読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

貫井徳郎の『灰色の虹』

2023年03月05日 | 読書

◇ 『灰色の虹

     著者:貫井 徳郎  2010.10 新潮社 刊

  
       

       これは冤罪事件被告人の復讐連鎖劇の一部始終である。
       刑事事件が裁かれる時。
  容疑者、警察官(刑事)、検察官、弁護人、裁判官、拘置所の刑務官、刑務所の
 刑務官など多くの司法制度関係者が登場する。

 作者は冤罪事件によくあるあいまいな目撃証言と刑事の思い込み捜査を事例に、冤
 罪を背負った受刑者が刑を終えて出所後関係者を次々と殺害し復讐を遂げるケース
 を小説として描いた。

  状況的には過失致死の疑いがある事件の容疑者江木雅史を、所轄刑事が目撃証人
 を巧みに誘導し、なおかつ威迫を持って偽りの自白調書を作成、江木を殺人事件の
 犯人に仕立て上げ検察庁に送致した。
  検事も自白調書を鵜呑みにして告訴した。裁判でも裁判官は検察官の陳述、証人
 の証言を重視し有罪を判決した。官選弁護人は無罪の主張を信じず無気力な弁護に
 終始し有罪判決を招く。上訴でも控訴棄却。最高裁でも上告棄却の結果となり有罪
 が確定した。
  4年も拘置所生活が続いた。心の支えだった恋人も最後には去った。姉も縁を切
 った。母親だけが無実を信じ続けた。

  6年の刑期を終えて出所後も世間の目は冷たく、江木は生きる気力を失っていく。
 そしてこの事件に関わった刑事、検察官、裁判官、目撃証人など次々と殺されてい
 く。
   山名という所轄刑事は連続殺人事件被害者がある事件の司法関係者であることに
 気付き、残された関係者のうち嘘の目撃証言を行った男が次の標的だと信じて警護
 に当たるが…。
  ふとしたことから山名は意外な犯人像に思い当たる。

  世界有数の検挙率と立件有罪率にこだわる警察と検事らがいかに犯罪の真相を捻
 じ曲げ、無辜の市民を犯罪人に陥れ、多くの関係者の人生を狂わせているか。名う
 てのミステリー作家の力作である。

  最後に雅史の母親の叫びが胸を打つ。「警察も検察も裁判所も弁護士もマスコミ
 も近所の人も、みんな雅史がやったと決めつけて、あたしたちの言葉になんか耳を
 傾けてくれなかった。誰ひとりあたしたちの言うことを信じてくれなかった。・・
 ・今になってあたしたちを責めるくらいならどうしてあの時雅史を信じてくれなか
 ったんですか?ただ真面目に生きていただけの雅史の人生を、どうしてめちゃくち
 ゃにしたんですか、答えてくださいよ、刑事さん答えてください!」

                           (以上この項終わり)



  
  
 

  

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