【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

正論

2023-01-05 07:02:58 | Weblog

 「腹が立つくらいの正論」というものがありますが、聞いた人が腹を立てた時点ですでにその「正しさ」が他人に及ぼす効果は失われています。

【ただいま読書中】『土偶を読む』竹倉史人 著、 晶文社、2021年、1700円(税別)

 「土偶」は「妊娠した女性」とか「デフォルメされた人体」とか「宇宙人」なんてことも言われています。しかし「本当に女性なのか? そもそもあれは人体か? デフォルメと言うが、本当か?」という疑問を持った著者は人類学の立場から土偶を“読む"ことにします。土偶のレプリカを常に手もとに置き、縄文人と同じような生活をすることで、縄文人が何を思ってあのような造形を生んだのかを知ろうというのです。
 そこから浮かんだのは、驚愕の解釈。
 土偶は「縄文人が大切にしていた食材(主に植物、一部貝類)を精霊として表現した写実的なフィギュア」だというのです。
 単に「土偶と特定の食材の形が似ている」だけだったらそれは「偶然の一致」かもしれません。著者はそこから、土偶とその食材の分布状況が一致するかを調べ、さらに統計学的手法も使います。言っていることは荒唐無稽に感じられますが、その手法は堅実で学術的です。
 一部の「専門家」が、印象論だけで根拠なしに著者の主張を完全否定するのとはずいぶん違った態度です。というか、「土偶の専門家」なんていないんですけどね。いるのだったら「土偶って、結局何なんですか?」という疑問にきちんと素人でもわかるように説明をして欲しい。それもエビデンス付きでね。
 「ハート形土偶のオニグルミ」「中空土偶とシバグリ」「みみずく土偶とイタボガキ」「縄文のビーナスとトチノミ」など、写真を見るだけで私はある程度納得してしまいました。文章を読んでさらに納得度は深まりました。もし私が縄文人で、「豊穣な自然に感謝する祭り」で祭壇にこういった土偶が飾ってあったら、自然に拝んでしまうでしょう。
 そういえば、最近の私は「暑い」とか「大雨が怖い」とか、自然に対して文句ばかり言っています。自然への感謝の念をいつの間にか忘れてしまっていたんですね。

 



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