◇『雪の狼(上/下(SNOW WOLF))』 著者: グレン・ミード(Glenn Meade)
訳: 戸田 裕之
1997.10 二見文庫 刊
◇スターリン暗殺はあったのか
スターリンは史実としては1953年3月脳溢血で死亡したことになっている。血も涙もない偏執的
独裁者であったスターリンのこと、KGB(国家保安委員会)頭領ベリアによる毒殺説、自殺説、暗
殺説など諸説紛々。クレムリンの公式発表などだれも信用していないから「これぞ真相」と好き勝手
にぶち上げることが出来る。
本書は世界的指導者暗殺の企てを扱った数多くの名作の仲間入りをした。・・・これは知識豊かな
記憶に残る物語である。(Publishers Weekly)世界十数カ国で出版され映画化されたらしい(未
確認)。
史実を踏まえたスパイ活劇もので、ともかく読み出したら止められない。第二次世界大戦後の東
西冷戦下、水素爆弾開発の米ソの熾烈な競争が素地になって、水爆開発で一歩先を進んでいた
ソ連の指導者スターリンが世界戦を目論んでいる。偏執性精神分裂症のスターリンから世界・人類
に滅亡をもたらす危険を避けるにはスターリンの暗殺しかないと決断したアメリカの指導部は、希代
の暗殺者スランスキーに暗殺を命じる。作戦コードは「スノー・ウルフ」。
スランスキーはロシア人で両親をKGBに虐殺され、弟・妹も孤児院に拉致されるという過去を持ち
ソ連に対しゆるぎない怨念をもつ。作戦上夫婦を装ってロシアに潜入するアンナはやはり夫を銃殺さ
れ娘のサーシャを孤児院に拉致され、当人は収容所から逃亡しフィンランド経由米国に亡命するとい
う過酷な過去を持つ。
この二人はCIA活動者、友人・反ソグループ組織、モサド(イスラエル情報組織)などの助けを借り
つつ幾多の危機を乗り越えながらついにスターリンのダーチャ(別荘)に潜り込むことに成功する。
アメリカで暗殺請負人となったスランスキーの弟ルーキンはあろうことか孤児院でKGB幹部に教育
され今は少佐の地位にある。米国のスターリン暗殺の企てを察知したクレムリンはこのルーキンに
暗殺者スランスキーとアンナの捕獲を命じる。ルーキンはスターリン暗殺者が生き別れになった兄で
あるとは露知らず、必死になって潜入した二人を追うのだが…。
ボリシェヴィキとメンシェヴィキの争い、独裁者スターリンの対富農戦争、粛清、ナチを上回るユダヤ人
虐殺など、ごく大雑把な知識しかなかった戦後ソ連の実情が少し明らかになり興味深かった。
酷寒の地スターリングラード、モスクワを舞台にしたスパイ活劇。夏の読み物としては最適?
(以上この項終わり)