「木下黄太のブログ」 ジャーナリストで著述家、木下黄太のブログ。

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IAEAの調査結果を無視する日本政府は国民を守る気があるのか

2011-04-01 02:19:48 | 福島第一原発と放射能

 間違えていただきたくないのですが、国際原子力機関=IAEAは、平和に原子力の推進を進めている国際機関です。どういうことかというと、原子力事故を適正にチェックし、指導するような国際機関というよりも、大変な事態が起きていても、できるだけ、事態を沈静化させ、対策についても必要最小限のことしかおこなわないことが、実はメインの仕事です。

 チェルノブイリで考えましょう。公式発表だと作業者の被曝は24万人、避難住民の被曝は11万6000人、高線量被曝の作業員は134人、うち34人が3ヶ月以内に死亡、小児甲状腺ガンが1800例見つかったほかは、「ガンの増加や死亡はなかった」とされています。実際はとてつもない量の放射性物質が排出されていて、もちろん旧ソ連ということもあり、健康被害の調査は、一部のサンプリング調査だけで、住民をきちんとトレースしておらず、本当の悲惨な実態は隠されている状況です。こうしたはっきりしない状況を追認してきた国際機関がIAEAです。何を言っているのかというと、IAEAが問題があると言っている時は、間違いなく大きな問題があるということです。推進側の組織です。IAEAの今回の調査で、飯館村の土壌の表面から、1平方メートル当たり、2000万ベクレルの放射性物質(ヨウ素)が検出されたということです(会見で訂正されて数値が増えました)。尋常な量ではありません。きのうも書きましたがベラルーシの最高会議は1平方メートルで55万5千ベクレル(セシウム)で強制退去させました。
大規模汚染の過去の例は、チェルノブイリしかありません。そのチェルノブイリにより、取られている強制移住対応の36倍にあたる汚染が土の表面にあります(セシウムとヨウ素で半減期が違いますが)。常識的に判断はひとつしかありません。しかし、日本政府は問題がまだないという立場です。原子力安全委員会は、避難区域の設定を見直す必要はないとの考えです。もはや、シュールとしか言いようがありません。どんなにきちんとした現実を突きつけても、どんなに明確に言い続けても、「思考停止」の状況はかわりません。
 

 政府が「思考停止」をしていると、それをメディアが追認する状況が続いています。メディアの内部でもいろんなことがおきているようで、「安全」「安全」というワードばかりが上から下に対して降りている状況だと仄聞しています。なぜ安全なのか、どうして安全なのかをきちんと説明している訳ではありませんし、これでは、国民が心の底から自分たちが安全であると確信を持てる状況ではないと僕は思います。

 僕は出来るなら、100キロ圏の避難をこのブログで訴えていますが、僕だけでなく、著名な都市防災や都市計画の専門家も同様の発想を現時点でお持ちの方がいるそうです。こういう提言だけは官邸にも、まもなく届けられるとは思います。勿論、数百万人単位の移動は現実的にかなり難しいですから、あの菅直人氏が決断する見通しはほぼないだろうとは思いますが。菅氏は、彼を知る人たちの中での会話では、目先に少しでも自分の責任を問われる可能性がある決断をすることは、避ける人物だということです。自分ではなく、例えば他の機関が決断することで、自分の目先の責任を回避したいというのが彼の本音だということです。本当に厳しい感じがするばかりです。

 きょうも小出先生と原子炉について何かまだ対策はないのかと話したのですが、「水を入れ続ける以外の方法はもう全てなくなったと今は確信したよ。電気の復旧は厳しい。後は、人が続くかどうかだが、炉心はどんどんくずれるから、水蒸気爆発で大量の放射性物質が飛び出す可能性は、そのままだよ。今度は10倍くらい放射性物質が出ることは想定すべきだし、風向きと高度次第だが、チェルノブイリと同じ半径は被害想定すべきだよ。」といわれました。「チェルノブイリは250キロで高濃度被曝しているからね」と。ギリギリの状況です。

