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自国通貨建ての国債は暴落しない?・・・暴落はするけれどデフォルトはしない

2012-11-26 02:33:00 | 時事/金融危機
 


■ 自国通貨建ての国債は暴落しない ■

最近、三橋氏の支持者の方達が主張する「自国通貨建ての国債は暴落しない」という主張。

1) 国債を大量に発行しても、国の支出は国民の所得や企業の収益となる
2) 国民の所得や企業の収益は銀行預金として預けられる
3) 景気が悪化した状態では銀行預金は国債で運用される
4) 外貨預金に資金が流れても、円が消える訳では無い
5) 円は日本でしか使えないので、おのずと日本に還流し銀行預金になる

概ねこの様な主張かと思います。
一見、どこにも間違いの無い理論です。

■ 日本国債を20兆円増刷しても需給バランスは悪化しない?! ■

安倍総裁が首相に就任して、日本国債を年間20兆円ずつ増刷した場合はどうでしょう。

1) 現在の赤字国債、44兆円に20兆円上乗せして合計の赤字国債が64兆円。
2) 仮に20兆円を建設国債としても、国債の供給量が20兆円増える事には変わり無い
3) 借り換え債の発行が115兆円。(2013年度)
4) 合計で単年度の国債発行額が約179兆円。
3) 税収42兆円(平成24年)

さて、単年度で179兆円の国債を市場が消化できるでしょうか?

建設国債の20兆円が問題です。
建設国債の償還期限は60年です。
その間にどのくらいインフレが進行するかの予測で金利が決まります。

ところで、60年後に償還される国債に魅力はあるのでしょうか?
多分、償還目当てでは無く、市場で売買される金融商品として買われるのでしょう。
さて、こんな国債が市場で人気が出るでしょうか?

安倍氏の政策は日銀の量的緩和とセットになています。

1) 日銀にマネタリーベースを20兆円拡大させる。
2) 財務省が金融機関に新発国債の割り当てを決める。
3) 資金は日銀がほぼゼロ金利で供給する。
4) 建設国債の増発20兆円分も市場で消化される。
5) 日銀が国債を20兆円多く市場から買い入れる

これが「自国通貨建て国債」の旨みで、新発市場の需給バランスは、
中央銀行の資金供給によって確保できてしまいます。

日本国債は現物市場で年間7700兆円、一日平均で30兆円弱取引されています。
年間で20兆円増えた所で、大勢に影響は無いとも言えます。

日銀が資金供給を続け、財務省が金融機関を統率する限り、
新規国債市場の需給バランスは崩れそうにありません。

どうやら、「自国建て国債」は内的要因では、容易に受給バランスが崩れないのは本当の様です。

但し、現在の日本国債は、日銀の間接的買い入れによって支えられているとも言えます。



■ 海外のヘッジファンドが日本国債を売り浴びせるケース ■

それでは良く言われる、ヘッジファンドの売り浴びせについて考えてみます。

1) 日本国債の海外保有は10%程度(約100兆円)
2) 日本の格下げなどをきっかけに、仮に10兆円規模の日本国債が一斉に売られる
3) 日本国債の一日の現物売買の出来高は30兆円弱
4) 10兆円の売り圧力は30兆円に対して十分の大きい
5) 10兆円を日本の金融機関が買い切れなれば日銀が購入する

ここから先がシナリオの別れる所です

6A)市場が日銀の買い支えで平静を保ち、日本国債の暴落が阻止される
6B)市場に不安が広がり、日本国内の金融機関も売りに転じて、国債が連鎖的に暴落する

国債が暴落しないという方の反論は次の様なものかと思います。

1) ヘッジファンドが日本国債を売っても、手元に残るのは「円」である。
2) 円が無価値になる取引を、彼らが仕掛ける合理的理由が存在しない

これは確かに説得力のある説明です。
かつて、日本国債の売り浴びせを仕掛けたヘッジファンドは、
一方で、空売りによる利益を目論んでいました。

ところが、国内の金融機関が買い支えてしまった為、空売りに失敗して損失を出しています。
日本国債の空売りは、こういったファンドの経営者が自殺した事から
「後家作り」などとあだ名される、無謀な取引と言われています。

一日の現物市場の出来高が30兆円弱、
先物市場の出来高が4兆円強。
先物市場で売り浴びせて、暴落を狙うのでしょう。

現在、ヘッジファンドが保有する日本国債は70兆円に達するという説もあります。
国内の金融機関が買い支えられない規模の売り浴びせがどの程度か、
それが、3兆円規模なのか、5兆円なのか、10兆円なのか・・・・

