徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

初萩とさおしか

2024-09-03 21:45:09 | 文芸
 先月中旬、味噌天神の福栄堂さんがかつて製造販売されていた銘菓「さおしか」の復刻版を作られたというので訪問して試食させていただいた。しかし、「さおしか」という商品名が他店で商標登録されているため、福栄堂さんは再販売に当たって「初萩」という商品名にしたいとおっしゃっていた。
 これは、万葉集の
  「わが岡にさをしか(小牡鹿)来鳴く初萩の花妻どひに来鳴くさをしか」
という「大伴旅人」が詠んだ歌にあるように「さおしか」と「萩の花」がまるで夫婦のように寄り添う様子から発想されたもの。

 万葉集の成立から約200年後に完成した清少納言の「枕草子」第六十七段「草の花は」の條に次のような一節がある。

   萩、いと色深う、枝たをやかに咲きたるが、朝露に濡れて、
   なよなよとひろごり伏したる。
   さを鹿のわきて立ち馴らすらむも、心ことなり。八重山吹。

 ここでも萩の花のそばに立つ「さおしか」が描かれている。清少納言はもちろん万葉集は読んでいたと思われるし、上記の「大伴旅人」の歌も知っていたであろう。というより萩の花と「さおしか」を対で詠むのは常套句のようなものだったのかもしれない。


藤田嗣治画伯旧居跡に咲く萩の花