【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

台風への備え

2022-09-02 14:02:15 | Weblog

 まずするべきは、何でしょう? 「緊張感を持って注視する」でとりあえず足りるかな? 日本の政治家は「それで充分」とふだんから主張していますよね。

【ただいま読書中】『NSA(上)』アンドレアス・エシュバッハ 著、 赤坂桃子 訳、 早川書房(ハヤカワ文庫SF2352)、2022年、1240円(税別)

 蒸気機関に駆動された産業革命の時代、イギリスではバベッジ卿(とエイダ)によって「解析機関」が製作されました。この解析機関が発展して電子化されていたら歴史はどうなっていたか、という歴史改変もののSFです。本書ではさらにもう一捻りが加えられていて、第一次世界大戦後に携帯電話とワールドネット(現在のインターネットのようなもの)も発明されていて、ちょうど現在の世界(スマホとネットの世界)とほぼ同じ状況になっているところに、ヒトラーが登場した、となっています。すると何が起きるでしょう? ヒトラーはまず「現金廃止」を行います。ユダヤ人(だけではなくてドイツ人全員)の金の流れが追跡できるようにし、電話とネットで全国民の監視を可能にしました。情報管理の担当部局は、ワイマール時代に作られたNSAという組織です。
 ここで私は笑ってしまいます。だって「NSA」はアメリカに実在の組織(アメリカ国家安全保障局)で、実際に情報を監視していますから。つまりこの本は、「異世界(歴史改変)」それも第二次世界大戦下のドイツを舞台としていますが、実は「21世紀の(インターネットとスマホが普及した)社会」も重ね合わされているのです。
 20世紀前半のドイツは(というか、世界のほとんどは)男尊女卑の社会でした。「コンピューターのプログラミング」は「女性の仕事」とされ、教科書はプログラミングを編み物や料理にたとえるところから始められます。「女性のための本」なのです。
 さて、NSAに勤務するプログラマーのヘレーネは、運命によって脱走兵を匿うことになり、二人は恋に落ちてしまいます。二人とも国家反逆罪ものです。また、NSAで“男の仕事"であるデータ分析をおこなうレトケは、少年時代に3人の少年と4人の少女にものすごい屈辱を受け、その復讐のためにNSAのデータを私的に活用していました。これまたばれるとあっさり死刑です。そして、ひょんなことでヘレーネとレトケは、お互いがどんな秘密を抱いているのか知らないまま、“協力"をするようになっていきます。まるで薄氷の上でのアイスダンスです。
 「見張りを見張るのは、誰?」という有名な言葉がありますが、情報を管理する人間を見張るのは、誰なんでしょう? 悪意を持った人がその組織を牛耳っていないという保証は、ありましたっけ?

 



コメントを投稿