知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

判決の拘束力

2011-11-14 22:28:02 | Weblog
事件番号 平成23(行ケ)10150
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

 商標登録無効審判についての審決の取消訴訟において審決を取り消す旨の判決が確定したときは,審判官は,商標法63条2項において準用する特許法181条5項の規定に従い,当該審判事件について更に審理を行い審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審決には,同法33条1項の規定により,同取消判決の拘束力が及び,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決民集46巻4号24頁参照)から,審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されず,したがって,再度の審判手続において,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはできないというべきである。

そこでこれを本件についてみるに,前述した前判決の認定判断に照らすと,前判決の拘束力は,被告の本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものであり,出願当時,引用商標及び標章「ASRock」が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するとの認定判断について生ずるものというべきである・・・

引用発明が一部の構成要件のみを充足し,その他の構成要件に言及がない場合

2011-11-14 22:18:24 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10245
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 特許法29条1項は,特許出願前に,公知の発明,公然実施された発明,刊行物に記載された発明を除いて,特許を受けることができる旨を規定する。出願に係る発明(当該発明)は,出願前に,公知,公然実施,刊行物に記載された発明であることが認められない限り(立証されない限り),特許されるべきであるとするのが同項の趣旨である。

 当該発明と出願前に公知の発明等(以下「公知発明」という場合がある。)を対比して,・・・,公知発明が,「一部の構成要件」のみを充足し,「その他の構成要件」について何らの言及もされていないときは,広範な技術的範囲を包含することになるため,論理的には,当該発明を排除していないことになる。したがって,例えば,公知発明の内容を説明する刊行物の記載について,推測ないし類推することによって,「その他の構成要件についても限定された範囲の発明が記載されているとした上で,当該発明の構成要件のすべてを充足する」との結論を導く余地がないわけではない。

 しかし,刊行物の記載ないし説明部分に,当該発明の構成要件のすべてが示されていない場合に,そのような推測,類推をすることによってはじめて,構成要件が充足されると認識又は理解できるような発明は,特許法29条1項所定の文献に記載された発明ということはできない。仮に,そのような場合について,同法29条1項に該当するとするならば,発明を適切に保護することが著しく困難となり,特許法が設けられた趣旨に反する結果を招くことになるからである。上記の場合は,進歩性その他の特許要件の充足性の有無により特許されるべきか否かが検討されるべきである。
 ・・・
・・・甲1及びその引用文献には,防菌・防黴剤の組成物として用いられるMITについて,「CMITを含まない」ことについては言及がなく,CMITが含まれたことによって生じる欠点に関する指摘もない。したがって,甲1において,CMITが含まれることによる欠点を回避するという技術思想は示されていない
 甲1に接した当業者は,「CMITを含まない」との構成要件によって限定された範囲の発明が記載されていると認識することはなく,甲1には,「CMITを含む発明」との包括的な概念を有する発明が記載されていると認識するものと解される。