読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ジグムント・ミウォシェフスキの『もつれ』

2020年02月13日 | 読書

◇ もつれ 』(原題:ENTANGLEMFNT)
       著者: ジグムント・ミウォシェフスキ(Zygmunt Mifoszewski)
     訳者: 田口 俊樹     2018.12 小学館 刊(小学館文庫)

 

 ポーランドのワルシャワ市内の教会で右目に焼き串を突き刺された男の
死体が発見された。自殺か他殺か。事件はシャッキ検察官が担当する。
テオドル・シャッキシリーズ第一作目(第二作目は『怒り』)。作者は
「ポーランドのルメートル」と呼ばれるとか。

 容疑者は彼(テラク)とともにグループセラピーに参加していた男女4人
(ハンナ、バルバラ、カイム)とセラピストの精神科医ルツキ。
 自殺の線は早々に消えたものの、殺人の動機を探るため容疑者同士の接
点、交友関係など個人的背景を探っていくが混迷が広がるばかり、一向に
収束しない。
 まずセラピー参加者が他者の家族の代理を務めるファミリーコンステレ
ーションという心理療法が丁寧に説明される。この人間関係のもつれが事
件のカギとなる。
 殺人の被害者テラクは印刷会社の経営者であるが、彼の投資アドバイザ
ーであるイゴルという男と、イゴルに指示を与える「彼」とか「男」とし
か呼ばれないが登場する。いかにも怪しげな男らで重要な伏線のにおいが
する。

 日本の司法制度と異なり、検察官は警察とは独立的に実体捜査を行うし
起訴前の尋問も行う。驚いたことに起訴状の原案を新聞記者に見せたり、
捜査の方針を話したりする。
 シャッキの妻ヴェロニカは弁護士で仕事柄互いに時間的にすれ違いが多
く、夫婦関係はあまりうまくいっていない。娘のヘレナは7歳の幼稚園児。
 シャッキは年若い女性新聞記者モニカと知り合い、求めて親しい関係に
なる。火遊び?


ピエール・ルメートルの作品の主人公カミーユ警部と違って上背があって
若白髪が魅力的なイケメンの捜査官なのである。だが怒りに任せ妻と大喧
嘩したり、若いモニカの裸と同衾を妄想したりと、必ずしも仕事一辺倒で
謹厳実直な検察官というわけではないのである。

 シャッキは調べているうちに国内安全庁のウェンゼルに行き当たる。そ
してポーランド人民共和国成立の1989年より以前共産党支配の秘密警察の
亡霊を追うことになる。
 全体主義体制の下で、誰もが誰をも監視していた共産政府時代の秘密警
察の恐怖のD組織。陰謀団の中の陰謀団、汚れ仕事を扱っていた組織を受
け継ぐ影の組織が未だに温存されていた。
 シャッキは「手を引け」と元秘密警察の組織から脅迫を受ける。

 ともかく犯人は明らかになったのであるが、セラピー関係者の過去と複
雑な人間関係、更にはポーランドの歴史社会的痕跡が絡み合った事件で、
単純なサスペンスではない。

                       (以上この項終わり)

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