「木下黄太のブログ」 ジャーナリストで著述家、木下黄太のブログ。

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原子炉の状態から、今後のシナリオ想定をする

2011-03-30 02:04:32 | 福島第一原発と放射能

 木下黄太です。個人のジャーナリストとして書いています。ジャーナリストは何をすべきなのかを、最近、良く考えることがあります。もちろん、いろんな答えがあるのですが、よく思うのは大政翼賛会的な戦前に近い感じの報道状況になった場合、そこに反旗を翻せるかどうかは、本質的な意味でのジャーナリストであるかどうかということのメルクマールと僕は考えています。しかも、戦前と同じく、多くの人々に影響がある状況であればあるほど、本質的に自分が取材分析し、できるかぎり皆さんの役に立ち、正しいと思う中身をきちんと伝えられるかどうかが、ジャーナリストの仕事と思います。今回の場合は、政府や東京電力の言うがままに、「思考停止」に伝える事ではなく、自分の頭で考えて、いろんな情報を精査し、やるべきことをやるのみだと考えています。そういう観点で、お前の取材や言説が、ジャーナリストと名乗るレベルに届いていないという批判は、甘んじて受けますが、それ以外の理由で、僕がジャーナリストを名乗るなという単純な脅しには、屈するつもりは全くありません。大政翼賛会にはジャーナリストはいなかったのです。戦前のジャーナリストは、ジャーナリストであり続けるためには、国家から殺害される可能性も含めた覚悟が必要でした。21世紀の日本ではそこまでの事はありません。仮に私益がほとんど失われる事があっても、公益が少しでも多く達成されるなら、やはりジャーナリストの本来あるべき仕事をし続けるのが、肝要と僕は思います。僕の友人、長井健司は命を懸けても、ミャンマー大衆の置かれている悲惨な状況を伝えました。それに比べれば、僕はまだまだだなあと思います。

  すいません、前置きが長くなりました。現在の状況で最も気になるのは、一号機の原子炉の表面温度が、一時、設計温度を超える329.3度まで上昇しました。その後、水を入れて下がり始めたようですが、高度な放射能におかされた水が大量にたまっていることもあり、やれることは大変に難しくなっています。原子炉の内部は、活発に続いていて、大変危険な状態が継続しているということです。この状態の中で、冷やし続けることしかありませんが、これだけ大量の水でも、冷やし続けることは難しいです。ちゃんとした循環器的なシステムが修復されないと根幹的な対策はありません。一号機も大量の高濃度の水をどうしようもなく、注水の量を抑えた結果が今回の状況です。方法はあまりありません。

 僕はきのう午後、大阪の泉南エリアにある、京都大学の原子炉研究所に行ってきました。今、原子炉が、原子力発電所関係でなくて、大学などにあるものは極めて少なく、この京都大学の原子炉が例外的なものです。ここに、助教の小出裕章氏がいます。原子力施設の工学的な安全性の解析がご専門です。原子炉を直接扱っている経験がある中で、原子力発電所というものについて、一貫して反対のスタンスを取り続けた、極めて珍しい立場の専門家です。現実に考えてみてください。自分自身が原子炉を専門にしているのに、それを用いた原子力発電を反対する立ち位置は、なかなかできるものではありません。しかし、小出先生は、ある意味反対するという立場が強い感じで出ている政治的な色彩の人ではなく、冷静な知識人というべき感じの方で、僕はヨーロッパ的な感覚の人だなあと思いました。四六時中、先生宛に、電話は掛かってきていましたが、足をのばした利点もあり、いろんな観点から今回の福島第一原発について、伺えました。小出先生自身、一号機から三号機まで運転は安全にとまったものの、原子炉の中での破壊はじわじわと続いている状態だと考えています。ジルコニューム菅は発熱反応で確実に破損→ヨウ素やセシウムの放出は続き→すでに多鄭変なことのだという感覚です。小出先生が都内で15日の昼ごろに取った空気中のサンプリングでは、ヨウ素が一時間に2マイクロシーベルトくらい内部被曝する量があったと話されました。モニタリングポストの値よりも、空気中などから摂る放射性物質を勘案すると、モニタリングポストの数値よりも数倍から十倍くらいの放射能に侵される可能性もあるとのこと。内部被曝が一番の問題で、まずモニタリングポストで必ず毎時何マイクロシーベルトになると、積算線量でどうなるのかということを考えながら、空気中の物質などによる内部被曝をさらに勘案してどう推し量るかがポイントのようです。ただ、小出先生は、避難の目安をどうするのかは、その人個人の生き方や人生観があるので、実は政治的判断以外に決めづらいかもと話しています。明らかに一定レベルを超えている地域は、30キロ圏の外でも避難させるべきなのと、特に自己判断が難しい、子どもが最も影響が大きいこともあるので、それでも子どもや妊婦だけでも避難させることはできないのだろうかと話していらっしゃいました。

