知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

請求項の用語の意義を、請求項中の他の構成の意義を踏まえ確定した事例

2011-11-13 18:49:06 | 特許法70条
事件番号 平成22(ワ)23188
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年10月19日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 大須賀滋

 しかし,本件発明における課題解決手段からみて,「直接隣接する」とは,カラー部分の障害による吸引孔とカフ上端部との離間を回避する手段を講じることによって達成されるものであるから,カラー部分の存在による障害をいかなる構成によって回避したかという点の考察と無関係に,「直接隣接する」の具体的な意義を決定することは相当ではない

 したがって,構成要件Cの「直接隣接する」の意義は,カフとカラーとの関係を具体的に示した構成要件Eの内容と切り離してこれを理解することはできないものというべきである。

(オ) そこで,構成要件Eをみると,「カフ(12)の近位端を裏側に折り重ね,カフの膨張しうる部分(25)の少なくとも1部分を近位カラー部分(24)に重ね,近位カラー部分(24)をカフの膨張しうる部分(25)を越えて延ばさないように構成した」ものである。すなわち,カフとカラーとの関係に関する構成としては,
○1 カフの近位端が裏側に折り重ねられていること,
○2 近位カラー部分がカフの膨張しうる部分を越えて延ばさないように構成されていること,
に特徴がある。
 言い換えると,本件発明は,カフのカラー部分との関係でのカフの膨張態様に特色のある発明であり,カフの近位カラー部分がカフの膨張しうる部分を越えて延ばさないようにされていること,カフの膨張しうる部分が近位カラー部分の先端まで到達している構成とされた発明である。

 以上の明細書の記載及びその課題解決のためのカフとカラー部分との関係について示した構成要件Eの記載に照らして,「直接隣接する」の技術的意義を検討すると,本件発明は,従来技術において,カフ上端部の分泌物を吸引するについて,カラーの延在部よりも上部に吸引孔を設けざるを得ず,その結果,吸引孔とカフ上端部の位置が遠ざけられ,そのためカフ上端部の分泌物を十分吸引できなかったのを,カラーに被せるようにカフを膨らませ,気管をシールすることによって,カラー部分の存在によるカフ上端部からの吸引孔の離間を回避し,カフ上端部と吸引孔の近接を可能にしたことにあると認めるのが相当である。

 したがって,「直接隣接する」の意義は,カラー部分の存在による吸引孔とカフ上端部との離間が防止されていること,すなわち,カラー部分の存在によりカラー部分を隔てて吸引孔とカフ上端部が隣接することが回避されていることを意味するものと介される。したがって,カフの近位端と吸引孔の間の空隙の有無が直ちに「直接隣接する」か否かの評価に結び付くのではなく,カラー部分に重なるようにカフが膨らむ構成によって,カラー部分の距離がそのまま吸引孔を設けることの障害となっていた従来技術と比較して,カフの上端部(近位端)と吸引孔の間の空隙を短縮することができているのであれば,「直接隣接する」と評価することができるものというべきである。

(所感)用語の意義の認定にあたり、明細書の該当用語に対応する構成の課題を読み込み検討に用いているが、当該明細書の対応する(実施例の)構成を直接参酌して用語の指し示す範囲を確定していない。そしていわば原因と結果の関係にある請求項の他の構成を参酌して、用語の意義を確定している。
 こうすれば、明細書が過度に参酌されて用語の意義が(用語の文言解釈から不自然に変更され)予測可能性を失なうことはない。これは良い解釈法だと感じる。

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