「物質転送」のアイデアとして、「分子や原子に分解して送る」という「ものを送る」ものと、「どのようなものから構成されているかの情報を送って行き先でその情報を元に組み立てる」ものとがあります。ところで「情報」は簡単にコピーが可能です。するとこのアイデアはそのまま「物質複製」としてもつかえることになります。3Dプリンターで同じものをいくつも作るのと似ています。
同じことを考える人は多いようで、今日の漫画もそのアイデアから始まります。
【ただいま読書中】『見かけの二重星』つばな 作、講談社、2011年、590円(税別)
ごく普通の女子高生の綾子さんが、「天才さん」に「転送」実験のはずだったのに失敗から身体を「複製」されてしまうことから話は始まります。ところが3Dプリンターとは違って、複製のための材料はどこにも用意されていません(そもそも「転送」実験だったのですから)。では「複製された綾子さん」は一体、どこからやってきた何者?
これはやろうと思えば、ワイドスクリーン・バロックの大長編にもっていくことも可能なアイデアですが、本書はコミカルな青春ものです。無理ありありなんですが、そもそも物質複製が「無理なアイデア」なわけで、その上で語られる綾子さんの過去や未来はなんというか、読んでいて気持ちがほっこりするものでした。思わぬことに対する綾子さんの反応など細かいところが妙にリアルなのも笑いのツボを押してくれます。でもしんみりするところもしっかりある。楽しい漫画です。