風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

香港を巡るジレンマ

2019-09-05 02:06:51 | 時事放談
 その昔(30数年前)、国語辞典の品定めとやらを、某週刊誌が企画した(確か文春だったと思う)。私が持っていたのは「新明解国語辞典 第二版」(金田一京助編集代表、三省堂)で、中学生になったときに子供なりに吟味して選んだお気に入りだったが、残念ながらベスト3には入らず、名物辞書として紹介されたと記憶する。その例として「ジレンマ」の説明がユニークだと、わざわざ引用されていた。確かに今、赤線を引いてボロボロになって手元にあるものを読んでも、なかなかの傑作で(笑)、以下に引用する。

 「ジレンマ」〔ド Dilemma=二つの仮定・命題〕 〔大学紛争の時に〕学生の追及に終始だんまりを決め、現職にとどまっていると無能ぶりを発揮したことになる。また、辞めれば、自らの無能ぶりを認めたことになる。〔以上、大前提〕 自分は辞めるか辞めないかのいずれしかない。〔小前提〕 故に自分は、どちらにしても無能だ。〔帰結〕 とするような物の考え方。両刀論法。〔以上の考え方に従えば、開き直って辞めない方が得だということになる。俗に、板挟みになって、進退窮まる意にも用いられる〕

 大学紛争という古色蒼然としたネタを使って、若い人にはピンと来ないだろうが、当時の私は、編者の中に実際に困った人がいたのではないかとお察しした(笑)
 冗談はさておき、今朝の日経で、香港政府トップの林鄭月娥行政長官が、8月下旬に行われた財界人の非公開会合で 「もし私に選択肢があるのなら、まず辞任して深く謝罪したい」と発言したという記事を読んで、まさに「ジレンマ」だなあと気の毒に思ったのだった。「行政長官は不幸にも2人の主人に仕えなければならない。中国政府と香港の人々だ」と吐露し、米中対立の真っ只中で、今回の「逃亡犯条例」改正問題は「国家主権、安全保障のレベル」に発展し「行政長官の政治的な裁量はとても、とても、とても限られている」とぼやいたという。新明解国語辞典風に言うと、中国共産党からは「譲歩するな」と早期鎮静化を要求され、辞任も許して貰えないが、デモ隊からは五大要求で突き上げられ、とても中国共産党が受け容れられる代物ではなく、混迷は深まるばかりで、俗に進退窮まった状態・・・ということだろう。
 それにしても、香港の抗議行動が止まらない。米中対立の真っ只中で、アメリカが裏で(資金援助するなど)糸を引いているのではないかと、中国共産党でなくても陰謀論を信じたくなるシチュエーションだが、それだけで若い人たちをこれほど長い間、動員し続けるのは容易なことではないだろうとも思ったりする。
 この月曜日に新学期が始まったが、大学生や中・高生の一部が授業をボイコットしたらしい。クラウド・ファンディングで制作され、香港中文大で公開された「香港民主の女神像」は、天安門事件の際に民主化運動のシンボルになったことに倣ったもので、高さ4メートル、重さ100キロ、ヘルメットとゴーグル、防毒マスクを着用した女性が「光復香港 時代革命」(香港を取り戻せ、革命の時だ)と書かれた旗と傘を手にしているのだそうだ。今日のテレビ演説で行政長官は「逃亡犯条例」改正案を正式撤回すると表明したらしいが、デモ当事者たちは誰も信じない。「偽の譲歩」と呼び、一部のデモ参加者の怒りを和らげデモ隊の分断を図っているとか、さらには政府の決定に不満を持つ市民がデモを継続した場合に通信や集会の自由などを制限する「緊急状況規則条例」を発動する口実にしようとしているとの疑念を表明した。
 進退窮まるのは勿論、中国共産党も同じだ。事態を放っておけば中国共産党統治にキズがつくし、いずれ本土に飛び火しないとも限らない。さりとて武力制圧すれば天安門事件の二の舞で国際社会から制裁を受ける。香港当局は、雨傘運動で奏功した「消耗戦」から、リーダー等を強制逮捕する「殲滅戦」に移ったとも伝えられるが、若者たちには、国際世論をバックに、自由で民主的な香港の火を消さないよう頑張って欲しいと思う。
コメント
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