徒然なか話

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映画「おくりびと」の描くもの

2009-03-02 09:10:38 | 映画
 「おくりびと」は“命”や“死”を中心的なテーマとして描いているが、もう一つのテーマが“食”である。この映画には“食”のシーンが重要なシーンとしていくつか出てくる。大悟が初めてもらった日給で買った山形牛を妻の美香と食べるシーン。初仕事でショックを受け、美香が準備したつぶした鳥の姿を見て嘔吐するシーン。納棺の後、遺族からもらった干し柿を車の中で食べるシーン。大悟と社長がフグの白子を食べるシーン。クリスマスに事務所で骨付きチキンを三人で貪り食うシーンなど。セリフの中にも出てくるが、「生きるということは他の命をいただいているということ」つまり「食べることによって命のリレーが行なわれているということ」これがこの作品が言わんとする最も重要なメッセージではないかと思う。人間の食べるという行為は、楽しくもあり、悲しくもあり、滑稽でもある。また時にはひどくエロチックでさえある。食べるシーンで思い出すのは、1964年に有楽町で観た「トム・ジョーンズの華麗な冒険」というイギリス映画だ。トニー・リチャードソンが作ったこの映画は1963年のアカデミー作品賞や監督賞などを獲ったが、アルバート・フィニー演じるトム・ジョーンズのエロチックな食事シーンは当時話題になったものだ。今回の「おくりびと」における食べるシーンもそれに匹敵するぐらい印象的なものだった。シナリオを書いた小山薫堂(熊本県天草市出身)はテレビの「料理の鉄人」を手がけた人でもあるだけに、食べることにこだわりがあったのだろう。
トム・ジョーンズの華麗な冒険(1963)

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2 コメント

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Unknown (ikuko)
2009-03-06 06:56:15
食べるシーンがまず浮かぶ映画って、私は伊丹十三監督の「お葬式」の冒頭シーンです。
超アップでうなぎを食べているシーン、そして間もなくその人が亡くなってしまうというのに度肝を抜いた覚えがあります。

「もの喰らう人々」という本もありましたね。私たちは殺生しなくては生きられない、そして私たちもいつかは必ず死んでゆく。だから「食べる」という行為は哀しく、そして尊いのだと思います。
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ikuko さま (FUSA)
2009-03-06 13:26:44
滝田洋二郎監督も伊丹十三監督の「お葬式」は意識されたでしょうね。伊丹監督は、葬式というものは悲劇であると同時に喜劇だというようなことを何かのインタビューでおっしゃっていた記憶がありますが、身内の葬式に際しても、食欲も性欲も一向に衰えない遺族たち、ひいては人間の本質をコミカルかつシニカルに描いていたと思います。これに対して「おくりびと」は葬式を執り行うプロの姿、あるいはそちら側の視点から見た遺族の姿であるわけですが、人間の本質的なところを描こうとしている点においては共通したものがあると思います。
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