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ロボットは「夢と希望とロマン」だ・・・『ROBOTICS;NOTES』に見るサイバニクスの未来

2012-11-08 09:17:00 | アニメ
 

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■ バリアフリーの発想の逆転 ■

下半身に障害がある身体障害者が日常生活する場合、様々な困難に遭遇します。
車椅子の最大の障害は「段差」ですが、
人間の生活環境の中には、階段をはじめ、様々な段差が存在します。

「バリアフリー」の一つの手法に、「段差」の解消があります。

1) 家の中に段差を無くす
2) 階段にスロープを附ける
3) 歩道と車道に境の段差を小さくする
4) 駅などにエレベーターを設置する

これらが、現在、車椅子を利用する人に対する「バリアフリー」の対応です。

しかし、健常な人間が生活する環境は至る所に段差が有り、
私達の社会から、全ての段差を取り去る事など到底不可能です。

そこで発想の逆転をしたのが、パワーサポートです。

センサーとモーターを組み合わせて、脚部に装着し、
筋肉に伝わる微細な電気信号などを検地して、
筋肉の動きのサポートをする装置です。

社会や環境を、障碍者に合わせて変化させるのでは無く、
失われた機能を機械的にサポートする事で、
障碍者が健常者と同じ環境で生活する事を目指すのです。

この発想は、眼鏡やコンタクトレンズ、補聴器や入れ歯の延長線上にあります。

■ 既に実用段階にある技術 ■

この分野で先頭を走るのは、筑波大学の山海研究室です。
http://sanlab.kz.tsukuba.ac.jp/?page_id=51

山のものとも、海のものともつかない技術では無く、
既に実用段階に近い技術です。

彼らはこの分野を「サイバニクス(Cybernic)」と呼んでいます。
Cybernetics+Mechatronics+Informatics

人間の意志を筋電位などから検出する『随意的制御システム』と
器械の動きを自動で制御する『自律的制御システム』を技術の柱としています。

これらの技術は、複数の技術の結合によって成り立っており、
サイバニクスは高度な複合テクノロジーが必要な分野と言えます。

■ 一番単純な人型ロボット ■

この様な外装式のパワーサポートは、
人型ロボット技術の基礎を造るものです。

コントロールは随意筋の信号を読み取る事ですから、
「思考」の様な行動な情報処理は不要ですし、
外界からの視覚、聴覚情報の収集と処理も人間の脳が行います。

機械の担う情報処理は、筋電位の変化の解析と、
バランスの維持や、力の入れ具合のコントロールなどに限定されます。
それだけに、実用化が比較的容易なロボットとも言えます。

この様なシステムをロボットと呼ぶのか、
あるいは装置や機器と分類するのかは、微妙な所があります。

義足や義手に近い装置、
或いは歩行補助装置と分類され、
一般的にはロボットという認識はされないのでしょう。

■ ロボットは「人」か「道具」か? 

ところで、ロボットは単なる機械や装置でしょうか?
それとも、「人に準じるモノ」なのでしょうか?
これは、SF小説が昔から題材とするテーマです。
SF小説ではAI(人口知能)が、自我を持つならば、「人」と判断しています。

■ 道具を擬人化する日本文化 

古くは鉄腕アトムに始まり、鉄人28号やマグマ大使、
近年は、ガンダムやエヴァンゲリオン(これは生体?)に至るまで、
日本のアニメはロボットを描き続けています。

特徴的なのは、日本人はロボットを「人に準じるもの」として描き続けています。
人型のアンドロイドは勿論、巨大ロボットにも「人格」があったりします。

ガンダムからボトムスに繋がる、サンライズのリアルロボット路線だけが例外で、
ロボットを道具として見る事で、西洋的なリアリズムを追求しています。
ガンダムではアムロは最後、ガンダムを乗り捨てて、シャーの攻撃の囮として利用します。
ボトムズに居たっては、ロボットは使い捨て状態です。

ガンダムの着想は、アメリカのSF小説に登場する「パワードスーツ」ですから、
ガンダムは、初めから道具として定義され、
従来の擬人化されたロボットとの意図的な差別化が為されたのです。

一方、「輪廻のラグランジェ」などでは主人公はロボットを擬人化して接しています。
ロボットに名前を付け、「この子」と呼びます。

これは日本人の古代から受け継ぐ精神文化の自然な表現とも受け取れます。

日本神道では万物に神が宿ります。
ですから、道具も神であり、人格(神格)を有します。

日本刀に村雨丸と名付けたり、船舶を○○丸と呼称するのは、
道具である日本刀や船にも、魂や意思が宿っていると考えるからででは無いでしょうか。

「丸」の起源は、中世の男子の一人称である「まろ(麿・麻呂)」だと言われています。
それがナマって「まる・丸」になり、
男子が愛用の道具や馬などに「○○丸」と名付けた様です。