 ところで、小出先生の内部被曝に関しての今回の説明をうかがったこともあり、吉岡先生の指摘もあったので、私自身が周辺関係者(子どもや妊婦、妊娠可能年齢の女性)に言っている避難目安の数値を僕の中で、変更しました。もろろん、僕が個人的な関係性のある方に言うことですので、全ての皆さんにあてはまるとは限りませんが。吉岡先生にならっています。

毎時2マイクロシーベルトで出来れば避難。毎時10マイクロシーベルトで避難。毎時20マイクロシーベルトで緊急避難。

 小出先生が考える今後のシナリオですが、まず炉心の大崩壊を何らかの方で食い止めることに成功した場合、格納容器も圧力容器も部分的に壊れている状況で、今のままのような状態で放射能の放出が続き、これに濃淡はそのときそのときの流れでありますが、おおきなクラッシュにはならないということです。しかしながら周辺領域も含めて、多大な放射能被害は一定程度継続されるということです。これが、ミドルリスクレベル。運がいいほうです。

 それでは、最悪想定はどのような場合でしょうか。最悪想定は、炉心の大崩壊が食い止められないということです。勿論、再臨界がおきないと主張される人々の感覚が理解できないというご様子でした。大崩壊すると当然水蒸気爆発の状況になりますから、大量の放射能が空気中に出ることになります。それだけの、爆発が起きますと周囲は線量が高すぎて、完全に作業停止となり、他の号機も時間差で次々と大崩壊→爆発のプロセスを歩むのではないのかということです。福島第一原発の核燃料はどんなに少なく見積もってもチェルノブイリの四倍程度はありますから、事態は最悪です。やはり、被害程度がどう変わるのかは、風向きと風の高度しかなく、運を天に任せるしかないという感覚です。

 さらに、現場作業員がぎりぎりの努力を続けていることに期待している立場ながらも、具体的に兵站が尽きる可能性も指摘されていて、この点からも最終的には神のみぞ知る状況とも。(僕の友人のメーカー技術者で福島第一原発関係者の懸念も同じ)

とにかく炉心の大崩壊がおこると、水蒸気の大爆発(前回以上)が必ず見られるから、これが来れば本当の危機で、風向きで風下から逃げたり、数時間は到達にかかる場所では、大掛かりな移動も検討するべきとの事。また、周辺のモニタリングポストの反応にも要注意で、特に子ども妊婦には警戒してほしいとも。

また、今飛んでいる物質でなく、バリウム、ランタンやセリウムが大量に飛んで出てくると危ないので、これらにも注意されたしと。

また、僕が当局情報として書いた、「ドライベント」は、小出先生自身「もう漏れまくりだから、格納容器の気圧は低いから、僕は必要ないと思うが」という見解でした。いずれにしても、ここまで長引く話になるとは思えなかったのが、行き着くところまで来つつある途中なのだよと僕に冷静に話されます。結局冷やしきるまで長ければ数年、早くても一年はかかるという小出先生。鉛とコンクリートや石棺作戦は燃料を冷やせないと意味が無いとも。

 原子炉の中を見られない以上、どうしても推測は多くはなりますが、小出先生の説明は、原子炉というものを知り尽くしている方からのぎりぎりの言葉でした。推進サイドの専門家から聞こえてきていません。