70兆円という海外ヘッジファンドの保有高は、
既に、十分脅威となるレベルです。

かつてジョージ・ソロスがポンドを売り崩した様に、
現在の日本の円高が、過剰な円高だとするならば、
ヘッジファンドが日本国債暴落に伴う円安で、巨利を稼ぐ事も不可能ではありません。

ただ、それも程々にしないと、日本発の世界危機に発展する可能性があります。
結局、テクニカル的にはヘッジファンドによる日本国債暴落はあり得ますが、
世界経済を犠牲にする程の動機が無い事が、安全弁となっているのでしょう。

要は、いつでも暴落させられるけど、やるメリットが無い。


■ 銀行の取付騒ぎが発生すれば日本国債は暴落する ■

上の理論が正しいにも関わらず、日本国債が破綻するケースを考えてみます。
外的要因で、日本国債の需給バランスが崩れるケースとして、
海外で発生した金融危機により、金融機関で取付騒ぎが発生する例を考えてみます。

1) 海外で大規模な金融危機が発生する
2)銀行に殺到する海外の人々の映像を目の当たりにして、日本の老人達が不安になる
3)日本の銀行も危ないという風説が流れる
4)人々が銀行に殺到して、預金を引き出そうとする
5)取付騒ぎに発展して、銀行がシャッターを閉じる様な事態になる
6)銀行から預金流出して、銀行が国債を売却して現金を確保しようとする
7)国債が暴落する

極端な例ですが、あり得ない話ではありません。
韓国では日常茶飯事ですし、日本でもかつて信用金庫などで取付騒ぎが発生しています。
人々が銀行に安心して預金を預けていられるのは、
その預金が守られていると信じているからです。
ペイオフ制度があるとは言え、不安に駆られた人達は、現金化の選択をしないとも限りません。

■ ユーロの崩壊から日本国債が売られるケース ■

それでは、世界的な金融危機が発生して、いわゆる「国債バブル」が弾けるケースはどうでしょう?
ユーロの崩壊を想定してみます。

1) リーマンショック以降、世界の国々は国債を大量に発行している
2) 民間の負債が、国債という形で、中央銀行に集中している
3) ユーロが崩壊が発生する
4) EU諸国の国債が暴落する

ここでも結果は2通り考えられます

5A) 資金がユーロからドルと円に大量に流れ、日本国債は勝ち組になる
5B) 国債の信用が一気に崩壊して、米国債と日本国債も暴落し、世界はジ・エンド

さて、ユーロ崩壊の様な極端な危機が発生した場合、
マーケットのプレーヤーはどう反応するのでしょうか?
尤も、ユーロ崩壊の様なケースでは、全ての市場が冷静さを取り戻すまで閉鎖されるのではないでしょうか?

市場が再び開かれるまでに、対策が打たれれば大丈夫かもしれませんが、
多分、ユーロ崩壊を目の当たりにしたら、世界の人々は預金を下ろしに銀行に殺到するはずです。
結局、市場を閉じた所で、世界的な取付騒ぎが起きる事が想定されます。

■ 米国債が暴落するケース ■

基軸通貨の米国債が暴落するケースを考えてみます

1)金融危機の再発で米国内で金融機関が危機に陥る
2)再び財政出動で、FRBが大量の米国債を買い入れる
3)世界が米国債を売り始め、米国債の暴落が始まる
4)FRBが無制限に米国債を買い支え、ドルの信用が一気に失われる
5)アメリカがデフォルトを宣言する

このケースでは、世界経済も同時に破綻します。
日本の金融機関と政府の保有する米国債とドル資産が一気に価値を失います。

日本政府が外貨預金として積み上げた米国債がデフォルトすれば、
日本政府のバランスシートが一気に悪化します。
ここで、日本国債売りが発生しそうですが、
ドルと米国債が破綻した段階で、日本の金融機関では取付騒ぎが発生するでしょう。

まあ、「金融危機って、いつ来るの?」と言われてしまえばそれまでですが、
それは「世界の景気っていつ回復するの?」という質問に近いかもしれません。

世界は莫大に積み上げた負債を既に処理し切れません。
量的緩和で、絆創膏を傷口に貼る様な手当を繰り返していますが、
デリバティブ残高は既にリーマンショック以前の水準を超えています。
再び、信用不安が発生すれば、どうなるのか・・・誰でも予測可能なはずです。

■ 米国で暴動が発生するのが一番怖い ■

私は米国で暴動が発生するケースが一番怖いと思っています。


1)金融危機が発生し、再びリーマンショックの様な状況になる
2)失業者が街に溢れる
3)ふとしたきっかけで暴動が発生する
4)暴動が全米に広がり、収拾が付かなくなる
5)銃を持った群衆と、軍の攻防に発展し、内乱状態になる。
6)米国債がデフォルトする
7)場合によっては、州単位で連邦から離脱してアメリカ合衆国が消え去る

