蒼ざめた馬の “一人ブラブラ、儚く、はてしなく”

山とスキー、車と旅、そして一人の生活

馬の如く、21個目の切り株を運び上げる

2018-11-15 17:22:22 | 信州安曇野での出来事

 今年も切り株の処理をしないといけない。

この小屋を建てるにあたり、原野に生えていたクヌギと松の伐採、抜根は基礎工事に入っているが、それらの後処理は別途費用が掛かる、と工務店から言われた。
ならば自分でやることにした。神戸布引谷・山の家からは、昔使っていた斧が2本、その他ノコギリ、鉈等を持ってきており、それらを駆使して解体すればイイのだ。どうせ雪が降るまではすることないし。
そして何よりもこの小屋の建築に、自分も何らかの「労働」で加わりたかった。

とは言え、松の幹はパルプ原料として引き取られ、クヌギの幹は薪ストープの燃料として貰われていき、結局解体するのは、土まみれの株のみになった。しかしそれは、そこそこの、イヤ、かなりのボリゥムで積み残されていた。

  最初は、テキトーに細断して、自然に朽ちればイイ、と思っていた。

 しかし、隣人で杣人のMさんから、朽ちるにはン十年かかると言われ、結局燃やすことになった。

「株」とは要するに「節」の塊。その解体はそれなりに大変だった。
「幹」を「薪」にするのとは違い、カパッと割れない。また土、砂まみれなので、チェーンソーの刃は直ぐダメになってしまう。Mさんからは、土、砂に当てないように、と何度も言われたが、気が付けば火花が飛んでいた。
とにかく薪割の様にはいかず、ひたすら「節」の塊に斧を振り下ろし続ける。それは「叩き割る」のではなく、「叩き潰す」作業。また喰い込んだ刃を上下左右に捻じるので、柄は何度も折れた。

 「ほぉ~、コツコツやってルと、一人でもなんとか片付くもんだねぇ」、Mさんから感心された昨年12月、次の「獲物」は窪地の端に鎮座していたクヌギの塊。色々弄くっていたら、それは二つの株が重なったモノだった。

 まずそれを分割。

 その片ワレを取り合えず窪地から押し上げる。

 その片ワレを解体し、焼却して昨年はオシマイにした。

結局処理した株は20個、残りは4個。

残った片ワレは、沢山の細い根が派生しており、それを外していくと湿った細かい土にまみれた、奥の姿が現れた。
それは冬の間、氷結していた。

春になり、氷結した土は融け、梅雨の雨で流れ、夏の陽に照らされカラカラになり、スコップで掘るとサラサラと崩れて行った。  

 11/11、解体を再開する。21個目になる。

 外しやすい枝を折り取っていくと、ますます土にまみれた塊になっていく。 

 11/12、2週間ほど前の黄金の森は枯葉の森になって来た。

 黄葉より枯葉の方がイイ、と言う人も何人かいらっしゃる。確かにそんな気もする。

 さてこの土くれの株、周りに灌木があるのでここでは燃せない。とにかく小さくして、まずここから、燃やせる場所まで動かさないといけない。周りの灌木を避けて動かすとなると、一旦窪地の底へ落として、再度押し上げるしかない。そして落とすとなると、“ツッカイ”になっている、下に伸びた太い根を外さないといけない。

 約2時間で叩き切った。

 そして蹴るとゴロンゴロンと窪地の底に落ちた。

 それを更にゴロンと転がすと、今まで見れなかった面が現れた。

 一つの株から2本の幹が生えていた。確かに重かった。

 もう少し軽くしないと上げられない。アチコチ叩いて割るというか、剥いでいく。

そしていよいよ底から押し上げる。

少しずつズラして、“縦長”の状態から“横長”の状態にし、それを転がして上げればラクなのだが、そこでヘンな気が起った。「このまま“縦長”の状態で押し上げてみよう」。
それをするには、まず下端を起こし、腰の辺りまで上がったら、体を低くし押し上げる姿勢に切り替え、最後に押し倒す。
しかしこれがなかなかスンナリいかない。とにかく重い。押し上げる姿勢には何とか切り替えても、その後、押し倒せない。あと少しのところで足が滑ったりする。あと少しなのだ。

何度か失敗して息を整えていると、Мさんが愛犬“フクチャン”を連れて現れた。ワタクシの様子を察したMさんは、“フクチャン”のリードを近くのサクラの幹に繋いで、手を貸そうとした。
「イヤ、これは独りでやってまいたいンですワ、スイマセンが見といて下さい、で、もしケガしたら救急車は呼んで下さい」、Mさんは、コイツの言いそうなコトだ、と頷いた。

 Mさんと“フクチャン”が見守る中、最後は「ウォ~っと」唸って「敵」を押し倒した。「フゥ~ウ、やりました」

昔は山仕事で、切り倒した幹、株は馬を使って引き揚げていたそうだ。ニンゲンにケツを叩かれ、馬は渾身の力で足を震わせ、急斜面を登ったとか。「それを思い出したズラ」、Mさんにそう言われた。

 後は“横長”状態で燃す場所まで転がし、叩き潰し燃やす。いずれにせよ、その準備は終わった。