無生物である物に、人格としての名前を付けるところが、
物を物質の塊と見なす西洋文化と、日本文化の大きく異なる点とも言えます。
だから、日本人はアイボの様な器械にも、本物の犬の様な愛情を注げるのでしょう。

西洋の女の子達も、人形や縫い包みを愛玩します。
しかし、それはあくまでも、「人間」や「動物」の移し身であり、
それなりに忠実に人間や動物の特徴を模っています。

スターウォーズのR2D2やC3POは例外的ですが、
彼らは知性を持ち、人とコミニュケートします。
西洋人は意思を持たない道具と語り合う事は無いでしょう。

■ ロボットには「夢とロマンと希望」が溢れている ■

日本の技術者の多くも、ロボットが大好きです。

日本人技術者にとって、ロボットは「夢とロマンと希望」の対象なのです。
それが、ソニーやホンダがロボット研究を続ける原動力になっているとも言えます。

確かに、将来のビジネスとしてロボットは有望かも知れません。
しかし、それ以上に、ロボットは日本人に強くアピールするので、
企業イメージの向上に大きく貢献しています。

日本人は、ホンダやソニーのロボットを、
一つの人格として受け入れているのでしょう。

■ 調整型技術として、日本人向けなロボット技術 ■

ロボット技術によるパワーサポートは米国の陸軍では実用段階です。
彼らの発想は、「パワードスーツ」です。
装着する事で、人間の力を拡張する「スーツ」という考え方で、
陸軍の補給任務など(多分、重い荷物を運ぶサポート)に活用しています。

一方、日本は福祉分野など民生用での研究が盛んです。

障害者や高齢者が利用者となる場合、
高度な自動化は勿論に事、安全性や使用感など、細かな気配りが要求されます。

これには、センサーや制御プログラムなどの細かな調整は勿論、
理学療法士との連携など、日本独自の調整型産業のメリットが発揮されます。
要は、細やかさと心遣いが要求される技術分野と言えます。

■ 老人は自分の足で歩けるならば、喜んでお金を払う? ■

日本の多くの老人が、転んだ拍子に大腿骨を骨折します。
そして、多くの方が、回復できずに寝たきりや車椅子の生活になります。
この様に、介護が必要な生活は、老人達にも苦痛ですが、
介護をする家族にも負担を強います。

毎年多くの人達が、家族の介護に為に離職します。
これを、介護離職者と呼ぶそうです。

もし、おじちゃんや、おばあちゃんが自分の足で歩けたら・・・
これは家族のみならず、介助を必要とする老人自信の望みでもあるでしょう。

もし、パワーサポートの装着で、日常生活が出来るのならば、
そのメリットは、老人達本人のみならず、家族にも及びます。

例え、パワーサポートが自動車並みの200万もする商品であったとしても、
失われる家族の所得を考えたら安いものです。

さらに、老人達はお金を持っていますから、
家族に迷惑を掛けない為ならば、喜んで200万円を支払うでしょう。

200万円の自動車の市場は縮小していますが、
200万円のロボットの市場は、今後拡大する可能性があります。

ここが、SONYやホンダがロボット研究に資金をつぎ込む理由でもあります。
トヨタもこの分野の研究をしています。

■ ベンチャーの中からも有望企業が成長するかも知れない ■

ベンチャーの中にも、ロボット技術で成長している企業が出てきています。
受付嬢ロボットや、警備ロボットなどが実用化されています。

さらに、災害現場や原発事故現場など、従来の機械が入り難い場所での
ロボットの実用に期待が寄せられています。

日本人の多くは、家電産業の未来に悲観的ですが、
それは、有望な新規商品がなかなか現れないからです。

今期や来期の売り上げや利益確保、あるいは損失の縮小を優先しなければ
企業の存続も危ぶまれる大手家電は、
既にロボットなどという、夢みたいな分野への投資意欲を失っているでしょう。

大手家電メーカーが、ロボットなどというニッチ分野になかなか研究開発費を裂けない中で、
確実にベンチャー割り込むスペースが生まれています。

こういった中から、第二のSONYやホンダが生まれて来るのかも知れません。

■ 初音ミクの様な合成音声技術や、ロボットにおける表情の研究 ■

欧米人がロボットを「道具」として研究するのに対して、
日本人は、あくまでもロボットを「トモダチ」としてイメージしています。

ですから、合成音声技術や、ロボットによる表情やコミニュケーションの研究も盛んです。
コミニュケーションにはAI(人口知能)技術も不可欠ですから、
日本人のイメージする「ロボット」の実現には、多くのハードルが存在します。

