息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

西太后とフランス帰りの通訳

2013-05-21 10:47:59 | 著者名 わ行
渡辺みどり 著

西太后に仕えた通訳であり、女官長を務めた女性の物語。
清の末期を飾る豪奢な暮らしと独特の文化が、帰国子女の視点から語られる。

う~ん、かなり期待はずれ。
確かに初めて知るような習慣があったり、華やかな衣装や調度の説明なども
面白いところは多々あるのだが、そこから先が知りたい。
すべて貴重とされるものや技術には何らかの根拠や伝統などがあると思うが、
名前が列記されるだけでは、ふ~んという感じでもったいない。

ヨーロッパで育ち、英語、フランス語に堪能な主人公・徳齢が、初めて知る
祖国の宮廷に驚くという話はあるのだが、具体的な戸惑いや人間関係などの
細かい描写は非常に少ない。いくら聡明であっても良家の子女であっても、
価値観が根底から覆るほどの変化があると思うのだが、それには触れられない。

また、それほどまでに西太后に気に入られた理由も曖昧だ。
確かに語学堪能で海外事情に通じた女官などいなかったであろうが、それだけで
いきなり重用されるものなのか。
また、語学ができることと通訳とはまったく別のことであろうと思うが、そこを
彼女がどうクリアし、学んだのかも知りたかった。

それに、全く同じ内容の文章が見開き中に2回出てくるなど、えっと思う部分があり、
途中でかなり読む気がそがれた。
会話文が作りすぎたセリフのようなのもかえって読みづらい。
皇室ものが得意な著者だけによいしょ記事っぽいのが裏目に出たか。

というわけで、なかなか入り込めなかったものの、清朝の結婚制度や
西太后の意外な西洋への関心の高さなど、興味深いこともあった。

波瀾のプリンセス 秩父宮勢津子妃の昭和史

2013-04-23 10:27:18 | 著者名 わ行
渡辺みどり 著

プリンセスものが好き、というよりは、
変動する時代を俯瞰するのに、選ばれし立場の方たちの目が
最もわかりやすいからだ。
だからあまりにももちあげるばかりの文章では物足りないし、
かと言って頭から批判的なものも読みづらい。
なかなか難しい。

勢津子妃は松平家出身。父は外務官僚だったことから出生地は
イギリスである。
英語、フランス語に堪能で、ジョージ六世の戴冠式をはじめ、
外交での華やかな場面が印象深い。

一方でアメリカから帰国直後の結婚は、古いしきたりに縛られた世界に
馴染むため大変な努力をされているし、筆頭宮妃として何かと先頭に立つ
場面はご苦労の連続だったと想像できる。
その上、秩父宮の長い闘病と敗戦前後の窮乏生活。
義妹にあたる松平豊子の『春は昔──徳川宗家に生まれて』の中で、
よく東京からの土産物を渡したり、実家との連絡をとりもったりという
場面が出てくるが、それも病床の夫の代理をつとめるためだったのだ。

2・26事件における立場の難しさ、名前があるゆえに利用されてしまう危険、
戦争への関わりと時代の流れ。
一般の民衆と違い、知っていたからこその苦しみもあったのだろう。

つくづく思うのだが、陸軍大学など学問として戦争を研究するところは
あったのに、最終的に精神論になだれ込むのはどうしてなのか。
結局戦争とは行き着くところが愚かだからどうでもいいのか。
よくわからない。

結論からいって、本書はやや美化に走りすぎだった。
そこはちょっと残念。

虫送り

2012-10-26 10:22:31 | 著者名 わ行
和田はつ子 著

角川ホラー文庫って、お手軽系怖い話の宝庫だと思う。
ゆっくり本を選ぶ時間がないとき、何か読むもの読むもの!という禁断症状のとき、
とりあえず買ってみたりする。
そして時々大嫌いなグロ系を読む羽目になったり、怖けりゃいいんでしょ的な
ハズレ(自分的にね)をつかんだりもするわけだ。
これもそんな感じで買った。