 後、皆さんに確認しておいてほしいのは、美浜原発などに反対している「美浜の会」が厚生労働省とのやりとりをのせています。現在、今回の福島原発に関して全国の市民グループでもっとも活動しているのが、このグループのようです。きょう、僕もその中身を取材して確認しましたが、厚生労働省は外部被曝と内部被曝の全体を何かの計算式で推定でも出しているのかどうかという質問に「不知」という答えだったそうです。元々、厚生労働省は原子力災害は大規模に起こらないという仮定の下、被曝の健康への影響というジャンルに立ち入らないことが常だったようですが、国民の健康に影響を与えかねないこの情勢であっても、見かけ上の推定の出し方も特にないことが示されると、長期的国民の安全を、この国のどの機関が考えているのか分からないということです。というか、考えていない可能性もあるということです。「直ちに影響がない」というワードで私たちは安心するべきではないという思いを強く強くしています。このワードに対しても、「厚労省としてははっきりしていない」と答えているそうです。一体、どの官僚達が決めた中身での言葉で、官邸や保安院の皆さんは、
しゃべっているのでしょうか。僕の不安はますばかりなのですが、とにかく下記をご参照下さい。
http://www.jca.apc.org/mihama/fukushima/mhlw_kosho110328.htm
 

  午後に、伊方原発の証人でもあった槌田先生と桃山御陵あたりで話をしました。元々金属の専門家で、スリーマイル島の事故のころには、よく論評されていて、最近は「脱原発・共生」というテーマを追求されています。ご専門の金属の特性を詳しく解説していただきました。冷却システムがうまくいかなくなると、炉心の水の流れが滞り水の気泡ができるそうで、気泡により水の流れが悪くなり、水蒸気がさらにたまりやすくなり、チタンの仲間であるジルコニウムを使った管は、高温の水蒸気に弱く、爆発的な反応をまねくそうです。こういう状態だと、どんどん壊れていくそうで、管がもたなくなってくると、炉心の燃料はおのおの積み上げているようなものらしいので、それが形体を維持するのが本当に難しくなる。そうすれば、さらに炉心はどんどん崩れ、圧力容器の底に落ち込む状態だろうということです。原子炉は運転停止後もだいたい二十万キロワットレベルの発熱があり、原子炉の火という尋常なレベルでないということです。チェルノブイリと比べた場合に、原子炉が稼働していたものが少なくとも三基あり、核燃料の総量は恐らく一桁違うくらい、ものすごく多いこと。このため、ここからさらにもれ続けた場合の被害想定は、幸運にも大きな爆発が起こらない場合でも、水や食物、空間に出ている放射性物質は現時点ですさまじい量になっているし、これからも当面ずっと出続けるということです。

 また、槌田先生は「覚悟」を話される方で、若い女性と子どもには、どうしたらできるだけ、安全な水と食料を優先できるのかということを話した上で、自分たち年寄りは高濃度におかされた野菜も「食べる覚悟」が必要な状況になるとお話しになります。その上で、「放射能の恐ろしさは結果の恐ろしさであって、自らの利己心を反省することが重要だよ、木下君」と諭されました。「君の中にも、こうした原子力のみならず、科学がもたらした日本の甘い状況を甘受していたところがあるはずで、それに対して真摯に反省しなければならないのではないのかね。それはこれまでのジャーナリストの活動としてもね」ときつく戒められました。「特に君の反省の声を皆さんに届けることが必要だし、その上で、君は未来社会の展望を語らなければならない。年寄りでなく、それが君の務めだ」とも。

 1978年の伊方原発の裁判で、大変悔しい思いをされた槌田先生は、松山からの船の中で、科学者(金属物理学)という自分の存在を変える決意をし、京都大学をやめる覚悟もしたことを語ってくださいました。実際、その翌年に京都大学助教授の地位を投げ捨てられています。

