知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許を受ける権利の確認を求める利益の有無

2011-11-16 23:25:26 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)2863
事件名 特許を受ける権利の確認等請求事件
裁判年月日 平成23年10月28日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 岡本岳

1 争点(1)(確認の利益の有無)について
(1) 本件訴え1
ア 発明者は,発明をすることによって,特許を受ける権利を取得し(特許法29条1項),特許権を取得すれば,業として特許発明の実施をする権利を専有することができ(同法68条),また,特許を受ける権利は,移転することができ(同法33条1項),独立した権利として譲渡性も認められている。したがって,特許を受ける権利は,発明の完成と同時に発生する,それ自体が一つの独立した財産的価値を有する権利ということがきるから,その帰属について争いがある場合には,当該権利の帰属を主張する当事者の一方は,これを争う他方当事者を相手方として,裁判所に対し,自己に特許を受ける権利が存することの確認を求めることができると解するのが相当である。

 これを本件についてみるに,原告は,被告IHIらが出願した本件各発明について,自己に特許を受ける権利が帰属すると主張し,被告IHIらはこれを争っているから,原告と被告IHIらとの間には,本件各発明に関する特許を受ける権利の帰属について争いがあり,原告が自己に帰属すると主張する本件各発明の特許を受ける権利について,不安や危険が現存すると認めることができる。そして,本件訴え1によって,原告が本件各発明の特許を受ける権利を有することを確認できれば,原告と被告IHIらとの間の本件各発明の特許を受ける権利の帰属を巡る争いから派生して生じるおそれのある将来の紛争を抜本的に解決することが期待できる
 また,冒認出願は,特許法39条1項から4項までの規定の適用については特許出願でないものとみなされ(同条6項),後願排除力(同条1項)を有しないものとされており,真の権利者は,その意に反して発明が新規性を失った日,すなわち冒認出願につき出願公開がされた日から6か月以内に特許出願をすれば,例外的にその発明が新規性を喪失しないものと扱われ(同法30条2項),特許権を取得することができる。現に,原告は同項の適用を前提として本件各原告出願を行っており,本件訴訟で原告が勝訴すれば,原告はその審査の過程で当該勝訴判決を一資料として特許庁に提出することができる
 他方,本件のような事案において,特許を受ける権利それ自体について移転請求を認める規定は現行法上存在しないから,原告は,被告IHIらに対し,上記権利の移転を求める給付の訴えを提起することはできないと解される。
 
 以上に検討したところによれば,本件訴え1によって,本件各発明の特許を受ける権利の帰属を巡る争いから派生して生じるおそれのある将来の紛争を抜本的に解決することが期待できる一方,特許を受ける権利それ自体について給付の訴えを提起することはできないのであるから,本件訴え1には確認の利益が認められるというべきである。

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