風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

大震災(8)産業復興

2011-04-02 14:24:09 | 時事放談
 被災者支援が続いています。
 今季のツアー賞金を全額寄付すると表明して世間を驚かせた石川遼選手はスポンサー契約で20億だか30億は稼ぐと言われているので別格だとしても、街頭で募金を呼びかける著名人は後を断ちませんし、実際に被災地を慰問する方もいて、心温まります。無観客での練習試合を続けてきたプロ野球は、この週末に慈善試合を開催し、ようやく観客を楽しませることが出来そうですし、火曜日に日本代表とJリーグ選抜とのチャリティ・マッチを行ったサッカーは、収益金をあげただけではなく、日本代表のスピーディな動きにあらためて目を見張るとか、44歳の看板を背負うカズが辛うじてJリーグ選抜の得点を挙げて、運が強いと言うよりも運を手繰り寄せる強さがあって、舌を巻くほど絵になる男だと、そういう面でも楽しませてくれました。支援の輪に入らないのは非国民だと言わんばかりの無言の圧力なり空気を感じないわけではありませんが、各人が出来ることをやる、ということで良いと思いますし、現に私は心ばかりの寄付をすることしか出来ません。
 こうして支援が集まりつつあるとは言え、直接の被災者の方々の生活はまだ厳しいことでしょう。更に、その周辺で間接的な被災者とも言える方々のご苦労も忘れてはならないと思います。近隣の茨城、栃木、群馬のホウレンソウが出荷制限になって以降、放射性物質が暫定規制値を下回っていても「関東産」というだけで市場では敬遠されているそうですし、福島県の農家の方が悲観して自殺していたという痛ましいニュースも飛び込んできました。家内によると、近所のイトーヨーカドーの生鮮食料品売場は西日本産しか見られないそうですが、それはイトーヨーカドーのせいではなく、口では被災者支援を叫びながら、安全な食品を選り好みし、ペットボトルの水をしこたま貯め込む私たち消費者の嗜好の問題です。農業や漁業だけでなく、原乳だけでなく牛肉からも暫定規制値を超える放射性セシウムが検出された牧畜業も間接的な被災者です。
 今回の震災では、東北地方の第二次産業の凄さも思い知りました。当初は、日本経済の7%を占めるに過ぎず、日本ひいては世界経済への影響は軽微だと楽観する声があがっていましたが、諸外国ではマネ出来ない部品を作る工場が集積し、一般にサプライチェーンと言われるように、その連鎖の重要なカギを担っているがために、他の部分に波及する負の効果は絶大で、国内に留まらず、GMやフォードをはじめとする世界の自動車産業の13%が生産停止に追い込まれているとまで報道されていますし、世界的企業のノキアもソニーエリクソンもアップルもサムスンも困っていることが伝わって来ます。大震災という危機的状況が、期せずして、完成品のものづくりという面では霞んでしまった日本の、しかも東北地方の部品産業が、今なお健在であることを見せつけるとともに、危機管理が弱いことをも曝け出し、今では外国企業から懐疑の目を向けられ始めていると言います。このまま復興が遅れてしまうと、かつて阪神大震災で、神戸港の荷量が減ってなかなか回復しなかったように、いくらニッポン品質が優れているとは言え、代替品に切り替えられると、将来にわたって致命的な影響を及ぼさないとも限りません。
 被災しなかった私たちは、こうした被災地や間接的な被災地の産業復興を助けてあげたいと思います。勿論、現場での復興が第一ですが、被災地に近いけれども、被災から免れた私たちだからこそ出来ることがあるはずです。被災地やその近郊農家の野菜などの放射線量を測って安全であることをその場で確認する専用売場があっていいですし、復興支援と称してそうした食品を専門に扱う居酒屋や小料理屋があってもいい。そういう意味で、天皇・皇后両陛下が、被災者が避難している東京武道館を訪問されて、床に両ひざをつきながら親しく40分も懇談されただけでなく、本当は被災地を訪問して被災者を励まし、関係者をねぎらいたいという気持ちを強く持っているけれども、捜索活動や原発事故対応のことも考えて控えているというお心遣いは、市民運動家の血が騒ぐのか「視察」と称して現場に押しかけてはありがた迷惑がられる菅総理に聞かせてあげたいですし、何より計画停電の時間帯に、計画停電がなくて良かったねとテレビを見ながら現実逃避してしまう生臭坊主の私たちと違って、停電の有無に係らずきっちり灯りを消してロウソク生活を実践される天皇・皇后両陛下のおこころざしには、頭が下がります。
コメント (2)
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