 僕は、先生の覚悟をもった人生に、自分が追いつけるのかどうか、全く分かりませんし、先生が求められた課題を乗り越える力量が、僕という人間の度量にあるのかも微妙かもしれません。しかし、自分も人生の大きな転換点にいるなかで(この震災の後、日本国民は多かれ少なかれ同じと思いますが)、何かシンクロするような話をいただいたことに不思議な思いを感じています。


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7 コメント

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Unknown (j)
2011-04-01 09:33:40
本日までの政府・東電の、福島第一原発大惨事への対応を見ていて、日本では個人の生活の拠り所となる国という枠組みが壊れてしまったんだと思いました。
個人レベルでは木下さんが取材されているような、日本という国に対する深い愛情と高い倫理感をお持ちの方々が居る一方で、そのような国民に甘え、国という枠組みの保守・運用を怠ってきた政府や、社会インフラ事業者の姿が見えます。
今回の惨事をきっかけに、国民を巻き込んだ日本という国の理想像を考える議論がおき、理想と現実のギャップを正しく評価し、理想像を追及する能力があるリーダーが選出され、惨事からの復興が日本が生まれ変わるプロセスになることを切望します。
Unknown (kazu)
2011-04-02 05:50:06
おっしゃることは全く同感なのだが、敵前逃亡したあなたがおっしゃっても、言葉は悪いが目糞鼻糞のような気がします。
放射能には勝てません。 (木下黄太)
2011-04-02 10:36:54
人間が相手の取材なら、方法論はありますが、
放射能には勝てません。僕は勝てない戦いを挑むドンキホーテではありません。敵前とおっしゃいますが、政府などではなくて、放射能相手にジャーナリズムがペンで勝つ方法は本質的に何もありません。
 さらに、退いたおかげで、言論の自由が、僕個人のハンドリングにようやくある状態です。
勿論、退くことにより、社会的に膨大なリスクが、予想通り僕には生じています(リスクなしでやるためには、組織でごまかして、自分だけ、こっそりおきた瞬間に逃げることもやろうと思えばできました。そんなことは意味が無いと思いますし、社会への裏切り行為と考えます)。僕の言うことに同感なら少しは自分の頭で考えてください。危険を伝えている中身に同感するのなら、危険を認識する人間が事前に取る行動は極めてシンプルです。僕はそうしているだけです。また、周囲の関係者にこの状況を言う事も許されない中で、自分が何をしていて、どう考えるのかを示すことしか自分にはありません。「退いた」ことは自分の姿勢の顕われですし、このブログが何かを伝えているものです。「退く」ことにも勇気があることもお分かりいただけないのは、良くも悪くも「日本人」としか言いようがありません。
槌田先生、御元気なのですね (まっく)
2011-04-02 14:37:36
初めまして。
twitter経由で参上しました。
槌田先生、今も変わらず御元気なのですね。
槌田先生の「資源物理学入門」は、四半世紀に渡って、今なお、私に見方・考え方を示し続けて下さってます。
それにしても、ただでさえ慣れた土地を離れる事を厭う方々も多い中、避難については頭が痛いです。
SvもBqも大事ですが、Ci/kmの見込みデータがないので、今後を心配するのみとなっています。
Unknown (坂元大介)
2011-04-05 03:28:21
木下さんは放射線が怖くて職場を放棄して東京を逃げ出したという噂を聞きましたが、それは本当ですか?

もし間違いだったら申し訳ないので、ここで明確に否定して頂けると嬉しいのですが。
坂元さんへ (木下黄太)
2011-04-05 03:37:39
「僕個人のことは本題ではありませんので。」という記事をご覧下さい。
了解しました (坂元大介)
2011-04-07 11:33:47
>「僕個人のことは本題ではありませんので。」という記事をご覧下さい。

とのこと、了解しました。

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