日本は1988年に発効した日米原子力協定にもとづいて使用済み核燃料の再処理ができ、20%未満の低濃縮が可能だ。有事の際にはそれを用いて短期間で核兵器を保有する能力を備えているわけだ。

2024-06-30 17:37:28 | 米国は、「世界の憲兵」をやめろ!
 

「トランプが認める」という核武装論…

朝ロ条約後に再登場も(1)=韓国

登録:2024-06-28 01:54 修正:2024-06-29 09:14
 
ナ・ギョンウォン、オ・セフンら積極主張 
トランプ陣営関係者の発言も火種 
「外交失敗から目をそらすもの」指摘
 
 
24年ぶりに北朝鮮を訪問したロシアのプーチン大統領(左)と北朝鮮の金正恩国務委員長が19日、平壌の錦繍山迎賓館で行われた包括的戦略パートナーシップ条約調印式で記念撮影をおこなっている=平壌/タス・聯合ニュース

 19日に北朝鮮とロシアが同盟の復元に準ずる条約を締結したことを受け、保守陣営を中心として核武装論が改めて噴出している。

 朝鮮戦争から74年を迎えた25日、国民の力の代表候補たちが韓国の核武装論をめぐって論争を繰り広げた。この日、保守系団体「新たな未来準備委員会」のセミナーに参加したナ・ギョンウォン議員は、「今や韓国も核武装すべきだ」と述べた。ソウル市のオ・セフン市長は同セミナーで、「今日、5回目の汚物風船を見て、我々も核を開発すべきだと考えざるを得ない」と述べた。ナ議員は26日にもフェイスブックで、自身が党代表となれば「核武装」を党の方針として採択すると表明している。

 もう一つの「導火線」は、21日に国家情報院傘下の国家安保戦略研究院が発表した報告書だ。「ロ朝首脳会談の結果の評価および朝鮮半島に波及する影響」と題するこの報告書は、朝ロ条約の意味を分析しつつ、最後の部分で「(韓国の)独自の核武装、または潜在的な核能力の具備など、様々な代案についての政府レベルでの検討および戦略的公論化を推進すべきだ」としている。朝鮮日報をはじめとする保守メディアはこの一節を取り上げつつ、「核武装論」に改めて火をつけた。朝鮮日報は25日の社説で同報告書を引用した後、「これまでに国策研究所は、北朝鮮の核の脅威に対抗して米国の戦術核の再配備やNATO式の核共有に言及したことはあるが、独自の核武装と再処理権限の確保にまで言及したことはほぼなかった」とし、「もはや韓国政府も核武装論議をタブー視してはならない」と述べた。

核武装に現実性はあるのか

 北朝鮮の核能力の強化や朝ロ密着などで、韓国の安保環境が大きく悪化しているのは明らかな現実だ。問題は、韓国の核武装が現実的に可能なのかだ。核開発は核拡散防止条約(NPT)の脱退によって始まる。NPT第10条1項は、異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合には、3カ月前に国連安全保障理事会(安保理)などに通知のうえ、脱退できるとしている。韓国がNPT第10条1項を根拠に脱退を宣言したとしたら、安保理の韓国制裁決議案に米国は拒否権を行使してくれるだろうか。米国は、韓国の核武装を容認した際に日本、台湾、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコなどでもNPT脱退と「核ドミノ」が起きることを懸念するだろう。韓国が制裁を免れるのも困難だ。

 慶南大学軍事学科のチョ・ソンニョル招へい教授(元大阪総領事)は、「韓国が核武装するためにNPTを脱退すると、国連安保理の経済制裁を受けることになる。貿易に依存する韓国が持ちこたえるのは困難だ。しかも、韓国は電力生産の29%を原子力発電に依存しており、原子力供給国グループ(NSG)からの核燃料(MOX)の供給が断たれるため、大きな困難に直面することになる」と語る。

