息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

ユージニア

2012-06-20 10:05:58 | 恩田陸
恩田陸 著

数十年前、17人もの死者を出した悲惨な毒殺事件。
現場に残されたのは全盲の少女と“ユージニア”という詩のみだった。
犯人は自殺したと思われていた。

白い百日紅が効果的に使われた夏の描写。
生き残りの少女のどこか現実離れした雰囲気。
それなのに、そこで行われていた恐ろしい出来事。

読みにくいわけではないのに、一度では理解しきれない。
いや、読んでストーリーを理解してはいるのだが、さりげない会話や
描写に込められた小さな秘密までは拾い集めることができない。

だから、再読すると印象が変わるのがおもしろかった。

ミステリの体裁をとっているが、すべての謎がすっきり解決、しない。
ただ、盲目の美少女が手に入れたくてあがいていたものが“ユージニア”
であったということはわかった。

たくさんの人の視点が交差し、時代もさかのぼりつつ語られる話だ。
そしてそれだけの多角的な視点がなければ、謎のままに終わったに違いない。

真理子の青春日記&レター

2012-06-19 10:12:35 | 著者名 は行
林真理子 著

近著はさらっと目を通すくらいになってしまったが、かつてはさんざん読んだ
著者の作品。
時々ふと読みたくなって、ぼろぼろの文庫を引っ張り出してみたりするのだが、
その中でもこれは逸品なのだ。

まさにタイトルどおりなのだが、第一章は大学卒業時就職に失敗、無職の貧民となってしまった
時代の日記。低賃金のアルバイトで食いつなぎ、洋服も買えないと嘆き、それでも
転機をつかもうとする姿には励まされる。
そして第二章は同時期、友人にあてて書いた手紙。まったく同じ出来事も友人に語るときは
ユーモアに満ち、愚痴は自虐ギャグへと変わる。

そして第三章でいっきに現在(といっても執筆当時なのでずっと昔。直木賞受賞の頃ね)へ。
望む仕事を手に入れ、経済的にもゆとりができ、成功者となっている。

ジャンプするためには体を沈める。
深く沈めたほうが高く跳べる。
恵まれなかった若い時代は、彼女にとって原動力だったのだろうなと思う。

そしてもっとすごいことは、その成功をずっとキープしていること。
華やかな世界も、人脈作りも、一度味わうなら楽しいばかりだけど、続けていくのは
大変なことだ。
私はそういうことが本当に疲れてダメなタイプなので、つくづく感心する。
とはいってもそんな成功経験はないわけだが。性格的なものね。

それにしてもこの時代、不況も女子大生の就職難も悲惨だったようだが、それでも
未来への明るい希望はあったのだなあ。なんていうか、未来が悪くなるはずがない、という
信頼のようなものを感じるのだ。う~ん、今って生きづらい時代なんだな。

おぢいさんのランプ

2012-06-18 10:48:44 | 著者名 な行
新美南吉 著

教科書にも使われているし、絵本にもなっているから、子どもの頃の
思い出にある人が多いかも。

まだまだ貧しい時代、文化の発展と新旧の入れ替わりが始まったときのこと。
身寄りのない少年が、仕事で訪れた町でみかけたランプ。
まだ暗闇の残る地元にこれを普及させたいと考え、ランプ売りとして生計を
建てるようになる。人々に喜ばれ、成功を収める彼。
しかし、時代の流れは残酷だった。

電気の供給が始まり、自分のランプが用無しになることを恐れた彼は、電気の
悪評を広めようとしてしまう。思い余って放火に及ぼうとしたとき、古い
火打ち石ではものの役に立たないことに気付く。

古いものと新しいもの。
その変化についていくこと。

年をとればとるほど固くなる思考。

これはいつの世にも課題なのだな、と思う。
譲りたい、時代遅れの想いがやまやまでも、暮らしのためにそういえない。
結果、あるべき進化を止めてしまうこともあるのかもしれない。

子どものための物語なのに実に深い意味をもつ。
胸が痛くなったり、はがゆい想いをしたり、のめりこんで読んでしまうのは
私だけではないはずだ。

徳川将軍家十五代のカルテ

2012-06-17 10:59:38 | 著者名 さ行
篠田達明 著

徳川家の歴代将軍のメディカル・チェック。
すごく面白い視点だ。
芝・増上寺や上野・寛永寺に残る棺の調査にもとづく記録を調べると、身長実測値と
位牌の高さはほぼ近いという。
ふ~ん、と思って改めて見ると、みんな小さい!