閉鎖的な過疎の村を舞台に、子供たちの性病蔓延、生物農薬のテントウムシの異常繁殖、
昔から伝わる虫送りの伝統などなど伏線ぽいものはてんこ盛り。
しかし、残念ながらこれらがきれいに収まることはない。
面白そうだなあとおもうのだけれど、いつのまにかうやむやになって、話は違う方向へと
進んでいくのだ。ああもったいない。

ひたすら虫が登場するので嫌いなひとは絶対無理かも。
虫に殺される場面など、はっきり言って思い出したくないレベル。
血液のなかに蠢く虫なんて本当に気持ち悪い。

というわけで、期待しつつ読みすすめていったが、結局そのようなことは起こらず
終わってしまいましたよという感じ。
テーマとか舞台設定とかは好みなだけに残念。

古書店アゼリアの死体

2012-04-17 10:20:55 | 著者名 わ行
若竹七海 著

主人公・真琴はとにかく不運だった。
一生懸命働く普通の31歳。編集プロダクション勤務だから、
多忙な日々と理不尽なクライアントに振り回されているけれど、
その分年齢に対する無駄な焦りはない……はずだったのに。

編プロは倒産、気晴らしにホテルをとったら火事に巻き込まれ、
焼死体まで目撃するはめになる。不幸は不幸を呼ぶもので、
なぜだか新興宗教にまで追いかけられ、住まいまでも捨てる
はめに陥る。
やけくそで海辺の町へ向かい、「バカヤロー!」と叫ぶが、
そこにあったのは水死体。
わけがわからないままにぐんぐん進む巻き込まれ系物語。

ストーリー自体は地元の名家や財産争い、地元企業の力関係に
殺人が絡むというありがちなものだが、異色なのは盛りだくさんの
ロマンス小説のエッセンスである。
といっても、真琴の恋愛は脇役も脇役、ロマンスは真琴が店番をする
古書店アゼリアの本棚が舞台である。
オーナーの紅子は地元の名士、そして独身、ロマンス小説のエキスパート。
趣味と好みだけでつくられたような、そして潤沢な資金と豊富な知恵を
注ぎこまれたのがアゼリアである。真琴はその豊富な知識と本への愛を
見込まれて、宿と職にありつくことになったのだ。

ワガママなお金持ち、箸にも棒にも引っかからないのにとてつもない
美少女のお嬢様、名士の指示とあれば死体の身元までいつわっちゃう
医師、とキャラクターは濃い。警官たちはもっと濃い。
それなのにあまり嘘くさくならず楽しく読めるのはすごい。

ただ、残念ながら私はロマンス小説の知識がほぼ皆無。
巻末に解説もあるのだけれど、これってわかってる人が読んだら
100倍、いや1000倍も面白いのではないだろうか。

悪いうさぎ

2012-01-29 10:58:34 | 著者名 わ行
若竹七海 著

30代・女子・フリー調査員の葉村晶。小さな探偵事務所と契約し、
声がかかれば出かけていく。
ある日、大至急と呼ばれていったのは、家出した女子高生・ミチルを
連れ戻す仕事。楽勝と思いきや思わぬ展開にケガまでしてしまう。

これを機にたてつづけに事件が起こり晶は巻き込まれていく。
姿を消した少女は複数。“ゲーム”の指す意味とは。

謎を追う晶は産廃廃棄場に監禁されたまま置き去りになるはめに
なってしまう。何のためにこんなことが行われるのか。
一見関係なさそうな女子高生たちと犯人の接点はどこにあったのか。

終盤“うさぎ”の意味がわかったとき、ぞっとする人は多いだろう。
こいつらは関係ありそうだ!という疑いは初期からもっていても
最期にこんな展開があるとは予想できないに違いない。

普通の地味な女性を装いながら、いったん仕事となるとタフで
たくましい晶の姿には、すがすがしささえ感じる。
まあ調査なんてそこくらいじゃないとできないんだろうけどね。

物語の構成、登場人物のキャラクラー、どれひとつとっても
秀逸。しっかり引き込まれてしまう。