◇ 『大統領特赦(上・下)』(原題:THE BROKER)
著者:ジョン・グリシャム(JOHN GRISHAM)
訳者: 白石 朗 2007.3 新潮社 刊 (新潮文庫)
アメリカ議会の名うてのロビイスト(フィクサー))ジョエル・バックマ
ン。莫大な額の不正取引疑惑で逮捕され司法取引の末容疑を認め刑務所に入っ
ていた。
刑期を6年ほど消化したある日、突然釈放された。格別の成果を上げること
もなくホワイトハウスを去る大統領アーサー・モーガンによる任期切れ直前大
統領特赦のおかげ。当然バックマンから莫大な買収金が払われたと取りざたさ
れた。しかし実は真の目的はバックマンをどこの国の誰がバックマンを殺すか
見定めるというCIAの企みだった。
ジョン・グリシャムといえば、押しも押されぬ法廷もの作者。リーガル・ス
リラーの第一人者である。そのJ・グルシャムの最新作が本書。珍しくも「逃亡
者」が巻き起こすサスペンス中心の作品である。
司法取引で刑務所に入っているとはいえ、バックマンは国家安全保障の観点
からいえば依然として爆弾的存在だった。偵察衛星、航法衛星、通信衛星など
あらゆる衛星を自在に操ることができる高機能運用システムを手に入れ、中国、
イスラエル、サウジアラビア、ロシアを相手に巧妙に立ち回り、高額な対価で
システムの管理ソフトを売り込んでいた。最も強い関心を示したのはサウジア
ラビアで、デモンストレーションを確認の上手付金1億ドルを払っっていた。
CIAはバックマンが特赦で釈放されたのちは、国外に出て二度と米国に戻ら
ないこと、新しい名前と身分の下、誰にも見付けられない地で暮らすという条
件を告げられた。内実は常にCIAに生殺与奪の鍵を握られているということで
ある。CIAはバックマンに手玉をとられた各国のどこかが彼の命を狙うと踏
んでいた。
バックマンの新しい名はマルコ・ラッツェーリ。当面CIAのルイージという
若い男が監視役として付いた。住まい食事、衣装など最低限必要なものを用
意してくれた。そして若い学生を付けてイタリア語を勉強させられることに
なった。落ち着き場所は作者もお気に入りのイタリアの中核都市ボローニャ。
いつ誰に襲われるか分からないバックマンは常に周囲に目を配り、挙動不
審な人物がいないか気を配った。二番目のイタリア語教師はフランチェスカ。
旅行ガイドが本職だが、冬場の手隙の期間マルコの教師を受け持った。
フランチェスカは脚をねん挫した事故をきっかけにマルコと真から打ち解け
マルコのおかれた状況を理解し支援を惜しまない関係になった。
上巻はほぼボローニャでの逃避行の描写に明け暮れる。ボローニャの旧跡
めぐりや料理の堪能、風光明媚な丘からの眺望など情景描写が見事。
マルコはいつ襲われるか分からないので、細い路地迄歩いて知り尽くした。
コーヒーが、ビールが好きなのでカフェやパブはほぼ総なめにした。
そして下巻はスリリングな展開へ。電話やスマホでの他者との連絡を禁止
されていたマルコはルイージの目を盗み、電子メールで息子のニールと連絡
を取ることに成功、フランチェスカの手を借りてパスポートを入手し、変装
を手伝ってもらいボローニャからの脱出に成功する。
ボローニヤからミラノ,ミラノからチューリッヒ、ニューヨークからワシ
ントンへと向かう。
チューリッヒのラインラント銀行の貸金庫に預けていた衛星システムのソ
フトウェアの入った4枚のディスクを取り出したマルコはディスクを手にア
メリカのニールと連絡を取り合いNYからアムトラックでワシントンに渡り
逆襲に着手する。相手はCIA。
世界の諜報活動に通じている元上院議員クレイバーンは国防総省国防情報
局ローランド少佐と取引することを勧めた。バックマンは身の安全保証と政
府がこの問題から一切手を引くことを要求し、問題のファイルを渡した。
旧知のワシントンポストの記者に連絡し、独占記事となるビッグニュース
を告げ安全ネットを敷いた。
今ではバックマンの楽しみは懐かしいボローニャでフランチェスカと語り
合うことだった。
(以上この項終わり)