◇『アンダー・ザ・ドーム』(1)(原題:UNDER THE DOME)
著者: スティーヴン・キング(Stephen King)
訳者: 白石 朗 2020.2 文芸春秋社 刊 (文春文庫)
モダンホラーの名手というか代表選手S・キングの長編作品。何しろ著者は1976年に書き始め
たものの、作中の「ドーム」登場で気象や生態系の影響という問題を処理するために何年も中断
し、2007年からまた腰を据えて執筆に掛かったという(この間キングには1999年に交通事故で
車椅子生活になる)。何しろ30年かけて書き上げた記念碑的作品である(著者あとがき)。
文庫本で4冊の長編だけに主な登場人物として巻頭で紹介されている人だけで56人もいる。
舞台はアメリカ北東部メイン州にあるチェスターズミルという田舎町に想定。住民が2千人程
度でほとんどが顔見知りの世界である。
キングは自伝的文章読本『書くことについて』の中で「私の場合、もっとも興味を惹かれる状
況は、たいてい”もし~としたら?”の仮定法で言い表すことができる。もし吸血鬼がニューイン
グランドの小さな町にやってきたとしたら?――『呪われた町』、もしネヴァダ州の田舎町の警
官がトチ狂って、次々に人を殺し始めたとしたら?――『デスペレーション』(以下略)と創作
方法を明かしているという。この作品もまさにその「もし~」の手法で編まれた作品のひとつで
ある。(本書吉野仁の解説から)
この町に突如として透明で強固な障壁(ドーム)ができるという驚天動地の出来事が起こる。
まず町政委員会の委員長アンディ・サンダースの妻クローデッドが訓練飛行中の飛行機がこ
のドームに衝突するところからこの町の大混乱が始まる。
この町を牛耳っているのは3人いる町政委員の一人ビッグ・ジム・レニー。このビッグジムは
委員長のアンディを立てながらも自分の思い通りにする。しかも裏で違法薬物の製造・販売を
行いつつ、今回の騒動を奇貨とし完全支配を企む悪玉である。
これに対抗する善玉の主役はデイル・バーバラ、通称バービーという退役軍人。レストランの
調理を担当していたが、ビッグジムの息子を筆頭にする悪ガキどもと諍いがあって街を出ようと
する途中でこの災難に遭遇した。
ドームの高さは1400m、地下30mにまで力が及んでいるらしい。空気と水はわずかに通して
いるらしい。ドームは透明・強固で鳥や車がぶつかって死ぬ。銃弾もミサイルも刃が立たない。
しかも町境界を正確になぞっていることが分かってきた。
ドームの発する異様な電波によって警察署長デュークは心臓のペースメーカーを破壊され亡
くなった。
バービーはワシントンにいる陸軍大佐コックスに懇願され秘密裏に情報入手に努めることに
なる。
そんな中オールデンの息子ローリーがドーム破壊を図った銃弾が跳ね返って片目を失う大怪
我を負い、バービーは医師の助手であるラスティ・エヴェレットと介抱に当たる。ラスティは
巡査リンダの夫である。
新たに署長となったピーター・ランドルフはビッグジムに言われて息子を初めとする悪ガキ
ども4人を特別警察官に任命していた。彼らはバービーに言いがかりをつけて公務執行妨害で
拘束しようとするが、地元の新聞編集発行人ジュリアに助けられる。
またコックス大佐からバービーに重要な指令が入る。先ずバービーは退役から現役軍務に復
帰し、大佐に昇格したというのである。
テロによる遮断操作を疑う大統領はチェスターズミルに戒厳令を発令し、その統制司令官に
バービーを当てたいというのである。
バービーはこんな小サイズの町ではレストランのコックが急に司令官として命令しても誰も
従わないと言って断る。
以上とんでもない原因不明の幽閉状態で町中が大混乱し、複雑な人間関係のなかで、多くの
人が怪我をしたり死んだりする。軍隊が出動するものの誰を相手に何をしてよいか暗中模索状態
にあるというパニックの初期状態が克明に綴られ次に続く。
(以上第1分冊終わり)