風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

穏やかなフェルメール

2012-03-14 22:27:36 | たまに文学・歴史・芸術も
 今日、会社をサボって、渋谷BUNKAMURAザ・ミュージアムで開催されているフェルメール展を見に行って来ました(サボると言うと人聞きが悪いですが、ちゃんと半日休暇を申請しました)。
 キャッチ・コピーは「門外不出!アムステルダム国立美術館所蔵≪手紙を読む青衣の女≫修復後世界初公開そして日本初上陸!」というもので、この絵はモノトーンに近い抑えられた色調の中で、修復前に比べて、フェルメール・ブルーと呼ばれる天然ウルトラマリンの青が鮮やかに蘇って、印象的な作品に生まれ変わったことが紹介されていました。この作品を含めて、展示されているフェルメール作品は実は3点のみでしたが、同じ17世紀のオランダの風俗画家の写実主義的な作品が、多数、並行展示され、独特の雰囲気を醸し出していました。日常を切り取っただけに見える風俗画ですが、その多くは、背景に描かれている壁の絵や地図や配置されている小道具などを通して、オランダの諺や格言、道徳的なメッセージを示唆しているのだそうです。
 中でも、タイトル「フェルメールからのラブレター展」に触れられているモチーフとしての手紙は、ヨーロッパで最も識字率が高かった当時のオランダにおいて、郵便制度が発達するにつれ、それまでの公的な通知や商業的な情報発信という役割に加えて、個人が思いを伝える手段として一般的になり、人々のコミュニケーションのあり方を大きく変えた時期にあたるそうです。現存するフェルメールの作品30数点と少ない中で、手紙をモチーフにしたものは6を数え、当時の静かな高揚感が伝わってきます。
 今でこそ、一人一台の携帯電話をもち、いつでも望む時に即時的にピンポイントでコミュニケーションが取れる時代ですが、ほんの20年前は、例えばトレンディ―・ドラマの走りとなった「東京ラブストーリー」では、待ちぼうけを食わされる場面が当たり前のように何度も出て来ます。電話の時代とは言っても固定電話中心の当時は、彼女が自宅にいれば、お父ちゃんやお母ちゃんが電話に出るかも知れず、電話をかけること自体がハードルが高かったものですし、待ち合わせて外出してしまえば、なかなか連絡が取れずにやきもきし、すれ違いも多くて、郷ひろみが「よろしく哀愁」で歌ったように、「会~え~な~い~時間が~愛(あ~い~)育(そ~だ~)てるのさ~」というようなところもある、牧歌的な時代でした。ましてフェルメールの当時は、もとより電話はなく、手紙の授受には数日かかり、もし恋人が商船で海外に働きに出ていたら返信を貰うまで2年もかかる、というような、今の私たちには俄かに想像を絶する世界です。
 そんな時代背景に思いを致しつつ、あらためてフェルメールの描く世界を眺めてみると、静けさの中で、なんとも穏やかな幸福感に充ち満ちた明るさに溢れていることが見て取れます。ここまでお勧めするかのように書いてきたフェルメール展は、実は今日が最終日でした。合掌。
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