オバマ大統領は、英・国民投票で離脱派勝利を受けてキャメロン英首相と電話会談した際、開口一番「参ったな」と話しかけたらしい。具体的にどんな英語を呟いたのか興味があるが、何となく共感したくなるような様子だ。なんと北朝鮮からも、朝鮮労働党機関紙・労働新聞の論説で「世界の多くの国々が深い憂慮を持って注視している」などと心配される始末である。
それだけならまだしも、今日の日経・夕刊には、「EU離脱 広がる『後悔』」と題する記事が、それほど大きくはないものの一面左隅を飾っていた。テレビ番組で離脱へ投票したことを「後悔している」と告白する有権者が続出、とあり、国民投票のやり直しを求める署名が増え続ける中、一部議員は投票に法的拘束力がないことを理由に、離脱手続きに入らないよう求め続けた、ともある。また、米グーグルによると、離脱派勝利後に、英国サイトでEUについて最も検索回数が多かった質問は、「EU離脱は何を意味する?」で、以下「EUって何?」、「どの国がEUに含まれるのか」、「我々がEUを離脱することで何が起こるのか」、「何カ国がEUに所属しているのか」だったという。絶対的な検索件数が分からないので何とも言いようがないが、かなりの数に上るとすれば、ちょっと唖然とする状況ではある。
BBC電子版が掲載した年代別投票行動が興味深い。それによると若年層ほど離脱支持は少なかったようで、65歳以上で離脱派は60%に上ったのに対し、最も若い18~24歳では僅か27%に過ぎなかったらしい。そのため、米ワシントン・ポスト紙の投稿サイトに、「戦後のベビーブーム世代の判断ミスによって金融危機が引き起こされ、多くの若者が国境を越えると信じてきた未来は奪われてしまった」といった厳しい見方が載っているらしい。さながらシルバー民主主義の負の側面だ。また、地域別にみると、イングランドでは離脱支持が多数を占めるが、ロンドンでは残留派が上回ったらしく、ある署名サイトには、ロンドンが英国から「独立」し、EUに加盟することを求める請願が出されていて、15万人以上が賛同したという。ロンドン市長カーン氏は残留派として活動し、投票結果が判明した後も、「EUに残留した方がいいと信じている。スコットランドや北アイルランドとともに、ロンドンがEUとの離脱交渉で発言権を持つことが重要だ」との声明を出したという(産経Web)。さらに英エコノミスト紙によると、教育程度が低いほど離脱派が多いという相関が見られるという。移民に職を奪われかねない単純労働者の感情の表出だとすると理解しやすいかも知れない。
本当に英国はそれでよいのだろうか。俄かに信じ難い混迷ぶりだ。
さらにひとつ、追い討ちをかけるつもりはないが、専門家(北海道大学で国際政治学を専攻する鈴木一人教授)の仮説(ご本人は単なる一つの「思考実験」だと仰る、言わば「思考の遊び」)が面白かったので、要約して拾ってみる。
(1)今回の国民投票は必ずしも法的拘束力があるものではなく、最終的な決定は議会でなされなければならない(英国には「議会主権」という概念があり、全ての国家的な決定は議会で行うことになっているため)。とはいえ、今回の国民投票の結果を無視することはできず、いかに残留派が議会内に多いとはいえ、離脱する方向でこれからEUと交渉するということを決定することになると思われる。
(2)EU離脱のための交渉には時間をかけて(2~3年くらい?)、英国のあらゆる法律や政策の中にはEUが入り込んでいるため、それらを解きほぐしながら、EUの影響を受けないようにするための調整をしていく必要がある。つまり、離脱派は勝利したにもかかわらず、状況がなかなか変わらず、失望感や残念な思いが募る可能性がある。
(3)他方、キャメロン首相は辞任を表明しており、後継の内閣(例えば離脱派の中心だったボリス・ジョンソン議員を軸に、イギリス独立党(UKIP)などが参加)がEUと交渉することになる。しかし望ましい結論を得られるのかどうか、またEUとの交渉以外の政治をきちんとマネージできるのかどうか、疑問があり、これが離脱派に対する失望感に繋がる可能性がある。
(4)イギリスの総選挙は2011年の任期固定制議会法によって5年毎に行われることになり、次は2020年の予定。しかし、EUとの交渉の進捗具合いや国民の離脱派に対する失望が高まると、残留派が多くいる議会では解散の動議が出て総選挙になる可能性がある。その場合、離脱交渉を続けるかどうかを争点とする選挙になり、離脱派の勢いが落ちているのであれば残留派が優位に選挙を進めて勝利するかもしれず、そうなれば離脱交渉が中断され、結局、現状維持に戻る可能性がある。
