[アニマルピープル]
「雪の上を航海するかのよう」
韓国の面積の大洋が明るく光る
18世紀の船員の目撃談が伝わる
衛星が捉えた光、ヨットの船員が確認
「不気味な光、水中の深い所から出てくる」
2019年8月2日、米国の環境衛星が撮影した韓国の面積ほどの「乳白色の海(Milky seas)」。上側の茶色がインドネシアのジャワ島の姿=米海洋大気庁(NOAA)提供//ハンギョレ新聞社
「夜10時に眠りから覚めた時、海が白かった。月のない夜なのに、プランクトンだろうか。しかし、船首は黒い。船があたかも雪の上を航海するかのようだ」
ジャワ島沖合を通ったヨット「ガネーシャ号」のヨハン・レメンス船長は、2019年8月2日の航海日誌にそう書いた。7人の船員が乗り世界一周した長さ16メートルのそのヨットは、18世紀に大洋を航海した船員を超現実的な感覚に陥らせた神秘の「乳白色の海(Milky seas)」現象を初めて現場で確認した。
米国コロラド大学のスティーブ・ミラー大気科学教授は、科学ジャーナル「米国立アカデミー会報(PNAS)」最新号に掲載した論文で、「ガネーシャ号の船員と面談し、2021年の衛星写真から探しだしたジャワ島沖合での大規模な発光現象が、本当に『乳白色の海』だったことを初めて立証した」と明らかにした。
ミラー教授は2021年の研究で、米国海洋大気庁(NOAA)が10年間撮影した環境衛星の資料を分析し、世界中から12個の「乳白色の海」の候補を見つけたと明らかにした。そのなかでもジャワ島沖合のものは、最も規模が大きく、韓国の面積に匹敵する10万平方キロメートルを超えることが明らかになった。この衛星は、日光の10億分の1の薄明かりも感知できるセンサーを搭載している。
ヨット「ガネーシャ号」の平常時の姿(左側)と「乳白色の海」に入った時に撮った姿の比較。海面でかすかに映る明るい光が、帆にも映っている=ナオミ・マッキノン氏提供//ハンギョレ新聞社
ガネーシャ号の船員だったナオミ・マッキノン氏は、この研究結果を伝える報道をみて、自分たちが目撃したものがまさにジャワ島の「乳白色の海」だったことに気づき、ミラー博士に連絡した。ミラー博士は、衛星写真にもとづく推定を現場の目撃で証明してくれる情報の提供を喜んだ。
ガネーシャ号は夜9時頃、光る海の中に突然入った。船首から船尾まで、水平線の端から端まで、あたり一面の海が光りだした。ところが、波打つ海の表面が光を放つ一般的な発光現象とは違った。
通常、海では発光細菌が波や物理的な刺激を受けると光を放つ。水の流れを分ける船首から光りだす。しかし、ごくまれに発生する「乳白色の海」は、発光は外部の刺激とは無関係に発生する。レメンス船長は「一般的な発光現象とは違い、船首によって分かれる水の流れは光らず黒々としていた」としたうえで、「不気味な光が10メートルほどの深さからせり上がってくるようだった」と述べた。
海辺でよく見かける発光現象。発光細菌が波の刺激を受けて光を放っている=ゲッティ・イメージズバンク//ハンギョレ新聞社
ジャワ島沖合の発光現象は、翌日の夜明けまで8時間続いた。しかしミラー教授は「衛星写真によると、海が最も明るく光った所はガネーシャ号が通った航路より200キロメートル北で、そこでの光度は4~5倍強かった」と述べ、「ジャワ島の『乳白色の海』は45日間続いた」と明らかにした。
乳白色の海現象を起こす主人公は誰なのか、どうして光るのかなどは、今もなお謎だ。ただ、数兆匹の発光微生物が一斉に光を放つという事実が確認されただけだ。
ジャワ島沖合の「乳白色の海」(中央)とガネーシャ号の航路(中央下)。最も明るい海は、目撃した所より4~5倍明るかった=スティーブン・ミラー(2022)「米国立アカデミー会報」提供//ハンギョレ新聞社
ミラー教授は、このような現象が起きる原因として「大気の条件によって海流が変わると発光細菌が集団で意思疎通して起きる『クオラム・センシング(Quorum Sensing)』のようだ」と明らかにした。クオラム・センシングとは、微生物が環境に順応するために相互作用因子を分泌し、それを他の微生物が認識することによる現象を示す。一種の細菌の集団行動だ。
ミラー教授は「乳白色の海現象は、地球全体で年間0~2回、人里離れた海で一時的に発生するため、目撃と調査は困難だ」とし、「今では衛星の感知センサーによってこれを研究できることが判明したので、謎を解くより良い研究が可能になった」と明らかにした。
引用論文: Proceedings of the National Academy of Sciences, DOI: 10.1073/pnas.2207612119
チョ・ホンソプ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )