徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

磯節のはなし。

2017-02-17 21:04:30 | 音楽芸能
 水戸の芸妓に言わせると、「磯節の本場は水戸ですわ」と言う。平磯の漁夫に言わせると「どうして本場はこちらでさぁ」と笑う。さらに大洗の人たちについてきくと、「磯節は大洗に限りますよ」とある。
 同じ茨城県は常陸の国で、同じように太平洋に面した漁村である以上、どうでもよかりそうなものである。

 これは昭和2年に出版された松崎天民著「人間見物」という随筆集の一節である。民謡の本場争いはどこか他でも聞いたような気がする。さて、この松崎天民なる人物だが、明治の終りから昭和前期にかけて朝日新聞などで活躍したジャーナリストで、同じ時期に朝日新聞にいた夏目漱石とも親交があったといわれる。天民は「人間見物」の中で、親しかった盲目の磯節名人・関根安中について語っている。関根安中は茨城出身の第19代横綱常陸山に可愛がられ、巡業先にも幇間として付いてまわったという。そのお蔭で磯節が日本全国に広まったという伝説がある。
 磯節は、テレビなどで何度か聞いてはいたが、僕がその良さに気付いたのは5、6年ほど前、熊本で行われた「はいや くまもと2010」の録画を本條秀美さんに見せていただいてからである。はいや節のルーツを描いたお芝居の中で、本條秀太郎さん作「俚奏楽 磯節月夜」が使われていて、本條秀美さんの唄と三味線にハマってしまった。以来、磯節そのものに興味が湧いて、いろんな人の唄う磯節をネットなどで聴いてみたが、唄う人によって随分と味わいが異なるところもまた面白い。もとは漁夫の櫓漕ぎ唄が始まりらしいが、お座敷唄として粋な唄い方に変わって行ったようだ。中でも良かったのは藤本二三吉さんの唄う磯節。国立国会図書館デジタルコレクションの中に歴史的音源として公開されているので、興味のある方はぜひ聴いていただきたい。
 先日、城彩苑湧々座で行われた初午をどりで、花童のゆりあちゃんが根岸流端唄の「磯節かっぱ」を踊ったが、この唄も磯節に牛久沼のかっぱ伝説を織り交ぜたユーモラスで粋な曲でなかなか良かった。



大洗海岸(茨城県大洗町)


本條秀太郎さんが磯節をモチーフに俚奏楽としてアレンジした「磯節月夜」

中村花誠先生の能「松風」を思わせる振付が面白い