【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

○○焼き

2019-08-09 06:40:09 | Weblog

 イカ焼きは見ただけでイカだとわかりますが、たこ焼きでは中に入っているのがタコだとはすぐにはわかりません(時に、タコが入っていない場合もあります。私はお祭りの屋台で悲しい思いをした経験があります)。
 ところで、タコの形をしたたこ焼きを作ったら、イカ焼きに対抗できるのではないでしょうか。対抗する必要があるわけではありませんが。
 しかし、たい焼きに至ってはどこにも鯛は入っていませんよね。鯛の形だとは言うけれど、あれ、本当にリアルな鯛の姿に見えます?

【ただいま読書中】『イカ4億年の生存戦略』ダナ・スターフ 著、 和仁良二 監修、エクスナレッジ、2018年、1800円(税別)

 恐竜が地上を席巻するより遙か昔から、海は頭足類が支配していました。頭足類とはイカやタコが含まれるグループですが、「頭から直接足がはえている」ことを意味するネーミングです。その先祖は巻き貝のような形でしたが、殻の中に空気を貯めて水中にぷかぷか浮かぶことができました(海底の捕食者から逃げることが可能になりました)。ここから、オウムガイ類・鞘型類・アンモナイト類が生まれます。古生代(5億4100万年〜2億5200万年前)に魚類が進化すると、それに合わせてこの3つもそれぞれ進化します。
 カンブリア紀の“爆発"によって海は生命で満たされましたが、その中にはアノマロカリスのような強力な捕食者もいました。そこで頭足類は「ジェット推進」を手に入れます。「息」をぷっと吐くことで体を移動させる手段です。種は多様化、体も大型化させ(アノマロカリスは2メートルくらいですが、エンドセラス・ギガンテウムという頭足類は体長3.5メートルにもなりました)、とうとう「捕食者ナンバーワン」の座をアノマロカリスから奪ってしまいました。しかし魚類、特に顎を持つ魚類が登場すると、頭足類は「食う側」だけではなくて「食われる側」の立場も経験することになります。そこで頭足類も顎(くちばし)を発達させて対抗することにしました(順番は実際には逆だったかもしれませんが、ともかく共進化です)。
 陸地で植物が繁茂、落葉などで栄養が海に流れ込みプランクトンが大発生するようになります。それまでの「餌が乏しい」環境が質的変化をしたわけで、頭足類(特にアンモナイト類)はそれまでの「大きめの卵を少数産む」から「小さい卵をたくさん産む」に生存戦略を変更します。餌が多い環境ではその方が生き残る子孫の数を増やせそうですから。
 ペルム紀末、シベリアで(10万年も続く)大噴火があり、それが結果として「大絶滅」を引き起こします。地球の生命の歴史で「大絶滅」は何回かありますが、著者が本当に興味を持っているのは「そこから生物がどのように立ちなおったのか」のようです。ともかく、大噴火で大地は大量の二酸化炭素を吐きだし、地球は温暖化、それが水に溶けて酸素は減りpHが下がります。そのせいかどうか、海に棲息するあらゆる種の96%が絶滅しました。
 ではここから生命はどう立ちなおるのか?
 ペルム紀末、地球の大陸はすべて一箇所に集まっていました。超大陸パンゲアです。しかしそれが少しずつ分かれていきます。三畳紀にまずテチス海が生まれ、次いでジュラ紀の始めに大西洋が生まれます。テチス海はやがて縮小し現在の地中海になります。こういった海洋の多様化が、生命の多様化を促進したのかもしれませんが「三畳紀爆発」が起きます。これは「カンブリア爆発」に匹敵する規模で、起きた場所がほとんど海、という点も共通でした。しかし、三畳紀の海は過酷な環境だったようで、この時代に頭足類は2回の大きな絶滅と2回の小規模な絶滅に見舞われています。それをやっと生き延びた頭足類は、こんどは魚類だけではなくて、地上から海に戻ってきた陸棲爬虫類(イクチオサウルス(魚竜)、プレシオサウルス、モササウルス)からも逃げる算段をしなければならなくなりました(この海に戻ってきた陸棲爬虫類は、おそらく恐竜との戦いから逃げてきたのでしょう)。食われる側は、生き延びるために殻を厚くし棘を生やします。そして鞘型類は「殻を体内に入れる」というとんでもない選択をしました。柔らかい体を保護してくれる鎧を捨ててその代わりにスピードを手に入れるのです(現在、タコはくちばし、イカは軟甲にその「殻」の名残を残しています)。中生代には鞘型類から、イカの祖先とタコの祖先が枝分かれしますが、どちらも初期にはしっかり体内の「殻」を持っていました。そして少しずつ殻は小さくなっていきます。新たな防御手段は「墨」でした。(余談ですが、頭足類の化石からメラニン色素があまりにしっかり見つかることにヒントを得たジェイコブ・ヴィンザーは他の化石(たとえば恐竜の羽根)にも色素が残っていないか、と調べることで「恐竜には派手な色がついていた」という証拠を発見しました)
 白亜紀末の大量絶滅は、まず「大量絶滅があった」と認めることから話が始まりました。それまで学者たちは「恐竜から哺乳類への交代は、ゆっくりと行われた」と考えていたのですが、“例の"アルバレズ父子が巨大隕石衝突による地球規模での絶滅説を唱え、積み重ねられた証拠が様々な抵抗を打ち破ってその説が定着します(この話だけで本が1冊必要ですね)。で、地上で(非鳥類型)恐竜が絶滅したのと同じ時期に海ではアンモナイト類も絶滅していました。「では、実際に何が起きたのか?」。どうやら、隕石衝突による環境激変にプラスして、続けて起きた火山の大噴火もまた地球環境に重大なインパクトを与えているようです。
 この大量絶滅を生き延びた頭足類は、住み処・行動などを変えて新しい環境(新しい気候、新しい天敵)に適応しました。クジラの祖先は最初は視覚に頼っていたと考えられますが、やがて反響定位(音で周囲の状況を詳しく把握する)という手段を手に入れます。それに対して「軟体によって音を反射しづらい」ステルス性能で抵抗したのがイカやタコでした。
 頭足類は優秀な捕食者であり、同時に多くの種の豊富な餌です。ところが人類が大量漁獲をすることで、海の生態バランスを崩している恐れがあります。もちろん崩していないかもしれませんが、それを言うためにはちゃんと知る必要があります。著者もそれを主張します。「海の中について、もっと知ろうよ」と。だけど、何かを強く断言するためには無知な方がやりやすいんですよねえ。