アメリカの南部諸州は、毎度の様に連邦からの独立法案が州議会に提出されるお国柄です。
連邦のメリットである強いドルが消滅すれば、連邦崩壊もあり得ない話ではありません。
アメリカ合衆国が消えてしまえば、ドル崩壊の責任も追及出来ません・・・。

まあ、こんな事は起きてはいけないのですが・・・・。

■ 金融危機の再来はあり得ない未来か? ■

結局、日本国債は内的要因では、なかなか暴落しません。
これは米国債にも、南欧債にも共通していて、
中央銀行が直接的、あるいは間接的に買い支える限り、
金利上昇を防ぐ事が、ある程度は可能だからです。
但し、これはある程度、需給バランスが安定している場合に限られます。

世界的金融危機の再来の様な、極端な外的危機に際しては暴落も起こり得ます。
現在、ヨーロッパの銀行などでは南欧債をECBの資金で買い支えていますが、
危機が深化するのつれて、ストレスも高まっています。
ギリシャのデフォルト(既にデフォルトと同様ですが)などのショックで、
金融機関が一気の南欧債を手放す様な事になれば、
スペインやポルトガルはデフォルトの危機に陥ります。
この時、EUの足並みが揃わなければ、一気に危機が深刻化します。

結局、金融危機の再来が発生するかに世界の運命は委ねられています。

■ 金利の上昇にこそ注意が必要 ■

中央銀行の国債の直接引き受けは、通貨政策上のタブーです。
しかし、ドルもユーロも円も直接的、あるいは間接的に既にこのタブーを犯しています。

ただ、その規模が「常識的」である内は、国債の需要が低下しない事がリーマンショック以降照明されたとも言えます。

一方、「常識」を逸脱すれば、市場は一斉にその国の国債を売り抜ける可能性は皆無ではありません。
例えば、日本国債を20兆増発して、景気が思うように回復しない様な場合、
国債発行を抑制すべきだとの圧力が生じるでしょう。
そこで、国債発行を抑制すると、景気が一気の底抜けして、
税収が壊滅的に減少します。
失業率も10%を超えて上昇した場合、市場は日本国債の安全性に疑問を持つはずです。

一日の出来高が30兆円もある日本国債の現物市場で、
売り圧力が高まった場合、それを吸収する事が出来るのか?
一旦、金利上昇が限界を越えれば、売りが売りを呼ぶ悪循環が発生します。
限界の金利上昇が1%なのか、2%なのかは不明ですが、
2%は金融機関の含み損を考えると、それなりに危険水域ではないかと思われます。

日本の金融機関はIMFの調査に対して、
国債金利が1.5%に達したら国債を売却すると回答しています。


白川日銀総裁のエレガントな不景気政策で、金利上昇を抑えてきた日本国債ですが、
自民党政権が国債増発をごり押しした場合、需給バランスが崩れば、
金利は短期間に1.5%到達するはずです。

私達は、景気回復を熱望していますが、
その為に国債を大量に発行する危険性を、もう一度真剣に考える必要がありそうです。


■ 最早止められない量的緩和 ■

本当の危機は意外にも、世界の危機は、景気回復局面で訪れるかもしれません。
リーマンショックが、日本のゼロ金利政策の停止による金利上昇によって発生した様に、
世界にジャブジャブ撒かれる、緩和マネーが停止した時、
世界経済はどこかで目詰まりを起こすのでしょう。

それは、多分、株式市場などよりも余程巨大な債権市場で発生するはずです。

「国債市場はバブルでは無い」と言う人も居ますが、
低利の資金の枯渇で崩壊する市場こそが「バブル」なのでは無いでしょうか?


一番の危機は、ドルの供給量が減少した時です。
ドルはリーマンショック後、マネタリーベースを3倍程度に拡大しています。
アメリカはQE3を実施中ですが、規模は無期限としています。
既に、ドルは量的緩和を停止出来ないのです。

■ それでも自国通貨建ての国債は暴落しない ■

さて世界経済が崩壊したら日本国債はどうなるのでしょうか?

多分、日銀が全量買い上げるのでしょう。
その後は、日銀の直接引き受けへと進みます。

確かに自国通貨建ての国債は暴落しませんが、
インフレによって、国民の預金を政府が吸収します。

一方、他国に国債を大量に売っている国がデフォルトした場合、
損をするのは、海外の国債購入者です。

借金は返すものと考える日本人と、
借金は踏み倒すものと考える西洋人の文化の違いですが、
はたしてどちらが得なのか・・・?