読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

レイチェル・ホーキンスの『階上の妻』

2023年11月19日 | 読書

◇『階上の妻』(原題=The Wife Upstairs )

    著者:レイチェル・ホーキンス(Pachel Hawkins)

    訳者:竹内 要江     2021.8  早川書房 刊

     

 物語の舞台はアメリカ南部アラバマ州のソーンフィールド・エステイトという
高級住宅地。その一画の邸宅にエディ・ローチェスターとビーという新婚夫婦が
住んでいる。ある夜ビーは友人のブランチ・イングラムと湖にボートを出し、二
人は行方不明となった。
 ビーという妻はサザン・マナーズという室内装飾企業を興した経営者でハワイ
でエディと知り合い3か月で結婚した。ビーの総資産は2億ドルにのぼる。

 湖で遭難した二人の女性は溺死が推定されるものの行方が分からない。そのう
ちブランチの遺体が湖から発見された。死因は打撲によると見られ夫のトリップ
が逮捕された。ビーは依然行方不明である。

 独り身となったエディは20歳半ばのジェーンという女性と出会う。ジェーン
は高級住宅地でドッグ・ウォーカー(犬の散歩を請け負う)をしている。
 エディの妻ビーは容姿端麗なのに、ジェーンはちびで茶髪、やせっぽち。何故
エディが彼女に惹かれたのかしばらく不審感が消えないのだが、とにかく二人は
結婚するところまで発展する。
 孤児として育ち、いくつもの養親の下で苦労してきたジェーンは富裕層の一員
になれたということで舞い上がっている。

 第一部から第十三部まで、ジェーンとビー、エディが交互に状況を語る構成で
あるが、第二部ビーの段で世間では行方不明とされているビーのが、エディと館
の3階に作ったパニックルーム(火災などの際に避難する特別室)に監禁されて
いることが明らかになり俄然面白くなる。
 飲み物や食事エディが運んで来る。いわば軟禁である。

    ビーは密かに手記を綴る(しかし中身は創作に近かった)。そしていまだにエ
ディにぞっこんのふりを続け、昔の手管でエディをセックスに誘ったりする。
 しかし「ここから出してくれたら、何が起きたかは絶対に口外しない。二人で
なんとかしましょう」と言ったばかりにエディは再び貝になり背を向けて去って
しまう。(第六部ビーの段)。実はあろうことかエディはブランチと不倫してい
たのだ。

 そして第八部ビーの段。時々エディと二人はベッドで交わる。そしてビーはエ
ディの新しい彼女ジェーンのことを聞き出す。「ジェーンは地味で、単純な女だ」
とエディは言いきる。
 高校生以来仲の良い友達と思われているビーとブランチとの関係が微妙によじ
れかかっていることが語られる。それが事件の素地であることを予感させる。
  パニックルームに足しげく通っていたエディが顔を出さなくなった。なぜか。

 ジェーンは、妻の殺人容疑で逮捕されたが物証に乏しく家に帰されているトリ
ップから呼び出され「すぐにエディの家からが逃げろ」と促される。俺は犯人で
はない。妻とビーに湖岸の家に呼び出され、しこたま飲んで酔いつぶれて目が覚
めたら二人がいなかった。そこにエディが現れたという。エディが犯人と思った
ジェーンは家に帰りその証拠を探し回る。
 ジェーンはエディの背広からビーが書いた手記を見付け、中身を読んで愕然と
する。覚えていた暗証番号で3階のパニックルームを開け、初めてビーと対面す
る。

 家に帰ったエディはパニックルームを訪れてジェーンとビーが連れだって立っ
ている様子に衝撃を受けパニックになる。エディに裏切られたと思ったジェーン
は手元にあったガラス器をエディに投げつけ大怪我を負わせる。

 ボート事件の夜、エディは二人の女子会の行方が心配で湖畔の家に向かい、自
分がブランチと寝たことでビーが怒ってブランチを殺したことを知って狼狽する。
だが警察に知らせることなく「二人で何とかしよう」とパニックルームにビーを
軟禁したのだ。
 エディの望みはビーとジェーンと二人とも手に入れることだった。そしてブラ
ンチと不倫をするなど虫のいいクズ男だった。チャンスに強いと自負していたエ
ディは、そんなことをしても誰もが望みのものを手に入れる逃げ道があると思い
こんでいたのである(第十部エディの段)。

 ビーとジェーンはエディをパニックルーム内に拘束し、部屋を抜け出す。そし
て二人はワインを吞みながら事件を解剖する。ビーからブランチを殺害した背景
と状況の告白があって、ジェーンはビーが語る嘘の真実を元に事態の収取を話し
合う。
 ビーはジェーンが意外と賢く、自分に似ていること(嘘をつくことを含め)に
驚く。

 突如家に煙がたち込める。火元はエディを閉じ込めたパニックルームからであ
る。青くなったビーはエディを助けようと火炎の中に飛び込む。ジェーンは為す
すべもなく避難する。家は丸焼けになって遺体は見つからなかったという。二人
はどこかに消えたのか。

 そして最終章(第十三部ジェーンの段)。ある日ジェーンの元にエディの弁護
士から電話が入る。実はエディの遺書があって、エディの屋敷も会社も全財産を
ジェーンが相続することになっているという。みなしごジェーンは金持ちになっ
て自由を得た。

 幻想的とはいえないまでも、お屋敷、莫大な遺産、ロマンス、消えた遺体など
ゴシック小説の要素を十分に備えたサスペンスである。一気読みは請け合える。

                          (以上この項終わり)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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