音楽業界の主催会社代表の皆さんのインタビューに続いては「演劇界」の対応です
以前に、劇団四季の吉田智誉樹社長が…
「自粛期間中、自宅で自己鍛錬するしかない俳優のメンタルが心配で
オンラインでのレッスンや交流の機会をたびたび設け、気持ちを切らさないよう努め」られ
「彼らの収入は、出演単価と回数に応じた額が、定額に加算されて決まるんですが
自粛期間中も一定の比率で出演したとみなして支払」われたり
「海外展開もにらんだオリジナルの新作を増やし、有料ライブ配信することも検討」され
「『演劇界の最大手の劇団ですら、このような手段を…』と感じて頂くことで
業界全体の危機を世間に認識して貰えれば…という思いで
活動継続への支援を求めるクラウドファンディング」をお始めになったり
「多くの業界が困っているので、文化の危機だけを主張するのはおこがましいが
ただ、演劇は失われたら、なかなか戻って来ないジャンルなので、何とか目を向けて欲しい」
…と話されていたことをご紹介しましたけど
「劇団⭐新感線」の細川展裕プロデューサーは…
「昨年、大型イベントに対し、2週間の中止・延期、規模縮小の要請が出たのが2月26日
生田斗真さん主演の舞台の東京公演中でした
大手のカンパニーが公演中止を発表し、我々も3月10日までの中止を決めましたが
その3月10日、政府は10日間程度の自粛継続を要請
全日程中止の福岡公演と合わせて、68ステージ中48ステージを断念しました
前売り完売の東京公演は、約3億4500万円分を払い戻し
チケット販売手数料も4千万円かかりました
出演者やスタッフにも、ある程度の報酬をお支払いしました。大赤字です
あの頃は『1~2週間』とか『10日間程度』といった言葉に振り回されました
例えば、僕たちの東京公演は、1週間あれば
7ステージで8750人の観客を迎えることが出来た
1週間と2週間では、事業への影響が全く異なる
そういう想像力が、政府の発する言葉には欠けていましたね
興行は原則、チケット収入がすべてです
演劇の場合は、そこから出演料や劇場使用料などを払い
残りを制作会社の人件費や公演準備に回します
扱う興行は数億円規模でも、資本金は数百万円の制作会社もあります
年商1兆円の会社が、倒産の危機に直面しているというのが現状です
弊社も、巨大な自転車操業がポンと止まった感じで危機的な状況です
演目によりますが、新感線の公演は、出演者が約40人、本番のスタッフは約70人必要で
劇場付きのスタッフなども合わせれば
公演中止で、約1500人の仕事が失われました
無担保無利子の融資制度などを活用しつつ、グッズ販売や
過去の公演動画の有料配信を通して、観客の『共感』を繋ぎ、収入を得る道を探り
観客数が収容数の50%という基準の中、赤字覚悟で幕を開ける人がいるのは
『動かなくてはしょうがない』との思いからです
皆で声を上げるからこそ、基準の再検討にも繋がります
発症前も感染の恐れがあると判り、本番に関わる出演者とスタッフを10人程度に絞った
…それも異なる演目を上演する2チームを作り
リモート稽古や抗体検査などの対策に加え、劇場内での接触も断ち
万一の公演中止を避けたいと考えています
ただ、ライブ・エンタメは、時間と空間を共有するという根本が変わらない以上
混雑した店を避けるといった行動変容が起こっているように
観客が『ちょっと試しに行ってみる』ことが減って
『どうしても観たい』と思えるものに集中することは避けられません」
…と、おっしゃっていて、確かに奥さんにとって甲斐さんのライブは
「不要不急の外出」どころか「生活必需品」であり(笑)迷うことなく参戦を決めたけど
公演自体はもちろん、会場への移動に伴う感染リスクや
マスク着用、発声禁止といった通常のスタイルではないライブということに
二の足を踏まれる方がいらっしゃるのも、むべなるかなと…
一方、劇場側はというと…「演劇の街・下北沢を作った男」本多一夫さんのご子息であり
現・本多劇場グループ総支配人・本多慎一郎さんは
昨年4月の緊急事態宣言発令とほぼ同時に、グループ全8劇場の休館を決断されたそうですが
これは、劇団側が上演を中止するとキャンセル料が発生するので
小劇団の存続を脅かすことにならないように配慮なさったためらしく
劇場再開まで無収入となられ、借り入れに踏み切られる傍ら
劇場の換気機能強化を図られたり、アクリル板でパーティションを手作りなさったり
緊急事態宣言が解除されるとすぐに、無観客の一人芝居「DISTANCE」を
本多劇場から生配信され…って「本番当日に関係者が初めて顔を合わせるような」
まさに、その名の通りの成り立ちだったみたいだけど…
その翌日には、都内の約30の小劇場で作る「小劇場協議会」を発足
8月には「DISTANCE」第2弾を有観客で上演
「各地の劇場も再開して欲しいと願って」
北九州、愛知・豊橋、札幌でも公演を打つツアー企画を敢行
10月下旬には、全8劇場がほぼ連日利用されるようになったものの
「3密回避は、ライブハウスや飲食店などと共に、小劇場に突きつけられた厳しい条件です
照明、音響などのスタッフの仕事がなくなり、エンタメ業界全体が苦境に陥りました
舞台装置を搬出するだけで『こんな時に劇場を開けるのか』とお叱りを受けるなど
『演劇は、人が生きて行く上で必要ない』という意見がありますが
舞台芸術のない社会で本当にいいのでしょうか?」と本多さん
昨年2月のクラスター発生以来「夜の街」と並んで「悪者」扱いされているライブハウスに…
それも、普段はエンタメに寛容とされる下北沢にあるライブハウスでさえも
郵便受けに「出て行け!」という手紙が投函されていたという話を思い出しました(汗)
「劇場でなくなった空間を、再び劇場として生き返らせるには大変な労力が必要になります
少し休むと劇場の空気が変わってしまうので、出来るだけ早期の再開を目指していました
コロナ禍で出来た観客と舞台の距離を縮めたかったんです」
…という、ある種「時間との戦い」とも言える
切迫した思いでいらしたことを明かされてます
「演劇は失われたら、なかなか戻って来ないジャンル」
「『動かなくてはしょうがない』との思い」
「劇場でなくなった空間を、再び劇場として生き返らせるには大変」
…といったお三方の言葉には、それぞれ違う意味が込められているのかも知れませんが
ライティングアーティストのAIBAさんは…
「欧米では、フリーランスの音響・照明は非常に少ない
一方、日本のエンタメ業界は、フリーランスという
不安定な立場の人たちに支えられている」…と指摘され
また、日本舞台音響事業共同組合の西澤勝之代表理事によれば…
「開演前、演者は客席の様々な場所に立ち
ドラムの細かい音ひとつや照明について、スタッフと細かく議論して行く
リハーサルの段階で『このスタッフじゃ歌えない』と公演が延期になることもある
コロナ禍の中で、持ちこたえることが出来ずに廃業したり、転職したりと人材が流出すれば
長年培って来た技術の継承が出来なくなる
全国のあらゆる会場の音のクセが頭に入っていて、その上で機材と配置、角度を決める
観客数で音の響きが変わるので、コンピューターで分析しながら
序盤で更に修正し、理想の音に近づける…といったことが
それなりに出来るまでには最低でも10年かかる」…そうですし
舞台に立たれる皆さんと、その舞台を支えておられる方々が
「チーム」として連動できなくなれば成立しない世界だということを改めて実感致しました