しかし、多くの日本人が「ロボット」に夢を感じている事が
この分野の発展にきっと役立つでしょう。

■ 「見立て」の能力がロボットの普及を助ける ■

欧米人のイメージする人型ロボットは、
エイリアンに登場するアンドロイドや、ブレードランナーのレプリカントなど、
完全に人と区別の付かないロボットです。

ところが、日本人は「鉄腕アトム」の様なイメージを持ています。
極端にリアルなロボットは、むしろ「気持ちが悪い」という印象を持つはずです。

いくらAIや人口音声が発達しても、ロボットは決して人には成れません。
ですから、リアルなロボット程、違和感を生みやすいとも言えます。

日本人は欧米のアニメの様な、リアルなキャラクターを嫌います。
それは、やはり、リアルなニセモノが気持悪いのです。

一方で、日本人には「見立て」の能力が発達しています。
抽象化や記号化の能力と言っても良いでしょう。

モエオタ達は、デフォルメされた萌えキャラに、
生身の人間と同様の愛情を感じる事が出来ます。
これは、一種の「見立て」による特殊能力です。

この能力は、ロボットが社会に受け入れられる上で多いに役立ちます。
さほど、リアルな造詣をしていなくても、
日本人はロボットを可愛がる事が出来るのです。

むしろ、リアルな造詣のロボットは「倒錯的愛憎の対象」となり易いので、
人型ロボットや、愛玩ペット型ロボット普及のネックになる可能性すらあります。


■ アニメは未来を幻視する ■



私は中年にもなって、アニメが好きです。
「何故?」かと聞かれたら、「そこに未来のイメージが詰まっているから」と答えます。

私の仕事はデザインに関わる事です。
「何か、今までに無いような提案をしてくれない?」という要求は意外に多いのです。
そういった時の、イメージの引き出しに、アニメの映像は結構役に立ちます。

私は「SFやアニメは未来を幻視する」思っています。

技術屋さんは、ある程度自分の頭の中に未来の技術のイメージがあります。
例えば、モーターショーなどではコンセプトカーが車の未来を垣間見せてくれます。
しかし、それは、ディスプレイされた未来であって、現実感に乏しいものです。

アニメの世界では、現在実用化されていませんが、
将来、きっと実用されるであろう技術が、日常生活の中で描かれます。

冒頭の画像は『ROBOTICS;NOTES』という今期のアニメのひとコマです。
お姉さんの胸元に目を奪われてしまいそうですが、
彼女の下半身に注目して下さい。(エッチな意味で無く)
何やら、脚に機械を装着しています。

これこそ、身障者用のパワーサポートです。

この時代には、身障者用のパワーサポートが実用化されており、
TVのコマーシャルで最新型のパワーサポートのCMが流れています。

これらのパワーサポートは身障者だけで無く、
老人なども利用するので、
この時代にはそれなりの市場規模を持つ産業に成長している様です。

こういった未来における技術と社会や人の関わりを、
アニメは現実味を持って表現出来る優れたメディアです。


■ 『ROBOTICS;NOTES(ロボテクツ・ノート)』は熱いロボット愛に溢れた作品だ ■





という事で、本日の本題。

日本人たる者、ロボットを愛するならば、
「熱いロボット愛」に溢れる『ROBOTICS;NOTES(ロボテクツ・ノート)』を見るべし!!


物語は未だ序盤。
種子島高校に通う幼馴染の男女が、「ロボコン」の様な競技にチャレンジします。
ただ、開発するのは、大型ロボット。

代々「ロボット部」がこつこつと開発してきたロボットは、
はたして完成するのか?

物語は、単なる「ロボコン」バトルだけでは無く、
何だかSFミステリーの臭いも漂わせ初めました。

一昔前のネット用語で会話する不思議ちゃんも加わって、
次週が楽しみな展開です。


製作はプロラクションiG
この会社、未来社会の描写が結構緻密で、
SF的ガジェットの使い方が非常に上手です。
「甲殻機動隊」からの伝統とも言えます。

『ROBOTICS;NOTES(ロボテクツ・ノート)』は近未来の設定ですが、
今回取り上げた、身障者用の外装式パワーサポートや、
携帯ゲーム機などのギミックの描写が実に上手い。

今期のiGのもう一つの作品、『PSYCHO-PASS(サイコパス)』は、
SF的未来社会の描写が非常に興味深く、
ストーリーよりも、SF的ギミックに見入ってしまいます。

「アニメは未来を幻視」するのです。






<追記>

昨日のスーパー・ネガティブ記事は、本日の記事の前振りです。
未来は現在の延長線上にあると思われがちですが、
「危機」も「チャンス」も、思わぬ所に転がっています。

そして、それらは必死に探す者にしか見つかりません。


本日の記事は、アニメ記事として書き始めたのですが、
多分、多くの方が、アニメ記事はパスされると思うので、
技術記事に偽装していますが、
本当は『ROBOTICS;NOTES(ロボテクツ・ノート)』の応援記事です!!