 そのうえ、米国の同意と黙認なき核開発は韓米同盟の破綻を招くということは、専門家が共通して指摘するところだ。昨年4月、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領とバイデン大統領はワシントンでの首脳会談で、米国が朝鮮半島の拡大抑止を強化する代わりに韓国は独自の核武装を行わないとする「ワシントン宣言」を発表した。米国はこれによって、韓国が核武装に言及するのを遮断した。朝ロ条約後、韓国の核武装論が改めて噴出すると、キャンベル国務副長官は24日(現地時間)の米国外交問題評議会(CFR)の行事で、朝鮮半島において核抑止力を強化するために「ワシントン宣言」以外の措置が必要だと思うかと問われ、「(ワシントン宣言が)我々が今対応するのに必要なものを提供したと思う」と答えた。韓国の核武装論に反対するバイデン政権の明確な立場を改めて強調したのだ。

 
 
2023年4月、米国を国賓訪問した尹錫悦大統領がホワイトハウスでの歓迎行事でバイデン大統領と共に立っている。尹大統領とバイデン大統領はワシントン宣言を発表し、米国が拡大抑止を強化する代わりに、韓国の核武装論議を遮断した=ワシントン/ユン・ウンシク記者//ハンギョレ新聞社

トランプが再選されれば韓国の核武装を認めるか

 核武装論のもう一つの背景は、11月の米大統領選挙におけるドナルド・トランプ再選の可能性だ。トランプが再選されれば在韓米軍削減、韓米合同訓練の縮小などが予想されるため、韓国も核開発が必要だというわけだ。トランプ2期目が現実のものとなった際の国家安保担当大統領補佐官の候補と言われているエルブリッジ・コルビー元国防副次官補をはじめとするトランプ陣営の関係者の、相次ぐ「韓国の核武装容認」示唆発言が、韓国核武装論の重要な背景となっている。トランプ政権時代に朝鮮半島政策の実務担当者だったアリソン・フッカー元ホワイトハウス国家安保会議(NSC)アジア担当上級補佐官は今月21日、「我々は韓国が独自の核武装に向かって進み続けており、もしかしたらより急速に進むということを排除できない」と語った。代表的な保守系シンクタンクであるケイトー研究所のダグ・バンドー上級研究員も、21日の外交専門誌「フォーリン・ポリシー(FP)」への寄稿で、「米国の政策立案者たちは、韓国と日本が独自に核兵器を開発することもありうると心配している」とし、「良くないことではあるが、米国人を北朝鮮の(核)能力の人質にしておくことの方がはるかに悪いこと」だと述べた。

 しかし、実際に第2期トランプ政権となった時、彼らが実際に韓国の核武装を容認するとは考えにくいという意見は強い。国立外交院のチョン・ボングン名誉教授(韓国核政策学会会長)は、「今、トランプ陣営の中で競争しているこれらの人物は、韓国人の関心に合わせてリップサービスしているが、実際に政府に入って働くことになった時、韓国の核武装を容認する可能性はほとんどない」とし、「米国の外交安保の主流においては核不拡散原則が依然として非常に強力だという現実を直視しなければならない」と述べた。ダグ・バンドーをはじめとする韓国の核武装の可能性を示唆する人々は在韓米軍の撤退を一貫して主張してきた、ということも特に留意する必要がある。(2に続く)

 

「トランプが認める」という核武装論…

朝ロ条約後に再登場も(2)=韓国

登録:2024-06-28 01:53 修正:2024-06-29 09:14
 
 
                            六ヶ所再処理工場=NHKの番組の画面をキャプチャー//ハンギョレ新聞社

(1の続き)

「潜在的核能力」と韓日の違い

 このように現実的な困難が存在するため、ひとまず日本のように「潜在的核能力」を確保しようという主張も強い。国民の力のハン・ドンフン元非常対策委員長は25日、「核戦力を用いた安保の強化は絶対に必要だ」としながらも、NPTを脱退した場合の制裁などを考慮し、ひとまず「核武装の潜在的力量を持つところまでは行こう」と主張した。ソン・ミンスン元外交長官も潜在的な核能力の保有を主張している。

