風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

アメリカの混迷

2021-01-13 00:26:40 | 時事放談
 如何にトランプ大統領が行くところ波乱を巻き起こすとは言え、衝撃的な映像だった。6日、次期米大統領の正式認証の日に、民主主義の殿堂とも言えるアメリカ議会が、トランプ支持者と見られる暴徒によって襲撃された。「米英戦争時の1814年8月に英軍が議会に侵入して以来の暴挙」(米連邦議員)とまで言われた。なお、この米英戦争は、「無償の安全保障」としての大西洋によってヨーロッパから隔てられたアメリカが、その中枢に攻撃を受けた、アメリカ人にとって忘れられない歴史的記憶である(911同時多発テロのとき、自爆テロを真珠湾攻撃に擬える向きもあったが、心ある人は米英戦争以来の本土・中枢への攻撃と言った)。また、このときに焼け焦げた大統領官邸の壁を白のペンキで塗ったことから、ホワイトハウスと呼ばれるようになった・・・とは余談である。
 昨日、下院で、合衆国憲法修正第25条に基づく罷免(大統領が職務不能と判断された場合、副大統領と閣僚の過半数が議会にその旨通告し、罷免することができる)を求める決議案と、それが叶わない場合に弾劾を求める決議案が提出された。何としてでもこの「暴挙」のオトシマエをつけろ、ということだろう。
 バイデン氏は「民主主義や法の支配への攻撃だ。議会に侵入した者たちはデモ隊ではなく、反乱者、テロリストだ」 「トランプ大統領が煽った」と非難した。トランプ大統領のツイッターは既に凍結されて過去のツイートを見ることが出来ないが、facebookをチェックしたところ、当日15:14時点で、”I am asking for everyone at the U.S. Capitol to remain peaceful. No violence! Remember, We are the Party of Law & Order --- respect the Law and our great men and women in Blue. Thank you! とのメッセージを出していることが分かった。前日や当日朝の演説から、煽ったと言われればそれまでだが、虚勢を張るトランプ氏の性格からしても、予想外の展開になったことに戸惑っているように見えなくはない(が、少なくとも未必の故意があったとは言えそうだ)。左派は、クーデター未遂と罵り、右派は、アンティファなどの左翼過激派がトランプ支持者を装って実行したと主張し、その中間あたりでトランプ大統領はハメられたとシニカルに眺める人がいる。陰謀論の是非は分からない。
 この一ヶ月間、トランプ大統領の執拗なツイートに見られる往生際の悪さこそ、ジョージア州の上院2議席を巡る決選投票で2議席とも失うに至った要因だと思うし、正直なところここまでやるかと呆れた思いだが、ロイター通信とグローバル世論会社イプソスの共同世論調査(1月4~5日実施)によれば、共和党支持者におけるトランプ大統領の支持率は77%と、昨年11月3日の大統領選挙直前に行った同調査の87%から僅か10ポイントしか落ちていない(10ポイントも落ちたという識者がいるが、依然77%の支持がある方が驚きではないだろうか)。何より大統領選挙では、700万もの大差をつけてバイデン氏が勝ったと言う識者がいるが、7400万もの国民がトランプ氏に投票したことの方が驚きではないだろうか。
 そんなトランプ支持の強固さに呼応するかのように、暴動を扇動するリスクがあるとして、ツイッター社がトランプ大統領のアカウントを永久凍結したことに対し、ドイツのメルケル首相は報道官を通じて「問題だ」と苦言を呈した。トランプ大統領とは犬猿の仲と言われたメルケル首相が、である。かつてヴォルテールが言った「私はあなたの意見に反対だが、あなたがそれを言う権利は命を張っても守る」という故事を彷彿とさせる。トランプ氏は、言わばSNSによって2016年の大統領選挙を勝ち抜いたと言えるし、皮肉にもそのリベラルなSNSから見放されて2020年の選挙では敗れたようなところがあるが、その是非はともかく、こうしたアメリカ社会の分断は今や見境がないまでに深刻だという現実こそが重要であろう。
 よく言われることだが、アメリカにおける分断は、トランプ大統領が生んだものではなく、既にあった分断の中から時代の要請をもってトランプ大統領が出現したと考えるべきなのだろう。トランプ大統領はその分断を利用し、分断を鎮めるどころか煽ったとも言えるが、今回の暴動でも、トランプ大統領の誤解を招きやすい言動は、招きやすいのではなく真実そのものかも知れないし陰謀論にはめられているのかも知れないが、いずれにしても、トランプ氏がいなくなったところで、この分断は残るものだということをあらためて思い知らされて、愕然としたのであった。まあ、対岸の火事ではないのかも。
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