なんとなく大柄なイメージの八代・吉宗の身長は、実はわずか155センチメートル程度。
当時の江戸庶民の平均値と変わらないらしいが、現代においては相当小柄。
五代・綱吉など124センチメートルというから、小学校低学年程度だ。

持病や死因にも時代が表れる。
平和が続き、大切に育てられた跡取りになるほど、健康には注意しているのに、
栄養学への知識がない時代でもあり、脚気などで命を落としている。
また、はしかやインフルエンザなどの流行病も今では考えられないほどに
恐ろしいものだった。

だからだろうか、家康は薬草について膨大な知識を学び、研究している。
健康でなければ他者を蹴落とすことはおろか、志なかばにして命を落とす可能性も
あったのだから。

もめごとを避けるために、長子相続を徹底しサポート体制をととのえていくと、
当然ながら器でない人が地位に就くことも出てくる。
虚弱体質であったり、発達障害であったり、放蕩者であったり。
皮肉なのは、そこまで周囲をととのえても、将軍家直系の将軍は寿命が短く、
養子で他家から入った将軍が長命かつ子孫も繁栄しているということ。

家を守るというのもおおごとのようだ。

一章ずつ各将軍に着目して読みやすくまとめてある。
歴史を違う切り口から見る作品としておすすめだ。

勉教

2012-06-16 10:52:19 | 著者名 や行
吉村達也 著

“勉強”の誤植ではない。
教は宗教の“教”。天才児たちが自らの大脳の中に神がいるとしてつくった
宗教を指す。

都内の私立小学校で3年生の担任をもつ吉野亞夜花は、モンスターペアレントへの
対応に悩み、自殺する。部屋には連続殺人鬼「フィンガー・ハンター」の被害者たちが
失った指が並べられていた。

亞夜花の教え子たち5人に共通する秘密。
大脳が異常発達したことで、姿は子ども、中身は猟奇的な大人、という危険な存在が
誕生していたのだ。
彼らのもくろみは勉強を重ねることで、より優秀になり、大脳のなかの神に力を
与えること。それはいつのまにか、爆発物を使ったテロへと目標を定めつつあった。

悪名高い「ゆとり教育」への抵抗や妊婦の超音波診断を悪用した胎児への実験。
興味深い題材を取り入れているが、いまひとつ生かし切れていない感じが惜しい。
たとえばモンスターペアレントの描写は、どちらかというと平等のみをうたう
公立にありがちなタイプで、舞台となるユニークな校風の私立、しかもハイレベルで
裕福な家庭を対象にした学校とはかみ合わない。

天才児たちの描写もちょっとチープというか、もう少しリアリティが欲しかったなあ。
特に逃亡中のシーンは、心の揺れなどがよく描き出されているだけに、物足りない
部分との対比が大きく残念。

事件を解決に導く超能力者たちの活躍はお見事だが、ちょっと予定調和的なのも事実。
それぞれが違う能力を生かし切るのはいいが、全員に活躍のステージを用意して
いるのが、レンジャー戦隊的というか。

テンポよく読めて、面白いのは認める。

しかし、これって「警視庁超常犯罪捜査班 File#2」なのね。
またやってしまいました。#1はもちろん読んでない。
文中にやたら「ミステリオ」の事件という言葉が出てくると思ったら、
それが#1の事件のことだった。
今度読んでみよう。