「ジョジョの奇妙な冒険」より
■ アニメ化不能と思われていた『ジョジョの奇妙な冒険』 ■
『ジョジョの奇妙な冒険』はアニメ化不能だと思っていました。
荒木飛呂彦のメチャメチャ、スタイリッシュの絵を
アニメで動かす事は、不可能だと思っていたのです。
ですから今期アニメのスタート時、私はジョジョをあえて見ませんでした。
だって、失望する事が分かりきっているから・・・。
しかし、先日、ちょこっとだけ見てみたら・・・
パパウ パウパウ !! フヒィーン・・・完全にヤラレました。
■ 劇画表現の到達点 ■
荒木飛呂彦の絵がアニメ化が難しい理由として、
独特のデフォルメとパースペクティブを挙げる事が出来ます。
「ジョジョの奇妙な冒険」より
一つ一つのコマが、「決め画」の連続で、
画コンテ的な絵ガラの連続性よりも、
一つ一つの絵柄の独立性が非常に高い。
小さなコマでも、効果を最大限にする為に、
視点やパースが次々に変化してゆきます。
漫画は,いわゆる2次元的拘束を逃れる為に、
映画などの映像表現の視点を大幅に導入する事で進化して来ました。
「ドラえもん」より
例えば、マンガの代表作である『ドラえもん』は、
比較的「引いた絵柄」が多く、
アップになるのは、ドラえもんのポケットから未来の道具が飛び出す瞬間くらいです。
これは初期の映画にも共通して特徴で、
固定されたカメラが、引きの構図でシーン全体を捉え
そして、シーンの画面転換は少なく、「長回し」のシーンが連続します。
これは、劇場で観客が劇を観る視点です。
ところがソ連の映画監督、セルゲイ・エーゼンシュテインが
『戦艦ポチョムキンン』を発表した事で、
映画という映像表現は別次元に突入します。
「戦艦ポチョムキン」より
エーゼンシュテインはアップの短いシーンをつなぎ合わせる手法で
画面の緊迫感を高める事に成功したのです。
これを「モンタージュ技法」と呼びます。
アメコミや日本のマンガなども、この「モンタージュ」を積極的に取り入れます。
そして、少年誌にもこの手法は普及します。
荒木飛呂彦は、このモンタージュの効果を最大限に発揮する為に、
カメラの数や種類を無限に増やす効果をマンガで生み出したのです。
コマ毎に異なる構図、そして極端に協調されたパースペクティブ。
これらの効果によって、『ジョジョの不思議な冒険』は
極限まで「緊迫感」を高めた表現を獲得しました。
■ 擬音を絵柄としてデザインする ■
さらに荒木飛呂彦は「擬音」を積極的に画面に取り込みます。
これはアメコミの影響だと思われます。
「シャークナイフ」
アメコミは擬音をデザインとして活用します。
漢字などに比べて、デザイン処理が容易なので、
音響効果としての擬音表現が、視覚効果へと進化していったのです。
日本のマンガも擬音表現をアメコミから導入します。
「リングに賭けろ」より
ここまで行くと、必殺パンチよりも擬音によるダメージの方が大きそうです。
しかし擬音のバリエーションと、その「音質」の個性は
ジョジョの真骨頂とも言えます。
■ 紙芝居の手法でジョジョをアニメ化した事に脱帽 ■
ジョジョをアニメ化するにあたり、
あまりにも極端にデフォルメされた絵柄と、繰り返されるモンタージュ、
そして擬音表現をどう処置するのかという問題が立ちはだかります。
さらに、セリフの量が多い事も難問題です。
ここで思い浮かぶのが『北斗の拳』。
この作品もジョジョに近い特徴を備えていました。
『北斗の拳』のアニメはネットで見てみると、
アニメ版は、オーソドックスな映像表現がされています。
ただ、北斗神拳を振るう時だけ、独特の表現が出現します。
これが、結構笑えるので、当時子供達の間でブレークしました。
多分、『ジョジョの奇妙な冒険』を現代のアニメの表現で普通に演出しても、
画の綺麗な『北斗の拳』になってしまうでしょう。
ジョジョは、セリフが過剰に大げさですから、
無口なケンシロウ以上にギャグ要素が際立ってしまいます。
そこで、ジョジョにアニメ化に当たり、
スタッフが選択した手法が「紙芝居」。
「ジョジョの奇妙な冒険」より
「ジョジョの奇妙な冒険」より
そう、原作の絵をそのままアニメにしてみせたのです。
本来、画が動いてナンボのアニメですが、
「止め画 + 擬音」のマンガの表現をそのまま再現しました。
さらに本来、アニメは映像に状況説明をさせる所を、
原作同様、登場人物の膨大なセリフが状況を説明してゆきます。
これは明らかに「紙芝居」の表現手法です。
■ 熱い、熱すぎるぜ ジョジョ ■
ジョジョ本来のデフォルメされた表現を開放したアニメは、
ジョジョの魅力が爆発しています。
熱い、熱すぎるゼ、アニメ版ジョジョ。
ほとんどギャグと紙一重の演出ですが、
これでイイのです!!
だから、ネットでのファンの感想も概ね好意的です。
だって、あの擬音がセリフとして聞けるのですから、ファンは大喜びです。
■ 荒木飛呂彦の出現には度肝を抜かれた ■
実を言うと、私がジョジョを読んでいたのは
ジャンプで連載されていた極初期の頃までです。
「波動」が出てきた頃から、飽きてしまいました。
というよりは、年齢的にジャンプから卒業したのでしょう・・・。
ただ荒木飛呂彦がマンガ界に登場した時の驚きは脳裏に深く刻まれています。
「バオー 来訪者」より
『バオー来訪者』は1984年にジャンプに連載されました。
単行本2巻の短い作品ですしたが、
生物兵器に感染して、悪と戦う主人公のダークヒーローっぷりが新鮮でした。
まさに、アメコミの絵柄で、アメコミヒーロがジャンプの紙面で活躍しました。
ジョジョの絵柄は、荒削りながら既にに出来上がっていて、
もう、そのあまりにも大胆な構図に、ビリビリ痺れたのを覚えています。
優れた才能は、登場した時から、凡庸とは全く次元を異にしているのです。
今もって、書店でジョジョの表紙を見る度に、
しばらく足を止めて見入ってしまいます・・・もう50歳も近いのに・・。
<追記>
アニメ版のシリーズ構成は小林靖子。
この人、こういうエッジの強い演出との組み合わせで最高の魅力を発揮します。
現代の才人の一人でしょう。
そして、オヤジ世代には嬉しいのがエンディング。
YESの名曲「Roundabout」です!!
これが1曲目に飛び出してくる 『Fragile(邦題:こわれもの)』。
数年前にLPで買いなおしましたが、まさに名盤。
ここでアニメのEDが見れます。
http://www.youtube.com/watch?v=rjpCV6ilJKw