写真拡ドナルド・トランプ米大統領は23日、元選対本部長のポール・マナフォート受刑者(71)ら側近29人に恩赦や刑の減免を与えた。前日にはイラクで民間人十数人を殺害し有罪となった軍事請負業者にも恩赦を与え、国連などから批判されている。

トランプ氏はマナフォート受刑者(資金洗浄罪などで有罪)のほか、すでに禁錮刑の執行を免除した盟友ロジャー・ストーン元被告(68、連邦議会への偽証罪で有罪)、娘婿ジャレド・クシュナー氏の父親など26人に対して、恩赦を与えた。そのほか、3人について刑の執行を免除した。刑の執行免除は有罪判決の取り消しを意味しない。

マナフォート受刑者は2016年大統領選に対するロシア政府の介入疑惑をめぐる捜査を発端として、大統領選とは直接関係のないウクライナでの政治コンサルタント活動をめぐり、脱税や銀行詐欺などの罪状計8件について実刑判決を受けた。さらに、アメリカに対する共謀と司法妨害の共謀の罪2件について実刑判決を受け、科せられた刑期は通算7年半だった。

マナフォート受刑者は2019年3月に収監されたが、今年4月に新型コロナウイルス感染予防を理由に自宅で服役していた。今回の大統領恩赦によって、刑期7年半のほとんどが免除されることになった。

同受刑者はツイッターで大統領に感謝し、「家族と私は謹んで、あなたが授けてくださった大統領恩赦に感謝します。私たちがどれだけ感謝しているか、言葉では言い尽くせません」と書いた。

アメリカでは服役を終えた元受刑者でも参政権や、陪審員に選ばれるなどの公民権が停止される場合があるが、大統領恩赦にはこれを復活させる効力もある。

ただし、大統領の恩赦権限は連邦法に関する事案に限られる。

義兄に売春婦を送り込む

今回の恩赦対象に含まれたチャールズ・クシュナー元受刑者は、ジャレド・クシュナー大統領上級顧問の父親。脱税や選挙資金法違反、証人に不正な影響を与えた罪で2004年に有罪となり、2年間服役した。

証人に不正な影響を与えた罪は、当局の捜査に協力していた自分の義兄のもとに売春婦を送り込み、そのやりとりを録画して自分の姉に送りつけたことによるもの。

当時のニュージャージー州連邦検事としてクシュナー元受刑者を起訴し、実刑判決を勝ち取ったクリス・クリスティー前同州知事(共和党)は、自分が訴追した中でも「あれほどひどい、醜悪な犯罪はほかにあまりない」とCNNに話していた。クリスティー氏は長年、トランプ氏を支持してきた。

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トランプ氏は11月には、ロバート・ムラー特別検察官(当時)のロシア介入疑惑捜査で有罪となったマイケル・フリン元大統領顧問(国家安全保障問題担当)についても恩赦。フリン元被告は連邦捜査局(FBI)への偽証を認めていたものの、後にこれを撤回した。

恩赦後のフリン元被告は、11月の大統領選で勝ったのはトランプ氏だと主張し、軍を使って選挙をやり直す可能性などに言及している。

ロシア疑惑で有罪の人を次々と

ムラー特別検察官は22カ月間にわたる捜査の末、昨年3月に捜査報告書を司法省に提出。「ロシア政府とトランプ陣営に関係する複数の個人との間に複数のつながりがあることが捜査によって特定されたが、刑事訴追の根拠として十分な証拠ではなかった」、「ロシアの選挙介入行動において、トランプ陣営の関係者がロシア政府と共謀もしくは連携したという事実を確定しなかった」と結論を示した。

一方で、大統領による司法妨害については、「大統領の行動と意図について得た証拠から我々は、犯罪行為はなかったと決定的に断定することができない」と、現職大統領は訴追しないという司法省方針のもと、判断を保留した。

トランプ氏はムラー氏のこの捜査について再三、「魔女狩り」だと繰り返し、この捜査によって有罪となった5人をこれまでに恩赦している。

ただし、マナフォート受刑者の補佐役で、この捜査で検察当局に協力したリック・ゲイツ元被告(執行猶予中)は、恩赦されていない。同様に、検察に協力し、捜査中もその後もトランプ氏を強く非難してきた元顧問弁護士のマイケル・コーエン受刑者(現在、感染予防のため仮釈放中)も、恩赦の対象から外れている。

「いかに刑事司法の制度全体が壊れているか、今夜のことが浮き彫りにしている。自分や家族が、トランプ大統領に脅されながらも、自分はそれでも何十人もの連邦や州の機関、ムラー、議会に協力した……なのにこの犯罪者どもがみんな恩赦を受けた。これは間違っている!」と、コーエン元弁護士はツイートした。

イラク市民殺害も恩赦

トランプ氏は22日夜にも、15人を恩赦し、5人の刑期を減免している。

この中には、2016年大統領選のロシア介入捜査で有罪となったトランプ陣営のジョージ・パパドプロス元外交政策顧問や、共和党関係者が含まれる。さらに、2007年にイラクの首都バグダッドで市民14人を殺害した罪で有罪となった、米民間軍事会社ブラックウォーターの請負業者4人も、恩赦の対象となった。

この決定については、国連人権事務所のマルタ・フルタド報道官がコメントを発表し、「この4名は、第一級殺人罪などで有罪となり、それぞれ禁錮12年から終身の刑を言い渡されていた。それに対する恩赦は彼らをさらに免責してしまうほか、将来的に同様の罪を犯しても構わないのだという印象を他の者に与えてしまう」と批判した。

アメリカ自由人権協会(ACLU)のヒナ・シャムシ氏も、「ブラックウォーター恩赦は恥ずべき真似で(トランプ氏は)いっそう自分の評価を失墜させた」と非難。「トランプ大統領はイラクの被害者の思い出を侮辱し、自分の手で大統領の職を今まで以上におとしめた」とコメントした。