私たち日本人は、現代の「不磨の大典」である憲法の改正のように、国民投票こそ最終かつ至高のものと思い込んでいるが、英国ではどうもそうではないらしい。まだまだ予断を許さないという、一つの「可能性」の議論なのだが、さて、そんな先の話ではなく、まだまだ狂想曲は続きそうだ。
それだけならまだしも、今日の日経・夕刊には、「EU離脱 広がる『後悔』」と題する記事が、それほど大きくはないものの一面左隅を飾っていた。テレビ番組で離脱へ投票したことを「後悔している」と告白する有権者が続出、とあり、国民投票のやり直しを求める署名が増え続ける中、一部議員は投票に法的拘束力がないことを理由に、離脱手続きに入らないよう求め続けた、ともある。また、米グーグルによると、離脱派勝利後に、英国サイトでEUについて最も検索回数が多かった質問は、「EU離脱は何を意味する?」で、以下「EUって何?」、「どの国がEUに含まれるのか」、「我々がEUを離脱することで何が起こるのか」、「何カ国がEUに所属しているのか」だったという。絶対的な検索件数が分からないので何とも言いようがないが、かなりの数に上るとすれば、ちょっと唖然とする状況ではある。
BBC電子版が掲載した年代別投票行動が興味深い。それによると若年層ほど離脱支持は少なかったようで、65歳以上で離脱派は60%に上ったのに対し、最も若い18~24歳では僅か27%に過ぎなかったらしい。そのため、米ワシントン・ポスト紙の投稿サイトに、「戦後のベビーブーム世代の判断ミスによって金融危機が引き起こされ、多くの若者が国境を越えると信じてきた未来は奪われてしまった」といった厳しい見方が載っているらしい。さながらシルバー民主主義の負の側面だ。また、地域別にみると、イングランドでは離脱支持が多数を占めるが、ロンドンでは残留派が上回ったらしく、ある署名サイトには、ロンドンが英国から「独立」し、EUに加盟することを求める請願が出されていて、15万人以上が賛同したという。ロンドン市長カーン氏は残留派として活動し、投票結果が判明した後も、「EUに残留した方がいいと信じている。スコットランドや北アイルランドとともに、ロンドンがEUとの離脱交渉で発言権を持つことが重要だ」との声明を出したという(産経Web)。さらに英エコノミスト紙によると、教育程度が低いほど離脱派が多いという相関が見られるという。移民に職を奪われかねない単純労働者の感情の表出だとすると理解しやすいかも知れない。
本当に英国はそれでよいのだろうか。俄かに信じ難い混迷ぶりだ。
さらにひとつ、追い討ちをかけるつもりはないが、専門家(北海道大学で国際政治学を専攻する鈴木一人教授)の仮説(ご本人は単なる一つの「思考実験」だと仰る、言わば「思考の遊び」)が面白かったので、要約して拾ってみる。
(1)今回の国民投票は必ずしも法的拘束力があるものではなく、最終的な決定は議会でなされなければならない(英国には「議会主権」という概念があり、全ての国家的な決定は議会で行うことになっているため)。とはいえ、今回の国民投票の結果を無視することはできず、いかに残留派が議会内に多いとはいえ、離脱する方向でこれからEUと交渉するということを決定することになると思われる。
(2)EU離脱のための交渉には時間をかけて(2~3年くらい?)、英国のあらゆる法律や政策の中にはEUが入り込んでいるため、それらを解きほぐしながら、EUの影響を受けないようにするための調整をしていく必要がある。つまり、離脱派は勝利したにもかかわらず、状況がなかなか変わらず、失望感や残念な思いが募る可能性がある。
(3)他方、キャメロン首相は辞任を表明しており、後継の内閣(例えば離脱派の中心だったボリス・ジョンソン議員を軸に、イギリス独立党(UKIP)などが参加)がEUと交渉することになる。しかし望ましい結論を得られるのかどうか、またEUとの交渉以外の政治をきちんとマネージできるのかどうか、疑問があり、これが離脱派に対する失望感に繋がる可能性がある。
(4)イギリスの総選挙は2011年の任期固定制議会法によって5年毎に行われることになり、次は2020年の予定。しかし、EUとの交渉の進捗具合いや国民の離脱派に対する失望が高まると、残留派が多くいる議会では解散の動議が出て総選挙になる可能性がある。その場合、離脱交渉を続けるかどうかを争点とする選挙になり、離脱派の勢いが落ちているのであれば残留派が優位に選挙を進めて勝利するかもしれず、そうなれば離脱交渉が中断され、結局、現状維持に戻る可能性がある。
私たち日本人は、現代の「不磨の大典」である憲法の改正のように、国民投票こそ最終かつ至高のものと思い込んでいるが、英国ではどうもそうではないらしい。まだまだ予断を許さないという、一つの「可能性」の議論なのだが、さて、そんな先の話ではなく、まだまだ狂想曲は続きそうだ。