【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

危ない商売

2019-08-14 07:03:53 | Weblog

 封建的だった江戸幕府でさえ賭博は禁止していました。それなのに21世紀の日本政府はリクツをこねくり回して賭博を解禁しようとしています。江戸幕府より遅れた意識で、いいのかなあ?
 そんなにどうしても「危ない商売」で金を稼ぎたいのだったら、いっそ「赤線(公設売春組織)」の復活をしたらどうです? リクツをこねくり回したら(たとえば「性病の管理は明治時代よりははるかに科学的にできるようになった」とか)復活を正当化できるんじゃないです? 江戸幕府も吉原は公認していたから、その点では“幕府並み"になることはできます。
 ……しかし、「危ない商売」には「危ない(遠ざかるべき)」理由があるはずなんですけどね。

【ただいま読書中】『青線 ──売春の記憶を刻む旅』八木澤高明 著、 集英社(集英社文庫)、2018年、840円(税別)

 かつての日本では売春は合法で、警察が管理している地域を「赤線」と呼んでいました。それに対して、警察の管理を受けない非合法の売春地帯が「青線」です。お上の目を欺くために偽装をしますから、その実態はきちんと記録されていません。売春は現在は禁止され、赤線はもちろん消滅、青線も衰退していて、著者が訪問してもすでにその痕跡しかない、ということが多いそうです。だけど、売春が消滅したわけではありませんよね?
 本巻での著者の旅は新宿で始まります。戦後の混乱期も落ちついてきて闇市も廃止され始めた頃、新宿ゴールデン街に「青線」が自然発生的に始まりました。「警視庁史昭和中編(上)」には、青線は都内に数カ所で店は三千軒くらい、とあるそうです。江戸では公認の吉原と非公認の私娼多数が併存していましたが、こういったのは「日本の伝統」なのかな? 敗戦直後の8月17日に警視庁は米軍相手の売春施設RAAを作ろうと動き、マッカーサーが厚木飛行場に降りる前日には一号店小町園(大森海岸)が三十人の女性を揃えて待ちかまえていました。最終的には東京だけではなくて全国にRAAは作られ、それを見習って売春バーや私娼も全国に出現、しかし性病蔓延が問題となって翌年RAAはGHQの命令で解散、あとには非公認の施設と人が残りました。RAA設立で警察は業者に頭を下げて協力を仰いでいたので、強力な取り締まりはできなかったようです。RAAから追い出された女性たちも青線に流れ込んでいきます。
 米軍基地周辺も売春婦の稼ぎ場ですが、相模原では「スケベハウス」と呼ばれる特飲街が1953年にできました。こういった米兵相手の日本人娼婦による売春の歴史は、やがて外国人娼婦たちに引き継がれていきます。
 本書では「地域」が紹介されるだけではなくて、「小平義雄」「福田和子」「阿部定」といった個人名も登場します。犯罪者だったよな、とぼんやり思いますが、もちろん本書でそういった個人名が扱われるには、それぞれの事情があります。というか「青線」に集まる人たちには、それぞれの名前と人生があるのです。
 本書で扱われる「関東と関西の違い」もなかなか興味深いものです。売春禁止によって東京では公然とした売春は見えなくなりました。ソープランドも「浴室での自由恋愛」という扱いとなってます。それが大阪では、飛田新地や松島など江戸時代から続く色街が今でも公然と売春を続けています。差別も禁止されていますが、西ではけっこう公然と差別は残っていて、では関東や東北ではは存在しないのかといえば(実際に「東日本にはは存在しないから差別も存在しない」と主張する人がいます)、実は非常に見えにくい形でが存在しています(本書には横浜や福島の実例が挙げられています)。
 「身分制度」「差別」「貧困」「軍隊」そして「売春」は、ついたり離れたりの関係で少なくとも室町時代からずっと日本に存在し続けていたようです。現在その「関係」は見えにくくなりましたが、「見えにくい」と「存在しない」はまた別の問題。日本社会が劇的に変化しない限り、これからも見えにくい形のままで存在し続けているのではないか、と私は予想します。すると著者の「旅」には終わりがないことになりそうです。