になったり、爆弾が爆発する事も多く、
PMCの社員は、常に危険に身をさらし、負傷したり死亡する事も少なくありません。
しかし、彼らの死は、戦死では無く事故死として扱われるのです。
■ 対ゲリラ戦を担うPMC ■
イラク戦争は戦争初期こそは世正規軍同士の戦いでした。
しかし、フセイン政権が瓦解してからは、海外の軍隊とゲリラの戦いになっています。
PMCはこういったゲリラとの戦闘を請け負っています。
ゲリラ達はライフルや迫撃砲で武装しているので、警察の手には負えません。
しかし、正規軍程、重武装している訳ではないので、
PMCが対ゲリラ戦を請け負う事になったのです。
ほかに、ゲリラのアジトを探索して、軍に連絡する様な、
特殊部隊や諜報機関が行うような行為も請負ます。
PMCの中には特殊部隊やCIAのOBが大勢いるからです。
最近では無人機の運用までPMCが請け負っている様です。
ただ、交戦になった場合は軍人と交替する様です。
■ 短期決戦よりは、長期化したゲリラ戦で儲けが拡大する ■
戦争が正規軍同士の総力戦の間は、PMCにあまり活躍の場がありません。
ところが、ゲリラ戦として戦争が長期化すると、
PMCの請け負う仕事が増大します。
現代の戦争は、敵国の国民でも大量に殺害すると国際世論が黙っていません。
ですから、大規模な都市爆撃などは行われません。
逆に言えば、決定的な敗北を相手国に与える事が出来ないので、
ゲリラは次から次に生まれてきます。
きのうまで床屋だった人も、銃さえ手に入れればゲリラに早代わりです。
PMCや軍がゲリラを掃討する一方で、
先進国の誰かが、ゲリラに武器を供給し続け、
こうして、戦いは延々に終わる事無く、
PMCは利益を拡大してゆきます。
PMCの幹部社員は軍のエリートのOBでしたから、
軍や防衛官僚とPMCの癒着は切る事は出来ません。
こうして、戦争はいつの間にか、国家の対立から民間のビジネスにすり替わってしまいます。
■ 現代の戦争の裏側を克明に描く『ヨルムンガンド』 ■
現在放送されているアニメ『ヨルムンガンド』は、
武器商人の視点から、現代の戦争を冷徹に見つめる作品です。
ギリシャの海運業者HCLI社は、全世界に張り巡らせた物流網を生かし、
「武器商人」としてのビジネスを展開しています。
社長の子供二人が、実質的にこのビジネスと取り仕切っています。
兄のキャスパー・ヘクマティアルと、妹のココ・ヘクマティアルです。
彼らは世界各地の紛争地帯に出没し、武器を提供します。
ヨロッパの軍隊に最新鋭のヘリやミサイルを売りつけたり、
孤立した戦線の部隊に、弾薬を輸送したりします。
物語はココを守る私兵に、一人の少年兵が加わる所から始まります。
ヨナという少年兵は、家族や友人を殺した武器を憎んでいます。
そして、それを売り歩く武器商人も同様に憎んでいます。
ヨナは山岳兵でしたが、友人の子供達を殺した自分の軍を襲撃します。
その時、キャスパーに捉えられ、命の代償にココの為に働く事になります。
ところが、ココは普通の武器商人とは全然違います。
何を考えているのか、ヘラヘラして全く分かりません。
「ココはなぜ武器商人をしているの?」と問うヨナに、ココはこう言い放ちます。
「世界平和の為だよ。」
■ PMCの実際としてのココの私兵 ■
ココは、仕事がら、度々命を狙われます。
CIAもFBIもココの動きをマークしています。
商売敵は、殺し屋を差し向けてきます。
そんなココをガッチリと守るのが、ココの私兵達です。
彼らこそ、要人警護を請け負ったPMCに他なりません。
米軍特殊部隊出身者、
スコットランドヤードの対テロ部隊のスナイパー。
国連PKO部隊出身者。
優秀な砲撃主。
爆弾の魅力に取り付かれた米軍工兵隊出身者。
自衛隊の諜報部隊の出身者。
マフィアの用心棒だった者。
そして、山岳ゲリラだった少年ヨナ。
彼らは、各国の軍隊のエリート中のエリートでした。
その強さたるや、ほとんど無敵とも言えます。
■ 戦争の狭間を渡り歩く武器商人 ■
