普段は仕事の後に図書館に寄るのですが、たまたま平日休みだったので昼過ぎに本を返しに行きました。すると、夕方と比較して、老人の姿がずいぶん目立ちます。皆さん、1冊とか2冊とかの本を大事そうにかかえて歩いておられました。「平日昼は老人アワーなのかな」なんて思ってから「傍から見たら自分もその一員ではないか!」と気づいておかしくなりました。自分の姿って、なかなかきちんと意識できないもののようです。
【ただいま読書中】『フィヨルドの死闘(海の異端児エバラードシリーズ(4))』アレグザンダー・フラートン 著、 高岬沙世 訳、 光人社、1987年、1300円
ユトランド沖海戦から24年、ニックはノルウェー沖で駆逐艦インテント号を指揮していました。目的は、ドイツのノルウェー侵攻の妨害です。おやおや、少壮気鋭の中尉だったニックが、今は海軍中佐サー・ニコラス・エバラード(准男爵、殊勲賞・殊勲十字章授賞)となっています。
このシリーズは第一次世界大戦で始まりました。するとその後の英国絡みの海戦は、第二次世界大戦まで待つ必要があります。で、この20年でニックは結婚し、息子ポールが生まれ、離婚をし(息子は母親が引き取っていき再婚しました)、退役をして准男爵を継ぎ、そしてまた海軍に復帰しています。さらにアメリカで育ったポールもまた英海軍に志願して入隊していました。あだ名は「ヤンキー」ですが、父親が准男爵ということで、立場は複雑です。しかも優秀な水夫で艦長から見たら幹部候補生に取り立てたい人材ですから、ますます水夫仲間の中での立場が複雑になってしまいます。
ニックはドイツの巡洋戦艦と交戦、大損害を受けてフィヨルドに艦を隠します。ドイツは本格的にノルウェー侵攻を開始。しかしノルウェー政府もイギリス政府もその情報を本気で受け取ろうとしません。「そんなことはあってはならない」から「そんなことはない」のだそうです。ニックの叔父ヒュー・エバラードは、退役はしていますがまだ戦略的な能力に衰えはなく、そんな政府の態度に歯がみをしています。それと同時に、消息を絶ったニックのことを非常に心配もしています。
イギリス艦隊はノルウェーに侵攻したドイツ艦隊に奇襲をかけました。その中にポールも混じっていましたが、彼の艦も撃沈されてしまいます。多くの乗組員は生き残りましたが、氷水の中で泳がなければならなくなりました。そしてその戦闘の噂を聞いたヒューもニックも、ポールの身の安全を祈ります。
こんな場合、ヒューの立場にはなりたくないものだと私は思います。ニックもポールも、生きるために自分がやるべきことがあります。しかしヒューは、恐怖と絶望を払いのけながら祈ることしかできないのです。
ドイツ艦船がウヨウヨしているフィヨルドで、命がけのかくれんぼと鬼ごっこが始まります。ニックはノルウェー海軍の変わり者の援軍を得ますが、燃料油が絶対的に不足しています。だったらドイツ軍から奪えばいいじゃないか、というニックの発想は恐ろしいものがあります。しかもその精密なプラン(3方面同時攻撃)を50分でひねり出してしまうんですよ。優秀な人間の頭の中はどうなっているんだ、と思ってしまいます。
しかしニックも人の子。ロンドンでヒューが抱いたのと同じ恐怖と絶望を、最後に感じることになってしまいます。
ということで、次巻に続く。