読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

中嶋博行の『検察捜査』を読む

2018年08月06日 | 読書

◇『検察捜査』 著者: 中嶋博行   2015.8 講談社 刊(講談社文庫)

    

 作者中嶋博行は現役の弁護士。1994年この作品で第40回江戸川乱歩賞を受賞した。
20数年前の作品であるが、内容的には問題把握も状況展望も新鮮味を失っていない。
ジョン・グリシャムの作品に影響を受けて小説を書き始めたというが、法廷場面は最
終場面でちょっとしか出てこないので生粋のリーガルサスペンスとはいいにくい。む
しろのちに『新検察捜査』で再登場する女性検事岩崎紀美子の骨のある行動を重視す
るならば、サラ・バレッキーの作品に登場する女性私立探偵ウォショースキーやスー
・グラフトンのキンジー・ミルホーンなど、男性主体の世界で敢然と悪に立ち向かう
ヒーローが登場するハイブリッド・サスペンスと言ってよいかも知れない。

 法制審議会委員である東京弁護士会会長西垣文雄が自宅で惨殺された。これが発端。
 横浜地裁の岩崎検事が担当を命じられた。日本では刑事事件捜査は基本的に警察官
が行い、立件するか否かは検察官が決めるの
が標準手順である。ところが事案によっ
ては刑事訴訟法193条第3項の規定により直
接検事が捜査に当たることができる。こ
れを通常「検察捜査」という。
 
捜査時点から検事に指揮される県警は露骨にこれを嫌がる。


 日本の司法制度は法曹一元制で、司法試験という資格試験合格者は司法研修所等で
1年間の研修を受けて、それぞれ裁判官補、検事あるいは弁護士登録の道を選択する
ことになっている。弁護士については法的に日本弁護士会におけるギルド的な組織内
自治が認められている。
 ところが超難関と言われる司法試験合格者は修習後の職種選択では圧倒的に弁護士
が多く、裁判官補、検事への任官を選択する人は少ない。訴訟事案が激増する中で検
事、裁判官の慢性的な不足が恒常的な課題となっている。(平成29年司法修習生
1,530人のうち検事任官67名、10年前は113人いた)

 この作品は弁護士会内部における指導権争いに検事不足を抜本的に解消しするため
に法曹一元制を否定しようと狂奔する一部検事グループの暗躍を絡め、そこに検事任
官2年目という少壮の女性検事を配して、法曹界が抱える問題点を浮き彫りにしよう
とする意図が明確である。現役弁護士だけに問題点の指摘と業界内部の様子にリアリ
ティがある。

 西脇殺しで拷問と殺しを請け負った殺し屋は終段でも岩崎相手に登場するのである
がやや存在感に欠けるのが残念である。
 また岩崎検事は、任官2年目にして、職業上の上下関係にありながら3歳年上の検察
事務官と体の関係を結んでいるという危ういところがあって、あらあらと思うが、上
司に対して節を曲げないところが頼もしく、今後の活躍が期待できようというものだ。
『新検索捜査』を読むのが楽しみである。
                            (以上この項終わり)

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キャサリン・ライアン・ハワードの『遭難信号』

2018年08月04日 | 読書

◇『遭難信号』(原題:DISTRESS SIGNAL)

            著者:キャサリン・ライアン・ハワード(Catherine Ryan Howard)
      訳者:法村里絵  2018.6 東京創元社

  

 アイルランド生まれの女性作家のミステリー処女作。事件の舞台が地中海クルーズ
の豪華客船ということもあり、読み始めてしばらくの間はミステリアスな展開が予想
される出足で、興味津々で読み進んだが途中少しだれて、終段の犯人告白では完全に
白らけてしまった。結末はと言えば何とも急ぎ足の、ドラマチックな幕引きでこれま
た白けることとなった。謎解きとその伏線の配置を考えてか、もたつきはあるし い
くつかあまりにも都合がよすぎないかという点がいくつかある
が、豪華客船の構
造と
仕組みも謎解きの一環となっており
興味深い。


 10年もの長い間ハリウッドの脚本家を目指してきたアダム・ダンは、ようやく目が
出て脚本が売れた。
 そんなある朝、同棲中のサラ・オコンネルから1週間近く仕事でバルセロナでの会議
に出かけると告げられる。脚本のリライトという仕事があるアダムはサラを空港に送っ
て行く。そしてサラはバルセロナのホテルのついたというメールを最後に行方不明がわ
からなくなった。

 空港やホテル、銀行などを探し回ったが全く手掛かりがなく、ようやくサラの友人の
ローズを問い質して、サラが新しい恋人とバルセロナに出かけたことを知る。
 あんなに愛し合っていたサラが、アダムを捨ててほかの男と家出するとは。驚天動地
の思いのアダム。サラはようやくアダムに仕事が入ってきて自立できた。私がいなくて
もいいと言ったという。サラの両親と警察に駆け込んだが捜索にはあまり乗り気ではな
い。
 ようやくフェイスブックを通じてセレブレイト号というクルーズ船でサラらしい女性
に出会ったという女性からメッセージが届く。更にフェイスブックを手掛かりに知り合
ったピーター・ブレザーという男性から電話が入る。
彼の妻が全く同じようにあのクル
ーズ船で行方不明になっている。セレブレイト号に乗り込み一緒に事件解明に当たろう
というのだ。
 また通話記録から相手の男の電話番号が分かった。しかし男は…。

 この事件のポイントは、公海上の船舶という閉ざされた空間における犯罪の処理にあ
る。基本的に公海上の船舶で起きた事件は旗国(船籍国)に属するが、クルーズ船上の
犯罪で米国国民に係わる捜査権限はアメリカFBIに
属するという取り扱いにある。
 この作品はこれに触発されて書かれたという。
 それにしても犯人がこの客船内の犯罪実行者を摘発するためにはFBIによる捜査権発
動が必須と、アメリカ人の殺害を企てるという設定はあまりにも短絡的で頂けない。

 *地中海には公海は存在しないが実際上は基線から24カイリ(領海+接続水
域)の範囲は沿岸国の管轄権が認められているという。

 豪華客船での若い女性の失踪をめぐる探索劇がサイドストーリーを伴って展開される。
このサイドストーリーが本体の失踪事件とどこでどう交錯するのかなかなか見えてこな
い。ようやく終盤に至って見事接点が明らかになるのであるが、本体との係わりが分か
った途端に独自の物語の結末に向かって走り出すという変則2本立て映画のような構成
で驚く。

                             (以上この項終わり)

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モネの睡蓮の池のような風景を描く

2018年08月02日 | 水彩画

◇ 睡蓮のある池を描く

  
     clester F8

  草津の某ホテルの構内の一角にモネの睡蓮の池に酷似した池があります。ほとんど人が訪れることがなく、
 (紅葉の頃は知りません)ゆっくり絵を描けます。
  この池には、モネが自分の池に設けた太鼓橋そっくりの橋まで架けられています。
  あいにくと睡蓮の花はそれほど咲いていませんでした。
  しかし、森の静寂、夏の午後の物憂い空気、鳥の鳴き声、時折飛び交うトンボで揺らぐ空気、そんな雰
  囲気が感じられたら成功です。
                                     (以上この項終わり)

     
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