知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

各成分の組合せや含有量を「一体として」技術的意義を問題とすべき場合

2011-11-18 22:25:41 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10100
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 八木貴美子

 ・・・被告は,引用例の記載を総合すれば,審決の認定した引用発明が記載されているといえる,引用例記載の高張力合金化亜鉛めっき鋼板は,Mn等の元素を一定の数値範囲で含有する高張力鋼板に適用されるものであって,実施例に番号1ないし6の鋼が記載されているが,それが適用範囲の全てではないとして,審決の引用発明の認定に誤りはない旨主張する。
しかし,被告の主張は失当である。
 被告の上記主張は,引用例において鋼を組成する成分(元素)の含有量の数値が記載されていれば,当該記載された数値範囲の含有量の成分を有する発明が総合的に開示されているとの理解を前提とするものである。

 しかし,上記(1) のとおり,引用例記載の発明の課題は,鋼の特性を利用して解決されるものであるところ,引用例には,1つの鋼を組成する成分の組合せ及び含有量が,一体として,鋼の特性を決定する上で重要な技術的意義を有することが示されているから,各成分の組合せや含有量を「一体として」の技術的意義を問題とすることなく,記載された含有量の個々の数値範囲の記載を組み合わせて発明の内容を理解することは,適切を欠く

 ・・・
 ・・・本願発明と引用発明は,いずれも鋼板等を組成する成分(元素)の組合せ,含有量(含有する質量割合)が「一体として」重要な技術的意義を有する発明であるといえる。上記のとおり,本件においては,本願発明と引用発明とは,組成成分の含有量(含有する質量割合)の組合せが,鋼の特性に影響を与える重要な構成であることに鑑みると,組成成分の含有量に異なる部分があることを考慮することなく,一部が重複していることのみを理由として,相違点の認定から除外することは許されないというべきである。


<原告引用判決>
事件番号  平成14(行ケ)119
裁判年月日 平成15年05月30日
裁判所名 東京高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美  
「数値限定発明である本件発明の新規性の判断に当たっては,数値限定の技術的意義を考慮し,数値限定に臨界的意義が存することにより当該発明が先行発明に比して格別の優れた作用効果を奏するものであるときは,新規性が肯定されるから,このような観点から,本件発明の数値範囲が臨界的意義を有するものであるか否かを検討する必要があるというべきところ,本件決定は,本件発明の数値範囲の臨界的意義を何ら検討していないことが,その記載自体から明らかである。」

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