 日本は1988年に発効した日米原子力協定にもとづいて使用済み核燃料の再処理ができ、20%未満の低濃縮が可能だ。有事の際にはそれを用いて短期間で核兵器を保有する能力を備えているわけだ。韓国が日本のように「潜在的核能力」を確保しようとしても、2035年に有効期間が満了する「韓米原子力協定」を事前に改正しておかなければ、それは不可能だ。チョ・ソンニョル教授は、「2015年に韓米原子力協定を改正する際、朴槿恵(パク・クネ)政権は米国に再処理技術を認めるよう要求し続けた。後にはせめてパイロプロセッシングを認めてほしいと主張したが、米国はそれにも同意しなかった」と語った。パイロプロセッシングとは、原発で使用したウランなどの核燃料を回収し、次世代原子炉の核燃料として再利用する技術だが、米国はそれも結局のところ核兵器の製造につながる可能性が排除できないと判断し、韓国の要求に同意しなかった。

「保守層を結集させるための無責任な核武装論はむしろ安保を脅かす」

 では、このように独自の核武装はもちろん、潜在的な核能力の保有も容易ではないという現実にあって、またしても核保有論が噴出しているのはなぜなのだろうか。ロシアとの外交を放置していたため朝ロ条約が締結されてしまったという政府の外交の失敗から人々の目をそらすとともに、保守層を結集させるための、保守層の政治的メッセージだという分析が示されている。チョ・ソンニョル教授は、「尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領がウクライナを訪問してから韓ロ関係は悪化し続けたにもかかわらず、外交安保の責任者たちは『韓ロ関係はレッドラインを越えないようにうまく管理されている』と言い続け、韓ロ関係を放置してきた」とし、「このたび朝ロが条約を結ぶと、慌てた保守勢力は議論の焦点を核武装へと移している」と指摘した。

 政界の核武装論は実体があるわけでもない。尹錫悦政権が米国と真剣に交渉し、韓米原子力協定の改正などを要求しているわけでもないからだ。昨年4月の尹錫悦大統領の米国国賓訪問でバイデン政権と「ワシントン宣言」を発表して以降、政府はその結果である核協議グループ(NCG)で核の傘の強化策を議論しているに過ぎない。尹錫悦政権に実際に韓米原子力協定改正の意思があるのなら、昨年の「キャンプデービッド宣言」の交渉過程でこれらの問題について要求すべきだったということだ。

 政界で保守層を結集させるために核武装の声を強めることは、むしろ韓国にとっては大きな不利益になるという懸念もある。

 チョン・ボングン教授は、「今、次世代小型モジュール原子炉(SMR)や核燃料用濃縮技術など、韓国が米国と協力しなければならない先端技術は多いが、韓国で核武装の声が高まるほど米国は韓国の意図に不信を抱くようになり、先端技術協力でも韓国を疎外する懸念が高まる」と語る。

 専門家は、政府と政界が真剣に韓国の安保状況を憂いたうえで、在韓米軍の撤退などで核武装を考慮せざるを得ない万が一のケースに備えるためには、より慎重でなければならないと強調する。日本が使用済み核燃料の再処理の権利を確保してからも、公には「核潜在力」に言及しておらず、非核三原則を一貫して強調することで国際社会の信頼を得ていることの意味を考えるべきだということだ。チョン・ボングン教授は、「韓国が本当に安保のために核潜在力を保有するためには、与野党が真剣に協議して明確な戦略を立て、『静かな外交』を展開していかなければならない」とし、「政界がこのように核保有を騒げば騒ぐほど、一歩も進めなくなるし不利になる」と懸念を示した。

パク・ミンヒ先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする