「萌の朱雀」(1997)以来の尾野真千子ファンとしては、「麒麟がくる」の登場人物の中でも彼女が扮する伊呂波太夫に注目している。この役柄は架空の人物だが、ネット上ではモデルとなった人物が誰なのかが話題になっているようだ。旅芸人一座の女座長という設定から「出雲阿国」がモデルではという意見もあるが、「出雲阿国」はもう少し後の時代の人だし、モデルはおそらく一人ではないのではないかと思う。諸国の有力大名や京の公家に顔のきく存在と言えば、当時、そういう立場にいたのは茶人、連歌師、僧などであり、光秀に近かった津田宗及(茶人)、里村紹巴(連歌師)、心前(真言宗の僧)などの存在が、伊呂波太夫の人物像に反映されているのかもしれない。先日の第41回「麒麟がくる」では信長軍に攻められた松永久秀が信貴山城で自害して果て、彼が所有していた茶釜「平蜘蛛」を預かった伊呂波太夫が密かに光秀に届けるという場面があった。松永久秀がそれを誰かに託したという説にもとづき、それを伊呂波太夫という架空の人物で表したのだろう。

伊呂波太夫に扮した尾野真千子

伊呂波太夫に扮した尾野真千子