知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

課題を解決するための手段が一切記載されていないとされた事例

2011-11-20 10:40:11 | 特許法36条6項
事件番号 平成23(行ケ)10097
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年11月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 請求項1は,
「歯科治療を行う時上下顎の石膏模型や義歯等を咬合器にマウントしなければいけませんが,其のとき上下,左右,前後の位置,又咬合平面の角度を手早く調整すること。」
というもの
であるが,その文言や内容に照らすと,「歯科治療を行う時上下顎の石膏模型や義歯等を咬合器にマウントしなければいけませんが,」の部分は,「手早く調整すること」がいかなる場面で行われるかという前提事項を説明したものと解される。また,「其のとき上下,左右,前後の位置,又咬合平面の角度を手早く調整すること。」の部分も,上記1で認定した,「時間と精密度を大きく改善出来る」や「下顎位を変えたいときなど手短に行なうことが出来る」などの記載と同趣旨であって,本願明細書に記載された発明の効果に対応する記載であると解される。
 そうすると,請求項1には,前提事項と発明の効果に対応する記載がされるのみで,いかなる装置又は方法によって「手早く調整すること」を実現するか,すなわち課題を解決するための手段が一切記載されていないことになるから,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない
 また、,請求項1の「…手早く調整すること。」という記載からは,請求項1に記載された発明が方法の発明であるのか物の発明であるのかも明らかではない。
 ・・・請求項1の記載は,特許を受けようとする発明が明確でなく,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない・・・。

原告は,本願明細書及び図面の記載を考慮すれば,請求項1の「其のとき上下,左右,前後の位置,又咬合平面の角度を手早く調整すること。」の部分は,本願図面の【図2】にあるような装置を用いて歯牙模型をマウンティングプレートに付着させる構成を指すことが理解できる旨主張する。
 しかしながら,請求項1の「其のとき上下,左右,前後の位置,又咬合平面の角度を手早く調整すること。」の部分は,上記2で説示したように,発明の効果に対応する記載と解されるのであって,本願明細書及び図面の記載を参酌したとしても,上記部分が原告主張の具体的な構成を指すものとは認め難い