戦争とは戦闘地域だけに限定されません。
平時でも隣国の侵略を心配する国は、兵器の増強に余念がありません。
そこに、ハイエナ宜しく、武器商人達が群がり、
少しでも利益を上げようと暗躍します。
隣国が最新式の戦闘機のバージョンアップパッケージを購入すれば、
こちらは、戦闘ヘリの増強で対応するといった具合です。
第一話は、軍に武器を売り込むココを、警察幹部が暗殺しようと企てます。
その武器の購入が、地域の軍事バランスを崩すとこの警察幹部は考えているからです。
ところが、ココはさらに武器を売りつけようとする別の武器商人を排除します。
軍事バランスが混乱する事を、許さないのです。
ある時は、軍事的に孤立した東欧圏の部隊に拘束されます。
レーダーを調達しろと脅されるのです。
窮地を脱したココが、彼らに届けたのは、地対空ミサイル。
これが、配備された為に武力均衡が生まれ、戦闘は終結します。
ある時はアフリカで中国の軍事顧問会社と衝突します。
中国はアフリカに支援という名目で、民間人を装った人民解放軍を送り込んでいます。
民間会社に偽装した彼らは、アフリカで武器を売りさばき、
石油採掘現場の警備を担当し、さらには政治的な汚れ仕事に引き受けます。
これこそ中国版のPMCですが、彼らは国営PMCです。
イラクでは兵站の任務に共同で着くイギリスのPMCと戦闘になります。
戦争をビジネスとしか考えていない彼らは、味方でも商売仇であれば平気で裏切ります。
この様に『ヨルムンガンド』は、戦争の隙間を克明に描く事で、
現代の国際情勢と戦争に実際を、分かり易く説明してくれます。
アニメとはいえ、そこで描かれる内容は、
私達が新聞やニュースで知りうる内容がいかに偽りであるかを教えてくれます。
現代の戦争はビジネスであり、国家が種まきして、民間が刈り取っているのです。
■ 今、最も見なければならないアニメ ■
私は『ヨルムンガンド』は、平和ボケした日本人が、
今、最も見るべきアニメだと思っています。
男性も女性も、高校生も老人も、
世界の常識から取り残される、情報過疎地の日本において、
これ程分かり易く、現在の世界情勢を説明しているメディアが他に無いからです。
新聞もTVのニュースも、表面的で大国に都合の良い報道しかしません。
戦争の本当の原因は何か?
忘れ去られた戦争は、実は今も続いているのか?
イラクで、アフガンで行われている戦争の実態はどんなものなのか?
民間軍事会社はどうゆうビジネスを展開しているのか?
アニメのほとんどは、高校生に娯楽を提供する内容ばかりです。
しかし、中には、こういう重たいテーマをエンタテーメントに昇華した作品もあるのです。
■ 決して明かされない、世の中から戦争を無くすココの計画とは? ■
物語は佳境を迎えています。
ココの兄、キャスパーは衛星監視網によって世界中の戦争を監視し、
効率的に兵站を代行するシステムを、各国に発表します。
どんな小国でも、米軍に匹敵する兵站システムを外注できるのです。
PMCここに極まれりといった内容の発表に、
世界の軍事情勢は一気に変化を見せます。
戦争を民間が管理する社会が到来するかもしれないのです。
一方、ココと親友のドクター・ミナミは、別の壮大な計画を練っています。
これは、決して明かされない計画ですが、
CIAが、ライバルの武器商人が、ココの計画をかぎつけています。
ココの究極の目的、「世界から戦争を無くす」ための計画とは何なのか?
計画の名前は「ヨルムンガンド」。北欧神話に伝わる「魔物」です。
さて物語も終盤、いよいよココとその仲間達から目が離せません。
興味を持たれた方は是非TSUTAYAへGO。
前期放送分は、比較的軽い内容でしたが、
後期放送分は、神回の連続です。
内容も難しく、大人でも見ごたえバッチリです。
ちなみに『ヨルムンガンド』のサントラ、超クールです。
岩崎琢の「ヨルムンガンド」のサントラを聞くと、管野よう子の非凡さが浮き彫りになる (2012.07.20 人力でGO)