「危険な状態はまるでかわっていないし、本当に大量の放射能が出続けているが、現場が何とかやってくれることを願うしかないんだよ。破局は避けたい」と話す小出先生。原子力に反対している専門家が東京電力や政府批判を言い出さずに、冷静に事態の推移を見守る文言を言い続けられる姿勢は、ある意味すさまじいものがあります。もちろん、政府は今日まで小出先生には何も聞いてきていません。こういう場合こそ、ある意味国とスタンスの違う専門家にも助言を求めるものでしょうが、当然のように、何もないとの事。本質的なリスクコントロールの概念を理解しないのが日本にあるほぼ全ての組織であることを考えてみた場合、予想される結果ではありますが、「それでは、一体、あなたたちは何が大切で生きているのか?」と問いただしたくなります。破局を免れるためには、敵味方ではなく、本質的に役立つ知見を総動員するのが、僕は兵法の要と思います。そういう観点から考えた場合には、この国の政府も、東京電力も、どのような組織や会社も機能不全であるのが、今回の恐るべき事態の本当の本質であるかもとさえ、僕は思います。災厄はどこかから忍び寄るものにも見えますが、実は集合体や一人一人の心の持ち方が、その災いを余計に招くのではないのかという気さえ僕はしています。

 

「追記」

田坂広志氏が内閣官房参与になったそうです。サンマーク出版などから出ている彼の著作物を店頭で確認すれば、どのようなタイプの方かよくわかります。また、僕が長年取材していたオウム事件で、オウムサイドとの具体的な関係もあり、オウムの裏バイブルの著者でもある中沢新一氏を絶賛され、中沢氏と共著も出されている方です。このギリギリの状況のときに、菅直人という人間が、内閣官房参与に追加するのが、このような人物であることは、今の菅直人の精神状態を正確に推し量るメルクマールと思います。危機がどうであるのかを考える際に、政府トップの精神状況も大きなファクターの一つですから。

 

 

 

 


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4 コメント

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戦前そのもの (あさたかし)
2011-03-31 00:26:43
私もメディアで働く者ですが、今、私たちは、戦中のメディアと同じ状況です。

誰も当局発表を検証していないし、それに反する情報はあえて伏せています。

大本営発表をオウム返しに報道し、「冷静にー」と繰り返す専門家、記者、アナウンサーは、戦犯になる可能性がある。

皆、自覚しているんでしょうか?
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データで話された場合はデータで完結される方がいいかと (mitu3232)
2011-04-03 13:45:55
拝見しました。私は社会人三年目の技術者です。一次ソースに近い方からの記事ありがとうございます。大変興味深い記事でした。核燃料の溶解が始まっている以上、濃度が高まれば再臨界が起こるのは当然です。それを可能性がないと言うのは、技術者の発言ではなくて、政治家の発言です。

さて、避難の目安となる線量についてですが、2マイクロシーベルトと、10マイクロシーベルトが閾値となっていました。この閾値の根拠には、さらにバックグラウンドのデータが存在するはずです。例えば、年間1ミリシーベルトの被曝を超えないような線量に設定されているなどです。
恐縮ですが、先生が避難をするかしないかは、個々人の価値観、状況による、と仰っているように、このバックグラウンドのデータの記述がありませんと、客観的な判断基準とならず、この避難基準自体が観念的な内容となってしまいます。
ですから、この記事を確かな拠り所とするためにも、バックグラウンドのデータの追記を願います。
唐突で恐縮ですが、よろしくお願い致します。
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mitu3232さんへ (木下黄太)
2011-04-03 16:42:23
http://blog.goo.ne.jp/nagaikenji20070927/e/0930bea94c7553b8ef5686e580fa0b88の記事で書いた想定で毎時2マイクロシーベルトで、一ヶ月で内部被曝と外部被曝の総量が2ミリシーベルトを超えます。三ヶ月で6ミリシーベルトを超えます。つまり、妊婦ではない、放射線従事者の妊娠可能女性の基準、三ヶ月5ミリシーベルトを超えます。この法定基準は僕は現在でも守るべきラインと認識していますので、ここが目安の判断となります。
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ありがとうございました (akipy3339)
2011-04-03 23:25:09
最悪の想定について、専門家のコメントをきけてよかったです。そのとおりだと思います。
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